営業課から、もう3年くらい前から言われていました。
「名刺、外から見られるようになりませんか?」
もらった名刺は、それぞれの名刺入れやデスクの中。
「あの会社の担当者、誰だっけ?」 「この人と前に会ったの、誰?」 「連絡先知ってる人いる?」
となるたびに、知っていそうな人へ聞く。
担当していた営業さんが辞めたら、名刺も一緒に分からなくなる。
お中元、お歳暮、年賀状の時期になると、
「この人、住所変わってます」
と後から名刺が何枚も出てくる。
小さな会社では、わりとある話じゃないでしょうか。
うちでもずっと、
「名刺をなんとかしたい」
という話が出ていました。
そこで名刺管理サービスをいくつか調べました。
でも結局、導入しませんでした。
代わりに作ったのが、社内用の名刺管理アプリです。
■ 名刺管理サービスが悪かったわけではない
世の中の名刺管理サービスは、かなりよくできています。
人脈を可視化したり。
商談履歴とつなげたり。
「この会社には誰が接点を持っているか」を営業活動に活用したり。
新規開拓をする会社なら、とても便利だと思います。
ただ、うちには少し合いませんでした。
うちの会社は、飛び込みでどんどん新規営業をする会社ではありません。
リピートのお客様との仕事が多く、
「この人脈を掘り起こして、新しい営業先を開拓しよう」
という使い方は、ほとんどしません。
だから、高機能な名刺管理サービスを導入しても、使わない機能がかなり出てくる。
さらに、利用人数が増えれば料金も増えます。
「あったら便利」
と、
「そのために毎月払い続ける」
の間には、やっぱり距離があります。
■ じゃあ、本当に必要なのは何?
そこで一度、
「名刺管理サービスには何ができるか」
を見るのをやめました。
代わりに営業課と、
「何ができないと困るの?」
を考えました。
出てきたのは、最初はたったこれだけでした。
いつもらった名刺か分かる
名刺の情報がデータになっている
誰がもらった名刺か分かる
外出先からスマホで見られる
以上。
拍子抜けするくらい少ない。
でも、実際に困っていたのはここだったんです。
訪問先で、
「前にこの人と会ったの誰だっけ?」
が確認できればいい。
電話番号を知りたい時に、会社へ電話して聞かなくて済めばいい。
それなら、
「もしかして、これは大きなサービスを買わなくてもいいのでは?」
と思いました。
■ ChatGPTで、社内用の名刺アプリを作った
ちょうど、ChatGPTでWebサイトや小さなアプリを作れる機能が使えるようになった時期でした。
そこで、社内用の名刺管理アプリを作ることにしました。
名刺には取引先の個人情報が含まれます。
なので最初に確認したのは、見た目でも便利さでもなく、公開範囲でした。
私が使っている環境では、公開する範囲を社内に絞れる設定が使えたので、
「この条件なら社内用として進められる」
と判断しました。
作ったアプリでは、まず全体の名刺を五十音順で表示します。
名刺をもらった社員をプルダウンで絞り込むこともできます。
さらに、一人の取引先担当者に対して、
「Aさんが○月○日に名刺をもらった」 「Bさんも別の日に会っている」
という複数の接点を残せるようにしました。
つまり、名刺を一枚ずつ管理するというより、
「この人と、社内の誰がいつ接点を持ったのか」
を管理しています。
これが、うちではかなり大事でした。
■ 約3,550枚。やっぱり大変だったのは紙でした
せっかく作るなら、今後もらう名刺だけでは意味がありません。
過去の名刺も全部入れることにしました。
6人分を集めて数えてみると、およそ3,550枚。
これを3日ほどに分けて処理しました。
データ化そのものは、AIを使ったのでかなり楽でした。
OCRで読み取った内容を別のAIでも確認して、差分を見ながら、最後は私の目でもチェックする。
全部を人間が手入力するより、圧倒的に早いです。
でも、その前に絶対に必要な工程があります。
名刺をスキャンする。
紙の名刺をスキャナへ持っていく。
読み込ませる。
次。
また次。
ここだけは、どうにもなりません。
AIに、
「この引き出しに入っている1,000枚、よろしく」
とは頼めない。
AIで仕事を変える話をすると、つい華やかな部分ばかり目立ちます。
でも実際にやってみると、
必ずどこかに、人間が手を動かすしかない物理工程が残ります。
今回は、そこが一番大変でした。
■ 作ったあとも、使いながら変えている
完成して終わりではありませんでした。
実際に営業さんに使ってもらうと、
「見やすい」
と言ってもらえた一方で、
「ちょっと動作が重い」
という声も出ました。
最初は何千件もの名刺を一度に表示していたので、表示方法を変更。
今は1ページ50件ずつ表示する形にしています。
ほかにも、
「ダークモードで使ってるのに、いきなり真っ白な画面が出るとまぶしい」
という声があったので、端末の設定に合わせて表示を切り替えるようにしました。
こういう改善って、実際に使う人から聞かないと分かりません。
そして今では、最初に考えた4つから少しずつ機能が増えています。
■ 名刺管理だけで終わらなくなった
営業担当と一緒に作っている「訪問管理」の仕組みとも、名刺をつなげました。
名刺から相手を選んで、
いつ訪問したか
どんな打ち合わせだったか
どの案件について話したのか
を記録できるようにしています。
ただし、全部を名刺管理側に詰め込んではいません。
営業が必要な詳しい情報は訪問管理へ。
私のような業務側が名刺を見る時は、
「いつ、どんな要件で接点があったのか」
がざっくり分かればいい。
使う人によって必要な情報量が違うからです。
ここも、市販の大きなシステムに全部合わせるのではなく、自分たちで作るメリットでした。
■ 「住所変わったから直して」も少し楽にした
営業さんからよくあるのが、
「この人、住所変わったので住所録を更新しておいてください」
というお願いです。
以前なら、新しい名刺を紙でもらって、それを見ながら住所録を探して修正していました。
今は名刺管理アプリから最新版の名刺を確認して、その情報をもとに住所録側を更新できるようにしています。
最初は、
「外から名刺が見たい」
だけだったものが、
使っているうちに、
「じゃあ、ここもつないだら楽じゃない?」
と少しずつ育ってきました。
これも、自分たちで作ったからできたことです。
■ 新しい名刺の登録は……今のところ私がやっています
今は、新しくもらった名刺も私がまとめてもらって、スキャンして登録しています。
本当は、名刺をもらった本人がそれぞれOCRして、そのまま登録する形にもできます。
ただ、今のところは、
私がまとめて処理した方が早い。
なので、いったんそうしています。
でも、この先はもう少し楽にする予定です。
考えているのは、営業さんが名刺をもらってきたら、複合機のスキャン画面から
「名刺取り込み」
という宛先を選んでスキャンするだけ、という形。
スキャンされたデータは、私のパソコンにある名刺管理用のフォルダへ自動で入るようにします。
そこからさらに、夜間にAIが定期的に動いて、
名刺画像を読み取る
氏名や会社名、連絡先などを抽出する
名刺管理アプリへ登録するためのデータを作る
ところまで自動で進める。
そして翌朝、私が出社したら、
元の名刺画像と、 AIが読み取って登録した内容を見比べる。
問題がなければ、人間が確認済みとして正式登録する。
そんな流れを考えています。
つまり営業さんにお願いするのは、
「名刺をもらったら、スキャンする」
だけ。
その後の入力作業はAIにやってもらい、最後の確認だけ人間がする。
ここも、全部を無人化したいわけではありません。
名刺には会社名、氏名、電話番号、メールアドレスなど、大事な情報が入っています。
AIが一文字読み間違えただけでも、その後の連絡に影響するかもしれない。
だから、
入力はAI。最終確認と確定は人間。
この線引きにしようと思っています。
今はまだその仕組みを作っている途中ですが、
「営業さん全員に新しい操作を覚えてもらう」
より、
「今まで通り名刺をもらって、複合機でスキャンするだけ」
の方が、小さな会社には定着しやすい気がしています。
IT化するときに大事なのは、
できるだけ自動化することより、
実際に使う人の手順を増やさないこと。
そこも、かなり大事だと思っています。
■ 小さい会社ほど、「先に要件を削る」が効くと思う
今回、一番大きかったのはアプリを作れたことではありません。
最初に、必要な機能を4つまで削れたこと。
先にサービスを探すと、
「この製品にはこの機能がある」 「こっちはこれがない」 「上位プランならこれもできます」
と、機能表の比較になっていきます。
でも、その前に、
「そもそも、なくて困っているものは何?」
を考える。
すると、意外と少ないことがあります。
もちろん、必要な機能がたくさんある会社なら、既製のSaaSを導入した方がいいと思います。
その方が保守もサポートもあります。
でも、
「欲しいものが3つか4つしかない」
なら、別の方法も選択肢に入るかもしれません。
■ システムを選ぶ前に、「困っていること」を数えてみる
名刺管理に限りません。
勤怠。
顧客管理。
在庫。
スケジュール。
業務管理。
便利そうなシステムを見つけた時、すぐ比較表を見るのではなく、
一度、白い紙やExcelに、
「今、何に困っている?」
を書いてみる。
そして、
「これができれば困らない」
を数えてみる。
それから、
買うのか。
今あるツールでできるのか。
小さく自分たちで作るのか。
を考える。
この順番にすると、選択肢が少し変わります。
うちの名刺管理アプリも、まだ完成形ではありません。
営業さんに使ってもらいながら、
「重い」 「ここが見づらい」 「これもつながったら便利」
を拾って、少しずつ変えています。
完成したシステムを会社に合わせるのではなく、
会社に合わせて、必要な分だけ仕組みを育てる。
小さな会社には、こういうITの使い方も合うんじゃないかなと思っています。
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