その書式、誰が決めたのか答えられる人はいますか
社内の報告書に、なぜその見出しが並んでいるのか。なぜ所感は3行で、なぜ数字は千円単位なのか。聞かれて答えられる人は、たぶん社内にいません。決めた人の記録も、どこにも残っていません。それでも、外れると差し戻されます。
■ どこにも書かれていない決まりを、全員が守っている
新しく入った人が最初にやるのは、去年のファイルを開いて真似ることで、私もそうでしたし、教える側にまわってからは、後輩に向かって同じことを言っていました。「前回のを見て、同じように書いて」。
これで回っているうちは、誰も困りません。困る人が出るまで、誰も気づきません。困るのは、少しだけ形が違ったときです。表の列を1つ増やした、見出しの言い方を変えた、単位を万円にした、その程度のことで、中身は合っているのに戻ってきます。理由の説明はたいてい「うちはこうしてるから」で、その先はありません。腹が立つというより、力が抜けます。
そして、この決まりはAIに頼んだ瞬間にいちばん強く出るもので、「月次の報告書を書いて」と頼めば、教科書どおりの、どこの会社でも通りそうな文書が返ってきて、読むぶんには整っています。ただし、うちの書式ではない。結局こちらが自社の様式へ流し込み直すので書く手間はほとんど減らず、AIを開いた意味が、毎月どこかへ消えていきます。
■ 過去の書類を丸ごと貼ると、前回の中身まで真似される
そこで見本を渡すわけですが、ここに落とし穴がありました。
私は最初、過去の完成品をそのまま貼って「この形式で書いて」と頼んでいました。見本は1本しか渡していません。返ってきたのは、前回の報告書によく似た文章です。形式だけでなく、前回の話題や、そのとき限りだった事情まで引き継いでいて、先月ずれ込んだ案件の話が、今月の下書きにもそのまま出てくるんです。
理由は単純で、見本の中で型と中身が混ざっていたからでした。貼ったこちらには両者の区別がついていても、渡された側にはついておらず、「この形式で」の一言では、どこまでが形式なのかを伝えたことになっていませんでした。
■ 型だけを抜き出して、10行の説明文にして保存する
やり方を変えて、書かせる前にもう一段はさむようにしました。3本の完成品から、書式の決まりだけを言葉にさせます。
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以下は、私の会社で実際に使っている報告書の完成品3本です。
この3本に共通する書き方の決まりを抽出し、書式の説明として出してください。
【抽出する項目】
・見出しの並びと数
・1つの項目に書かれている行数の目安
・文末の形(です・ます/である/体言止め)
・数字の書き方(単位、桁区切り、概数にするかどうか)
・3本とも触れていない項目があれば、それも挙げる
【出さないこと】
・3本の内容の要約
・書き方の良し悪しの評価
・書式の改善案
【完成品】
(1本目をここに貼る)
(2本目をここに貼る)
(3本目をここに貼る)
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この説明文づくりから先を、まとめて引き受ける出品があります。過去の完成品を3本お預かりし、書式の説明文、それを読み込ませた状態の入力テンプレート、翌月から同じ手順で回せる操作手順書を仕上げてお送りする形です。費用は1件10,000円、相談の時間は別にいただきません。
出てくるのは10行ほどの説明文で、これを別ファイルに保存して、以後は完成品ではなくこの説明文だけを渡します。保存先は、元データと同じ共有フォルダにしています。中身が混ざりようがないので、前回の話題が紛れ込むこともなくなりました。作るのは一度きりで、翌月からは貼るだけです。
見本を3本にしているのには理由があります。1本だと、その回だけの癖を決まりだと勘違いしますし、逆に5本、10本と増やすと、共通点が薄まって「見出しを付ける」程度の当たり前しか残りません。手を動かしてみて、3本がちょうどよいところでした。4本でも試しましたが、3本のときと結果は大きく変わりません。
効いたのは最後の抽出項目です。3本とも触れていない項目を挙げさせると、「所感に他部署の評価は書かれていない」といった行が出てきます。書かない決まりも、書式のうちです。しかも、口頭ですら誰も教えてくれません。10年前に一度だけ怒られた理由が、この一行でようやく分かりました。
■ 3本の書式が、そもそも揃っていないこともある
うまくいかない場合の話をします。共通点が、ほとんど出てこないとき。
これは失敗ではなく、3本の書式がそもそも揃っていなかったという結果です。原因は、担当の交代でした。私が試したうちの1件では、担当者が2年前に代わっており、見出しの数も単位も途中で変わっていました。全員が守っているつもりでいた決まりが、実のところ守られていなかったわけで、こうなると、どちらの形に寄せるかを人が決めてから、その形の3本だけを渡し直すことになります。
出てきた説明文は、一度は自分の目で読んでください。私の場合は10行のうち1行か2行を毎回直していて、いちばん多いのは、たまたま3本に共通していただけの偶然が、社内の決まりとして書き出されてしまうものです。
■ 見本にする3本は、よく書けた3本ではない
最後に、3本の選び方だけ書いておきます。
つい、自分でうまく書けたと思う回を選びたくなります。そうではありません。選ぶのは、差し戻されずに通った3本。褒められた必要もなく、何も言われずに受理された書類こそが、社内の決まりを満たしている証拠だからです。
書式の説明文と入力テンプレート一式の作成を、10,000円でお引き受けしています。ひとまず去年のフォルダを開いて、何も言われずに通った回を3本、探してみてください。