【介護現場】「誰も望んでいない会議やイベント」を行っていませんか?アビリーンのパラドックスから学ぶ組織改善

【介護現場】「誰も望んでいない会議やイベント」を行っていませんか?アビリーンのパラドックスから学ぶ組織改善

記事
コラム
介護の現場で、こんな経験はありませんか?

「成果も出ないし誰もやりたくないのに、なぜか毎月続いている会議がある…」

「職員も準備が大変で、利用者様も実はそこまで楽しんでいないイベントを、恒例だからと開催している…」

「本当はやめたい」「意味がないのではないか」と参加者全員が心の中で思っているにもかかわらず、なぜかその企画や会議がそのまま実行されてしまう。

実はこれ、組織心理学で「アビリーンのパラドックス(Abilene paradox)」と呼ばれる有名な現象です。

今回は、この「アビリーンのパラドックス」の仕組みと、介護現場で起こりうる具体例、そして解決策について解説します。

■アビリーンのパラドックスとは?

「アビリーンのパラドックス」とは、集団のメンバー全員が本心では反対しているにもかかわらず、互いの思い込みや気遣いによって、全員の意図とは反する決定を下してしまう現象のことです。

学者ジェリー・B・ハーヴェイが紹介した有名なエピソードが由来です。

ある八月の暑い日、アメリカ合衆国テキサス州のある町で、夫妻とその舅夫婦が団欒していた。そのうち舅が53マイル離れたアビリーンに夕食を食べに行こうと提案した。妻が「いい考えね」と言う。夫は、長くて暑い道のりに気が進まないが、自分の希望は皆とずれているのだろうと思い、「いいね。お義母さんが行きたいと思っているならいいんだけど」と答える。すると義母も、「もちろん行きたいわ。アビリーンにはしばらく行っていないし」と言う。

ドライブは暑く、ほこりっぽく、長い道のりだった。ようやくカフェテリアに着くと、食事はドライブと同じくらいひどかった。4時間後に帰宅したときには、皆ぐったりと疲れていた。

4時間かかって疲れて帰宅した後で彼らはこう言い合った。

姑「家にいたかったけど、あなたたちが行きたそうなのでついて行ったわ」

夫「別に乗り気じゃなかったが、他が行きたそうだから連れて行ったんだ」

妻「あなたたちが行くと言うから一緒に行っただけよ。暑い中で出かけるなら家にいたわ」

舅「わしは別に行かんでも良かったが、お前らが退屈だから行こうと思ったんだが」

一同はソファに座りなおし、自分たちが誰一人望んでいなかった旅行をなぜ皆で決めてしまったのか、困惑する。誰もが実はそのまま心地よく過ごしたかったのに、それを素直に言わなかったために、楽しい午後を台無しにしてしまったのだった。

ウィキペディア(Wikipedia)より

この「誰も望んでいないのに、場の空気を読んで全員で間違った方向へ進んでしまう」状態が、アビリーンのパラドックスです。

■介護現場で起こりがちな2つの具体例

日々多忙で、互いの思いやりや協調性を大切にする介護現場では、このパラドックスが特に発生しやすくなります。

1. 成果の上がらない「形骸化した会議」
「毎月恒例だから」という理由だけで開催されるミーティング。

主催者:「本当はみんな忙しいし、報告だけで終わるからやめたいけれど、周囲が必要だと思っているかもしれない」

参加者:「特に新しい決定事項もないし時間の無駄だな…でも、断ると意欲がないと思われそう」

結果として、誰も集中しておらず何の成果も生まない会議のために、現場の貴重な業務時間が奪われ続けてしまいます。

2. 誰も望んでいない「習慣化したイベント」
例えば、毎年恒例の大きなお祭りや季節の行事。

職員:「業務後の準備が酷でやめたいが、利用者様や他の職員が楽しみにしているかもしれない」

利用者様:「長時間の着座や騒がしい雰囲気は疲れるから部屋にいたいが、職員さんがせっかく準備してくれたから断れない」

お互いが「相手のため」と思って気を使っている結果、「誰も幸せになっていないイベント」が開催され、職員は疲弊し、利用者様も負担を感じるという悲劇が起こります。

■なぜ介護現場でこれが起きるのか?

介護職は「相手を思いやる気持ち(共感性)」が非常に強いプロフェッショナルが集まる現場です。
それゆえに、以下のような心理が働きやすくなります。

・波風を立てたくない(集団志向)

・「反対」と言うことで、提案者のモチベーションを下げたくない

・「これまでやってきたこと」を否定するのが怖い

「優しさ」や「気遣い」が裏目に出てしまい、結果として全員が損をする状態を生み出してしまうのです。

■アビリーンのパラドックスを抜け出す3つの解決法

では、この状態を解消し、より良い現場を作るにはどうすればよいでしょうか?

① 「本音を出しても大丈夫」な環境づくり(心理的安全性の確保)
まずは、ミーティングや意見交換の場で「やめたい」「こう変えたい」と言える雰囲気を作ることが不可欠です。
リーダーや発言力のある人が自ら「この会議、実はもう少し短縮できると思うんだけど、みんなはどう感じてる?」と、本音を出しやすい問いかけを行いましょう。

② 無記名アンケートや事前の個別ヒアリングを活用する
全体の場で面と向かって「反対」と言うのは勇気がいります。
イベントの企画や会議の必要性について、無記名のアンケートをとったり、1on1などの個別対話で「本音」を回収する仕組みを導入するのが効果的です。特に利用者様の本音(「実は長時間のイベントは疲れる」など)も、日頃の会話やご家族を通じたヒアリングで丁寧に拾い上げましょう。

③ 「やめる基準」「見直す機会」を定期的に設ける
「一度始めたら永久に続けなければならない」という思い込みをなくすため、「半年に1度はすべての会議・イベントの目的と効果をゼロベースで見直す」というルールを作りましょう。
「成果が出ていないものは一旦休止してみる」「規模を小さくして実施してみる」といったスモールステップでの改善を許容することが大切です。

■おわりに

誰も望んでいない業務やイベントに時間とエネルギーを奪われてしまうのは、人手不足が叫ばれる介護現場において大きな損失です。

もし「うちの施設もアビリーンのパラドックスに陥っているかも…」と感じたら、まずは身近な会議やイベントについて、「これって本当は誰のためにやっているんだっけ?」と問い直すことから始めてみませんか?

「思い切ってやめてみたら、職員にも利用者様にも笑顔が増えた」というケースは決して少なくありません。
サービス数40万件のスキルマーケット、あなたにぴったりのサービスを探す