老人ホームの「こんなはずじゃなかった」は、なぜ起きるのか厚労省の苦情事例から見る、料金・契約・サービスの「話が違う」

老人ホームの「こんなはずじゃなかった」は、なぜ起きるのか厚労省の苦情事例から見る、料金・契約・サービスの「話が違う」

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老人ホームを探しているときは、どうしても施設そのものに目が向きます。
部屋はきれいか。食事はどうか。職員の雰囲気はいいか。家から通いやすいか。月額料金はいくらか。
もちろん、どれも大切です。
ただ、実際に入居したあとに問題になりやすいのは、もっと細かな部分だったりします。

「病院への付き添いもしてくれると思っていた」
「以前は散歩に付き添ってくれていたのに、今後は有料と言われた」
「この費用は月額料金に含まれていると思っていた」
「退去するとき、想定していたより高い請求が来た」
こうした「話が違う」は、なぜ起きるのでしょうか。

2026年9月18日に厚生労働省が公表した「有料老人ホームの現状と課題について」には、有料老人ホームをめぐる料金、サービス、契約、苦情相談などがまとめられています。

その中には、全国有料老人ホーム協会に実際に寄せられた相談事例も掲載されています。
通院介助や散歩の付き添いも、施設によって意味が違う
資料には、たとえば次のような相談が紹介されています。
母親がホームの協力医療機関ではない病院へ通っているが、その病院への通院介助は提供しないと言われた。
住宅型有料老人ホームへ住み替えたところ、ホームが指定したケアマネジャーを利用するよう求められた。
両親が散歩をするとき、以前はスタッフが付き添っていたが、今後は自費になると言われた。

こうした事例を見ると、単に「サービスがあるか、ないか」だけが問題ではないことが分かります。
家族が想像していたサービス。
入居前に受けた説明。
契約書や重要事項説明書に書かれている内容。
実際の施設運営。
この間にズレが生じると、「聞いていた話と違う」という感覚につながります。
たとえば「通院介助」と一言でいっても、どの病院でも付き添ってくれるのか、協力医療機関だけなのか、職員が付き添うのか、自費サービスなのかによって内容は変わります。
散歩の付き添いも同じです。
施設職員が通常のサービスとして行うのか、一定回数まで基本料金に含まれるのか、それとも個別の有料サービスなのか。
利用者や家族からすると、すべて「施設がやってくれること」に見えても、契約上は分かれている場合があります。
「月額○万円」だけでは実際の負担は分からない

老人ホームを探すとき、多くの人が最初に見るのが月額料金です。
ただし、その金額だけで毎月の支出を判断するのは難しいところがあります。
厚生労働省資料では、2025年の月額費用について、介護付き有料老人ホームでは「30万円以上」、住宅型有料老人ホームでは「10~12万円」、特定施設ではないサービス付き高齢者向け住宅では「12~14万円」が最多とされています。
ただ、この「月額費用」には注意が必要です。
資料上の月額費用は、
家賃、共益費、基本サービス費、食費・光熱水費
などを合計したもので、介護・医療サービスの自己負担分は含まれていません。
つまり、「月額12万円」と表示されている施設でも、毎月12万円ですべての生活費が収まるとは限りません。
介護保険サービスの自己負担。
医療費。
日用品。
理美容。
おむつ。
通院や外出の支援。
個別の生活支援。
こうした費用が別に必要になる場合があります。
さらに、要介護度や医療ニーズが変われば、利用するサービスや費用も変わる可能性があります。

老人ホームの料金を見るときには、
「月額いくらか」
だけでなく、
「その金額に何が含まれているのか」
を見る必要があります。

退去時の費用も確認しておきたい
厚生労働省資料には、退去時の費用に関する相談事例もあります。
約3年間入居していた父親が亡くなり退去することになったケースでは、入居時にクリーニング費用が約3万円必要と口頭で説明されていたものの、実際には7万9,000円を請求されたという相談が紹介されています。
内訳には、クリーニング代1万5,000円や居室のクロス張り替え費用などが含まれていました。
別の事例では、入居から3カ月で退去した際、敷金からハウスクリーニング代5万円が差し引かれたものの、相談者によれば契約書で定められていた明細の提示がなかったという内容が紹介されています。
ただし、ここで注意したいのは、これらはあくまで「相談内容」だということです。
相談事例だけから、施設側に法的な問題があったと断定することはできません。
それでも、利用者側にとっては参考になります。

口頭で聞いた内容。
契約書に書かれている内容。
実際の請求。
この3つが一致しているかどうかを確認することが重要です。

「聞いていない」と「契約に書いていない」は同じではない
老人ホームに限りませんが、契約をめぐる問題では、人の記憶だけでは確認が難しいことがあります。
「入居するとき無料だと言われた」
「そんな説明は受けていない」
「ずっとやってくれると思っていた」
家族側には、そうした記憶があります。

一方で、施設側には入居契約書、重要事項説明書、管理規程、料金表などがあります。
「言った、言わない」だけになると、確認が難しくなります。
そこで最初に整理したいのは、
何が書面に書かれているのか。
現在どのようなサービスが行われているのか。
実際に何を請求されているのか。
いつ、どのような説明を受けたのか。
という事実関係です。

厚生労働省の標準指導指針では、提供する介護等の内容や費用負担、入居契約上の重要事項について説明することが求められています。
また、契約締結前には、重要事項説明書や入居契約書について、十分な時間的余裕をもって説明するという考え方が示されています。
重要事項説明書は、単に署名するための書類ではありません。
後から「どういう条件だったのか」を確認するための資料でもあります。

「個別に選べるサービス」にも注意する
厚生労働省の標準指導指針では、重要事項説明書に「事業者が運営する介護サービス事業一覧表」や「入居者の個別選択によるサービス一覧表」を添付することとされています。
ここは意外と重要です。
「施設に入っているのだから当然やってくれる」と思っていたサービスが、実際には個別の有料サービスだった。
逆に、別料金だと思っていたサービスが基本料金に含まれていた。
こうしたことはあり得ます。
疑問が出たときには、ホームページだけで判断するのではなく、
重要事項説明書。
入居契約書。
料金表。
個別サービスの一覧。
請求書。
施設から渡された案内。
こうした資料を並べて確認したほうが、状況を整理しやすくなります。
入居後に疑問が出たら、まず4つに分ける
老人ホームについて「何かおかしい気がする」と感じても、すぐに「施設が悪い」「違法だ」と結論を出す必要はありません。

まず確認したいのは4つです。
一つ目は、契約上どうなっているのか。
入居契約書や重要事項説明書、料金表などを確認します。
二つ目は、現在実際に何が行われているのか。
どんなサービスを受けているのか。何を断られたのか。途中で何が変わったのか。
三つ目は、実際に何を払っているのか。
月々の請求書を見ると、基本料金とは別に何が加わっているのかが分かります。
四つ目は、公的なルールではどうなっているのか。
有料老人ホーム、介護付き有料老人ホーム、住宅型有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅では、制度や提供されるサービスの仕組みが異なります。
この4つを分けるだけでも、「何が疑問なのか」が見えやすくなります。

契約書は入居後にも役に立つ
契約書や重要事項説明書は、契約前に読むものというイメージがあります。
しかし、入居後に疑問が出たときにも役立ちます。
このサービスは基本料金に含まれていたのか。
別料金はいくらなのか。
料金を変更するときは、どのような手続きになっているのか。
退去時の原状回復はどう定められているのか。
施設が提供するサービスと、外部の介護サービスはどう分かれているのか。
こうしたことは、記憶だけではなく書類に戻って確認したほうが確実です。
老人ホームをめぐる問題では、施設側の説明と書類が一致していないケースもあれば、家族側がサービス内容を違って理解している場合もあります。
資料だけでは判断できないこともあります。
だからこそ、
「確認できた事実」
と
「まだ分からないこと」
を分けることが大切です。
質問するときは具体的にする
資料を確認しても分からないことがあれば、施設へ質問します。
そのとき、
「なんでこんなに高いんですか」
だけでは、話が曖昧になりがちです。
たとえば、
「7月から追加されている○○費は、契約書のどの項目に基づく料金でしょうか」
「散歩の付き添いが自費サービスへ変更されたのはいつからで、料金表のどこに記載されていますか」
「通院介助について、協力医療機関とそれ以外でサービス内容は違いますか」
「退去時のクロス張り替え費用について、契約書上の負担範囲を教えてください」
という形なら、確認したい点が明確になります。
最初から争う必要はありません。

まず資料を確認し、質問を具体化する。
それでも説明が合わない、あるいは納得できない場合には、自治体などの相談窓口を利用するという順番も考えられます。
最初から答えを決めず、事実を並べる
老人ホームで何か疑問が起きると、家族としては不安になると思います。
親が暮らしている施設なので、強く言いにくいこともあるでしょう。
反対に、想定外の請求などを見て、怒りが先に立つこともあります。
そんなときでも、できることはあります。

契約書を確認する。
料金表を確認する。
請求書を確認する。
施設から受けた説明を時系列にする。
いつから何が変わったのかを整理する。
分からないことを質問にする。
こうして事実を並べてみると、
「単なる勘違いだった」
と分かることもあれば、
「もう一度施設に説明してもらったほうがよい」
と分かる場合もあります。
場合によっては、公的な相談窓口への相談を検討したほうがよいこともあるでしょう。

最初から結論を決めるのではなく、元の資料へ戻って確認する。
老人ホームの料金や契約、サービスについて疑問が生じたときにも、この作業はかなり重要だと思います。

参考資料
厚生労働省
「有料老人ホームにおける望ましいサービス提供のあり方に関する検討会(第9回)」
2026年9月18日
厚生労働省
「有料老人ホームの現状と課題について」参考資料3
厚生労働省
「有料老人ホームの設置運営標準指導指針」参考資料2
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