「それ、うちの数字を入れて大丈夫なんですか」
報告書の下書きをAIに作らせていたとき、隣の席から言われた一言です。
答えられませんでした。
大丈夫だとも、まずいとも言えない。その日は作業を止めて、結局
いつもどおり自分で最初から書きました。2時間かけて。
10分前まで、それが5分で終わるはずだったのに。
■ 誰も答えを持っていないので、毎回自分で考えることになる
同じところで止まった方は、少なくないはずです。
私だけではないと思います。
そして、たいてい解決しません。上長に聞けば「念のため、やめておこうか」で終わりますし、情報システムの担当に聞いても、社内にそういう規程そのものがないので、はっきりした線引きは返ってきません。意地悪ではないんです。誰も答えを持っていないだけで。
厄介なのは、止まり方が中途半端なところです。
禁止されたわけではないので、使ってはいます。ただ、貼り付ける前に毎回考える。この売上は出していいのか、この取引先名は消すべきか、これくらいなら平気か。答えの出ない問いを数十秒ずつ抱えたまま、貼っては消し、消しては貼りを繰り返して、そのうち「自分で書いたほうが早い」に着地します。
この着地が、いちばんもったいない。表を見ながら手で書き写しては、数字を1つずつ打ち直していく、あの作業にそっくり戻るわけです。何のためにAIを開いたのか分からなくなる。一度ヒヤリとした人ほど、それきり開かなくなります。時間を減らすために入れたはずのものが、判断の面倒に姿を変えて戻ってきた形です。
■ 「秘密かどうか」で線を引こうとするから、毎回止まる
原因は、基準のほうにありました。
私たちはこの判断を、情報の重要度で決めようとしています。
この売上は秘密か。この社名は出していいか。ところが重要度は、人によって答えが変わります。同じ数字でも経理と営業では感覚が違いますし、上長に判断を仰いだところで、その人の中にはっきりした基準があるわけでもない。答えのない問いを毎回立てているので、毎回止まります。
実務で動くのは、別の線でした。その記述だけを見て、どの会社の、いつの、誰の話かが特定できるかどうか。特定に効く要素さえ外してしまえば、あとに残るのは業務の形だけで、その形はどこの会社でもだいたい同じですから、外に出たところで困りません。
■ 3種類だけ置き換えれば、あとは何も考えずに貼れる
置き換えるのは3種類です。それだけです。
固有名詞は役割名にします。取引先は【A社】、担当者名は「先方の担当者」、自社の部署は「管理部門」。
次に金額と数量。桁を保ったまま丸めるか、比率に変えます。1,847万円なら「約1,800万円」、あるいは「前月比112%」。
最後に日付です。「4月15日」を「月の中旬」に、「2月の締め」を「四半期末」に。
慣れると1分です。
ここが、この方法の効きどころです。この3種類さえ済ませてしまえば、
あとは何も考えずに貼れます。判断が毎回から最初の一度きりに変わるので、「これは平気だろうか」と画面の前で手が止まっていた数十秒が、翌日からまるごとなくなります。
私がこの形に切り替えた日は、あっけなさすぎて逆に不安になりました。
あれだけ悩んでいたものが、置き換え1分と、貼り付け1回で終わる。
それだけでした。もっと早くこの線引きを持っておけばよかった、というのが正直な感想です。
置き換えた対応表だけ、手元のメモに残しておいてください。
出力を自社の言葉に戻すときに使います。
渡すときは、置き換えた表記をそのまま出力にも使わせます。
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【用語の扱い】
・入力にある【A社】【B部門】などの表記は、その表記のまま出力に使う
・実在しそうな企業名、人名、部署名に置き換えない
・入力にない数字、日付、社名を補わない
・情報が足りない箇所は、推測せず「(要確認)」と書く
【本文】
(置き換え済みの原稿をここに貼る)
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この1行目がないと、【A社】が出力では「株式会社〇〇」のような、それらしい名前に化けます。そうなると一括置換で元に戻せず、しかも本文のあちこちに散っているので、どこが化けたのかを目で追う羽目になります。1か所ずつ直すことになって、置き換えた手間より、戻す手間のほうが大きくなります。
■ 検査そのものをAIに頼むと、順序が逆になる
「この文章に社外秘が含まれていないか確認して」と頼みたくなります。私も一度考えました。
これは順序が逆でした。確認させるには、まず貼らなければならない。
貼った時点で、確認したかった状態はもう過ぎています。置き換えだけは、人の手に残る作業です。
もう一つ、置き換えすぎると出力が的外れになります。業種と規模は残したほうがいい。「A社」とだけ書くと一般論が返ってきますが、「A社(従業員30名の印刷会社)」まで書けば、内容はその会社向けに寄ります。特定に効くのは社名・所在地・担当者名であって、業種と規模はそれ単体で相手を指しません。ここは削りすぎないほうが得です。
■ 規程の確認だけは、この工夫より先に置く
ここまでの話には前提があります。会社として、業務でAIを使ってよいことになっている、という前提です。
禁止されている場合はもちろん、何も決まっていない場合も、置き換えの工夫より先にそこを確認したほうが早い。順番の問題です。決まっていない会社は多く、聞いてみたら「顧客名は入れないこと」だけが口頭で共有されていた、ということもあります。一度確かめておけば、この先ずっと迷わずに使えます。逡巡していた時間を思うと、この確認は数分の価値ではありません。
こうした置き換えの手順ごと、入力の型を依頼者の書類に合わせて組み立てて、翌月からそのまま使える形にして渡すこともしています。ただ、置き換えたあとに何を渡すかを決めるのは、いつも人の側です。形は整えられます。ただ、渡してよいかどうかまでをAIが決めてくれるわけではありません。そこは手元に残しておいたほうがいい部分だと思っています。
私は、こういう実際のケースに対応できるサービスを提供しています。
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