20ページの手順書を書いたのに、結局その人が呼ばれていた

20ページの手順書を書いたのに、結局その人が呼ばれていた

記事
コラム
正直に書きます。
引き継ぎ資料を作れと言われるたびに、
これは意味のある作業なのか??と思っていました。

それでも作りました。
私が最初に書いた業務手順書は、20ページ。
画面のスクリーンショットを貼り、押すボタンの位置まで書き込んで、
土曜を1日つぶして仕上げました。これで終わったと思っていました。

ひと月後。後任の方は、
やはり前任者の席まで聞きに行っていました。

開かれてすらいなかった、という話ではないんです。
開いた上で、途中で分からなくなって、結局あの人を呼んでいる。
あの土曜は何だったのか。
しばらく画面を見たまま動けませんでした。


■ 「聞けば分かるから」で、10年同じことをやっている

思い当たる方は多いはずです。

その人が休むと、その業務だけ止まります。
当の本人は本人で、自分の作業を中断しては同じ質問に答えていて、
しかも聞かれるのは毎回だいたい同じ箇所、先月も説明したところです。
答えるほうは3分で済みます。だから誰も問題にしません。

だから何年でも続きます。「聞けば分かるから」で回してきた結果、
やり方が10年前と一文字も変わっていない業務が、どの会社にも1つや2つ残っていて、人が辞めるたびに慌てて誰かが引き継ぎ資料を作り、また同じ徒労が始まります。

そして、いちばんこたえるのは資料を作った側です。
休日をつぶして、画像まで貼って、それでも呼ばれる。
読まないほうが悪いのかと一瞬思って、でもそうではないと自分でも分かっている。行き場がありません。次に手順書を作る気力は、そこで確実に削られます。引き継ぎは、また口頭に戻ります。

私はこのとき、手順書づくりそのものをあきらめかけました。

■ 抜け落ちるのは操作ではなく、選ぶ理由

考えが変わったのは、
後任の方に「どこで止まりましたか」と聞いてからです。

違いました。止まっていたのは、操作の途中ではありません。「請求データを取り込む」までは書いてあります。分からなかったのは、月をまたいだ伝票をどちらの月に入れるのか。手順書に書いていない部分でした。

書かなかったのは、手を抜いたからではありません。私にとっては、考えるまでもないことだったからです。毎日その作業をしている人は、自分が判断していることを判断だと思っていない。手が勝手に動く部分ほど、文章からはきれいに抜け落ちます。

つまり、丁寧に書こうとするほど操作の説明だけが厚くなる。逆でした。20ページかけて、いちばん必要なところを空けていたわけです。ページ数と、引き継ぎのしやすさは比例していませんでした。

■ 書かせる前に、AIに質問させてしまう

そこで順番を変えました。手順書を書かせる前に、AIに質問させます。

まず、作業をしながら声に出して実況し、それを文字にします。スマホの音声入力で足ります。書きません。「今、管理画面を開いて、対象月を選んでいます。ここ、先月分がたまに残るので確認します」。この「たまに残る」が、あとで文章にすると消えてしまう部分です。

その口述記録を貼り付けて、こう頼みます。

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以下は、私が作業をしながら口述した記録です。
これを未経験者向けの手順書にする前に、記述が足りず作業者が手を止めそうな
箇所を、質問の形で10個挙げてください。

【質問の条件】
・「どれを選ぶか」「どの場合にどうするか」を問う質問を優先する
・画面の名称やボタンの位置が不明な場合は、それも質問にしてよい
・記録に書かれている内容を言い換えただけの質問は出さない

【この段階で出力しないこと】
・手順書の本文
・記録に書かれていない手順の補完

【口述記録】
(ここに貼り付ける)
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初めてこれを回したとき、拍子抜けしました。

あとは10個に答えるだけなんです。白紙に向かって「まず何から書こうか」と考えるあの時間が、まるごとありません。順番を組み立てるのも、見出しを決めるのも、どの画面の画像を貼るか迷うのも、もうこちらの仕事ではなくなります。聞かれたことに、後輩へ口で説明するときと同じ調子で答えていくだけです。答えを追記して渡し直せば、清書は向こうがやります。こちらは読むだけです。

私の場合、土曜を1日つぶしていた作業が、口述と質問への回答をあわせて40分ほどで下書きまで届くようになりました。もちろん同じようにいくとは限りません。作業の複雑さでも、口述をどれだけ細かく喋れるかでも差が出ます。まずは手元の1本で試して、実際にかかった時間を見てみてください。ただ、減ったのは時間だけではありませんでした。「これ、書く意味あるのかな」と思いながら手を動かす、あの感じがなくなったほうが大きい。

しかも、最初の10問のうち6問は、答えるのに前の担当者へ確認が必要でした。逆に言えば、20ページを書き上げたときの私は、その6か所に気づいてすらいなかった。呼ばれて当然です。もっと早く、この順番でやっておきたかったと思いました。

聞かれる側から、聞かれる前に答えておく側に回る。感覚としては、それがいちばん近いと思います。

■ 質問が浅いときは、口述のほうが足りていない

うまくいかない場合もあります。出てきた10個が「管理画面の正式名称は何ですか」「対象月はどこで選びますか」のように、画面の話ばかりになるときです。

これは、口述そのものが操作の実況で終わっているサインでした。手を動かした記録にはなっていても、どこで迷ったのか、なぜそちらを選んだのかという記録になっていないので、質問する側も画面の話しか聞けません。私はこういうとき録り直さずに、その10問に答えながら「なぜそう答えられるのか」を1行ずつ足しています。

もう一つ、口述には出てこない領域があります。例外処理です。人は、うまくいった日の作業しか実況しません。エラーが出た日、締め日が土曜だった月、データが二重に入っていた回。そういう例外は、実際にその場面になるまで本人ですら思い出せないので、初版に盛り込もうとしても出てきません。起きたときに1行ずつ足すほうが現実的です。私は手順書の末尾に「起きたこと」という欄を作り、日付と対処だけを書き足しています。半年ほど経つと、その欄が本体より読まれることがあります。


■ 先に質問させる順番は、手順書以外にも効く

引き継ぎ用の書類をAIで組み立てる仕組みは、依頼を受けて作ってもいます。

とはいえ、この記事から持ち帰ってほしいのは仕組みより、「順番」のほうです。「書かせる前に、質問させる。」それだけです。
この一手は、提案書でも報告書でも同じように効きます。
打ち合わせの直後、まとめに入る前に「この情報で書けない箇所はどこですか」と一度聞いてみてください。抜けている材料が清書に入る前に出てくるので、書き上げてから相手に確認し直す、あの二度手間がなくなります。

私は通常業務の中の、順番を意識して「効率化ツール」を提案しています。
興味ある方は、お声掛けください。


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