「うちのお客様のことは、だいたい分かっている」
毎日お客様と話しているオーナーさんなら、
そう感じるのは自然なことです。
それでも、こんな場面はないでしょうか。
・メニューを新しくしたのに、あまり選ばれない
・SNSを更新しているのに、予約につながらない
・通ってくれていた人が、いつの間にか来なくなった
こういうとき、原因は「お客様の本音を、実はあまり知らなかった」ことにあるかもしれません。
この記事では、お客様の頭の中を1枚の紙に整理する「共感マップ」を紹介します。
専門的な知識はいりません。紙とペンがあれば、15分で最初の1枚が書けます。
共感マップとは
共感マップは、特定のお客様1人について、次の4つを書き出して整理するシートです。
マーケティングの現場では、ここに「見ていること」「聞いていること」「悩み」「得たいもの」を加えた6項目で使われることも多いです。
ただ、1人で運営している店なら、最初は4つで十分です。慣れてきたら、悩みと得たいものを足してみてください。
大事なのは、「言っていること」と「考えていること」は別物という点です。
お客様は、思っていることをすべて口にするわけではありません。
たとえば、こんな場面があります。
「じゃあ、また連絡しますね」と言って帰ったお客様が、そのまま来ない
言葉だけを見れば前向きです。
でも本当は「ちょっと高いな」と思っていたのかもしれません。
「予約の取り方が面倒そう」と感じていたのかもしれません。
共感マップは、この「言葉の裏側」を考えるための道具です。
小さな店こそ向いている理由
共感マップはもともと、チームで商品やサービスを作るときに使われることの多い手法です。
でも、個人店には大きな強みがあります。
それは、お客様と直接話せることです。
大きな会社は、わざわざインタビューを設定しないとお客様の声を聞けません。
個人店なら、毎日の接客の中に材料があります。
・施術中や会計中の何気ない会話
・予約時のメッセージやLINEのやりとり
・口コミやアンケートの言葉
・お客様の様子(表情、迷っている様子、スマホを見る回数)
新しく調査をしなくても、すでに手元にある情報でかなり書けます。
15分で書く手順
ステップ1
お客様を1人だけ決める
紙の真ん中に、お客様を1人だけ書きます。
「30代女性」のような括りではなく、実際に思い浮かぶ顔で選んでください。
おすすめは、「もっと増えてほしいタイプの常連さん」です。
その人と同じ悩みを持つ人は、他にもいる可能性が高いからです。
ステップ2
「言っていること」から書く
最初に、実際に聞いた言葉をそのまま書きます。
ここは推測を入れません。
・「忙しくて、なかなか予約が取れなくて」
・「前に行ったお店では、しつこく勧められて困った」
・「おまかせでお願いします」
メモ程度で構いません。思い出せる範囲で十分です。
ステップ3
「していること」を書く
次に、実際の行動を書きます。
・予約は、いつも夜遅い時間に入れる
・来店前に、必ず口コミを見ていそう
・メニュー表をじっと見て、結局いつもと同じものを選ぶ
ここも、見たことや事実をもとに書きます。
ステップ4
「考えていること」「感じていること」を書く
ここは推測になります。
ステップ2〜3で書いた言葉と行動をヒントに、
「この人は本当はどう思っているのだろう」と考えます。
・失敗したくないから、慣れた選択肢にとどまっている
・自分に合うか不安で、新しいメニューは聞きにくい
・忙しい毎日で、店にいる時間くらいは放っておいてほしい
このとき、推測には「?」や印をつけておくことをおすすめします。
事実と推測が混ざると、あとで「本当にそうなのか」が分からなくなるからです。
ステップ5
言葉と行動のズレを探す
書き終わったら、全体を眺めて「言葉と行動のズレ」を探します。
たとえば、次のようなズレです。
・「新しいことも試したい」と言うのに、毎回同じメニューを選ぶ
・「忙しい」と言うのに、予約はいつも直前
このズレが、お客様自身もまだ言葉にできていない悩みのヒントになることがあります。
共感マップで一番価値が出るのは、この部分です。
たとえば、こんな使い方(仮想例)
ここからは、実在の事例ではなく、考え方を示すための例です。
小さな美容室のオーナーが、通ってくれている30代の常連さんを1人思い浮かべて書いたとします。
言っていること:「毎回おまかせでお願いします」
していること:新しいメニューの説明を読むが、結局いつも同じ内容を選ぶ
考えていること(推測):新しいことを試したいが、失敗したくない
感じていること(推測):自分に合うか分からないことへの不安
この例では、「新メニューが選ばれない理由」は、お客様が興味を持っていないからではなく、試して失敗するのが不安だからかもしれない、という仮説が立ちます。
そうなると、打つ手も変わります。
・メニューの説明に「こんな人に向いています」を足す
・お試しサイズや、お客様が選びやすい体験メニューを作る
・施術前に「今日は少しだけ新しいこと、試してみますか?」と声をかける
「もっと宣伝しよう」ではなく、
「不安を減らす工夫をしよう」に方向が変わります。
つまずきやすいポイント
想像だけで全部埋めてしまう
共感マップは、頭の中だけで書くこともできます。
ただ、それだと「自分に都合のいいお客様像」になりがちです。
予約の連絡や会話、口コミなど、根拠になる材料が手元にあるかを確認しながら書いてください。
根拠のない部分は、「仮説」と書いておけば大丈夫です。
全員分を作ろうとする
最初から何枚も作ろうとすると、手が止まります。
まずは1人、1枚で十分です。
2枚目以降は、タイプの違うお客様で作ると、
違いが見えて面白くなります。
書いて満足して終わる
付箋を貼ってきれいにまとまると、
それだけで一仕事終えた気分になります。
でも、共感マップは書くことが目的ではありません。
最後に必ず、「明日から変えること」を1つだけ決めてください。
メニューの説明文でも、最初の声かけでも、予約ページの一言でも構いません。
仮説を確かめる方法
推測した内容が合っているかは、お客様に聞いてみるのが一番です。
ただ、改まったインタビューは必要ありません。
・会計のときに「今日、迷ったところはありました?」と聞いてみる
・予約後のメッセージに、一言のアンケートを添える
・LINEで「どちらが分かりやすいですか?」と2択で聞く
こうした小さな質問を重ねるだけで、
マップの精度は上がっていきます。
まとめ
共感マップは、お客様の言葉・行動・考え・感情を1枚にまとめる、シンプルな道具です。
ポイントは次の4つです。
・お客様を1人だけ決めて書く
・事実と推測を分けて書く
・言葉と行動のズレに注目する
・最後に「変えること」を1つ決める
「お客様のことは分かっているつもり」という感覚は、毎日お客様と向き合っている証拠でもあります。
共感マップは、その「つもり」を、次の一手につなげるための点検表だと思ってください。
まずは、頭に浮かんだ常連さん1人から。
紙の真ん中に名前を書くところから、始めてみてください。