客がいないのに休めない。限界のホールに鳴り響いた営業電話
「店長、玉が出ないんだけど!」
「あ、申し訳ございません!今すぐ伺います!」
休日の午後2時。郊外にある我がパチンコ店のホールには、お世辞にも盛況とは言えないパラパラとした客影しかありません。
それなのに、僕は汗だくでホールを東へ西へ走り回っていました。
2026年現在。スマート遊技機(スマパチ・スマスロット)の普及や全自動設備化によって、昔のような重いドル箱を運ぶ重労働はすっかりなくなりました。メダル補給で腰を痛めることもありません。
ですが、楽になったかと言われれば答えは断固として「NO」です。
スマパチ時代が生んだ「ワンオペ地獄」の現実
設備がハイテクになった分、増えたのは「最新カードユニットのエラー対応」や「操作方法が分からない高齢客への説明」。そして何より、本部から叩きつけられた「極限の人件費削減」という命令でした。
新台導入コストの跳ね上がり
電気代の激しい高騰
客数減少に伴う人件費の削り込み
結果どうなったか?アルバイトは最小人数。急な欠勤が1人でも出れば、その時点で即「ワンオペ営業」の完成です。
今日も今日とてアルバイトが飛び、僕が1人でホール対応、清掃、金銭管理、カウンター業務までこなしていました。
受話器から聞こえた、やけに明るい声
「はぁ……マジで潰れるぞ、この店……」
バックヤードで冷めた缶コーヒーを口に含んだ瞬間、事務室の固定電話が甲高い音を立てて鳴り響きました。
受話器を取ると、聞こえてきたのはやけに明るくハキハキとした女性の声。
『お世話になります!採用支援サービスを運営しております株式会社Crevio(クレヴィオ)の〇〇と申します!』
(……あぁ、また営業か。)
この手の電話は日常茶飯事です。適当にお断りして切ろうとした、その時でした。
『佐伯店長、今、お店の採用でお困りではないですか?無駄なコストを抑えた募集システムがありまして——』
冷静な自分と、藁にもすがる自分
チラリと防犯カメラのモニターに目をやると、ガラガラのホールでトラブルランプが点滅しています。すぐに行かなきゃいけない。
だけど、なぜか電話を切ることができませんでした。
パチンコ業界に10年近くいて、甘い言葉に騙されて失敗した店長を山ほど見てきました。「うまい話には裏がある」と頭の中の自分が警鐘を鳴らします。
ですが、慢性的な睡眠不足とストレスで麻痺しかけている脳の片隅で、別の自分が囁くのです。
(でも……もし本当に、この地獄のワンオペから抜け出せる可能性があるなら……?)
「……資料、メールで送ってもらえます?」
気づけば僕は、そう口にしていました。怪しい営業電話にすがるほど追い詰められている自分に、猛烈な情けなさがこみ上げてきます。
この時の僕はまだ知りませんでした。この一本の電話が、僕のワンオペ地獄に思わぬ波紋を広げることになるなんてことを——。