# 第1回 18年前、「止まらない咳」を前に、私は何も分かりませんでした
今から18年ほど前のことです。
私が整体院を始めたばかりの頃、昔からの友人から連絡がありました。
「〇〇君、整体院始めたんだって?」
そんな何気ない一言から始まった話でした。
その友人には、その頃ひとつ困っていることがありました。
**咳が止まらない。**
普通に会話をしていても、一言、二言話すと咳き込んでしまう。
しばらくすると落ち着くものの、また話し始めると咳が出る。
それがずっと続いていました。
病院にも何ヶ所か行ったそうです。
それ以外にも、鍼や整体、接骨院など、いろいろなところに通っていたと後になって聞きました。
それでも本人としては、なかなか納得できる状態にはならなかったようです。
そして、
「毎週ちょっと見てくれない?」
ということになりました。
## 駆け出しの私には、正直分かりませんでした
当時の私は、整体院を始めたばかりです。
今振り返れば、知識も経験も十分とは言えません。
肩こりや腰痛ならまだしも、
「なぜ咳が止まらないのか?」
と聞かれても、正直なところ私にも分かりませんでした。
それでも友人です。
何とか力になりたいという気持ちはありました。
身体の緊張を見たり、姿勢を考えたり、そのとき自分が持っていた知識の中で考えながら、毎週のように身体を見ていきました。
ところが、思うような変化がありません。
5回。
10回。
そして15回、18回くらいになった頃だったと思います。
正確な回数は、18年前のことなので、もうはっきりとは覚えていません。
ただ、あるとき私は、
**「もしかすると、自分が見ている場所そのものが違うんじゃないか」**
と思い始めました。
## 「咳」だけを見ていても分からないのではないか
それまでは当然、
「咳が出るのだから、咳に関係するところを考える」
という発想でした。
ところが、それだけでは説明できない。
そこで初めて私は、強い疲労やストレスが続いたときに、身体全体が過度に緊張した状態になることに注目し始めました。
当時の私は、その分野についてほとんど知識がありませんでした。
そこで、その考え方について詳しい方のところへ直接話を聞きに行きました。
なぜ強いストレスが続くと身体の反応が変わるのか。
どういう状態を見ればいいのか。
どのように身体へアプローチするのか。
教えてもらったことをそのまま真似するのではなく、自分なりに考えながら、目の前の友人に合わせて方法を組み立てていきました。
その後、対応を続ける中で、長く続いていた咳は大きく落ち着いていきました。
後になって本人から聞いたのですが、その当時、仕事でかなり大きなストレスを抱えていたそうです。
仕事そのものが非常に大変な時期だった、と。
私はその話を最初から知っていたわけではありません。
むしろ後から聞いて、
「身体だけを見ていても分からないことがあるんだ」
と強く感じたのを覚えています。
## この経験が、今の考え方の原点になりました
もちろん、この一例から、
「咳の原因はストレスです」
と言うことはできません。
咳にはさまざまな原因がありますし、長く続く場合には、まず医療機関できちんと診てもらうことが大切です。
私がこの経験から学んだのは、もっと別のことでした。
それは、
**症状の名前だけを見て、その人を分かったつもりにならないこと。**
肩が痛いから肩。
腰が痛いから腰。
咳が出るから呼吸器。
そんなふうに最初から答えを決めてしまうと、見落としてしまうものがある。
身体の状態だけではなく、
仕事はどうなのか。
眠れているのか。
食事はどうなのか。
最近、大きな環境の変化はなかったのか。
心身に負担のかかることが続いていないか。
その人の生活まで含めて考えなければ分からないことがあります。
18年前、整体院を始めたばかりの私にとって、この友人との経験は大きな転機になりました。
今でも私は、体調について相談を受けたとき、
**「この症状は何だろう?」**
だけではなく、
**「この人に今、何が起きているんだろう?」**
と考えるようにしています。
18年間で技術や知識はずいぶん増えました。
でも、その出発点にあったのは、
「分からないから、もう少し話を聞いてみよう」
「自分が知らないなら、調べてみよう」
という、とても単純なことだったのかもしれません。
※この記事は、過去の個人的な施術・相談経験を振り返ったものです。特定の症状に対する診断・治療効果を示すものではありません。長引く咳や体調不良がある場合は、医療機関への相談を優先してください。