ノートと約束

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小学3年の頃
クラスのリーダー格の
ちはるくん
ドラえもんでいうところの
スネ夫みたいなコバンザメ。

この2人は、
ちょっとガサツで
苦手なクラスメイトだった。

大きな声
ズケズケと会話に割り込む感じ。

暴力を振るったりはしないが
コチラから話しかけることは皆無だった。

ある日
事件が起きた。

クラスの中で異臭がする。
ウンチの臭いだった。

クラスの中がざわめいた。
「くっせー!」
「ウンチ漏らした奴がいる!」

数名の男子が
ほかの子のお尻を嗅いでまわる。

中々に残酷だが
確実な犯人探しだ。
女子も対象だった。

私は、黙って
事の成り行きを見守っていた。

そして、最後に残ったのは
リーダー格の
ちはるくん。

彼が臭いのもとだった。
つまり
ウンチを漏らしていたのだ。

誰も逆らえないので
クラスのざわめきは
静まった。

先生が来て
どこかへ連れて行かれた。

この事件は
これで終わった。
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しばらく経った
ある日

私の隣の女の子が
おしっこを漏らした。

この子は
私の好きな子だった。
丸い顔
丸い目
丸くかわいい鼻
ショートカットが似合う子。

その子が、
顔を真っ赤にしていた。

椅子の下には
漏らしたおしっこが
水たまりになっていた。

私は気づいたが
何もできず
先生の顔を見た。

先生は異変に気づき
女の子のもとへ来た。

誰かが言った。
「おしっこ漏らしてる!」
クラスがざわめく。

女の子は顔を覆って
泣いていた気がする。

先生は女の子に
何かを話しかけ
雑巾で椅子と床を拭いている。

クラスが騒然となる中

「もう騒ぐな」
ちはるくんが言った。

クラスは静まり
先生が女の子を教室から
連れ出す。

ちはるくんは
クラスに睨みを利かせていた。

ガサツで苦手だった
ちはるくんが
カッコよく思えた。

✼••┈┈••✼••┈┈••✼••┈┈••✼
それから少しして
私は転校することになった。

屋根は飛ばされる
母の大嫌いなネズミは出る
変質者が窓からのぞく
という、最悪の
オンボロアパートに
両親とも
嫌気がさしたのだろう。

引っ越し当日の朝
子供の私は
やることもなく
外で時間を持て余していた。

「いやさかぁ!」
ちはるくんとコバンザメが
走ってきた。

ちはるくんは
少し恥ずかしそうに
「間に合って良かった。コレ。」
ノートを私に差し出した。

「俺たちのこと、忘れんなよな」
目を伏せて
ちはるくんは言った。

「うん、ありがとう。」

引っ越しの時間は
誰にも伝えていなかった。

きっと、
前の日から
朝イチで行くと
決めていたのだろう。
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荷物の積み込みが
終わり
母に呼ばれる。

いよいよ
お別れだ。

2人は、走って
車を追いかけてきた。

大きく手を振りながら。

見えなくなるまで。

このシーンは
鮮明に覚えている。

私は後部座席から
それを見ていた。
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文房具屋で
学習帳のようなノートを見ると
必ずあのシーンが
思い出される。

あの学校で
唯一
覚えている名前
フルネームで
覚えている名前

それが
ちはるくんだ。
(コバンザメ、ごめんね)

約束どおり
忘れてないよ。
ちはるくん。

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