「管理職、そろそろやってみない?」
そう言われたとき、すぐに前向きになれる人もいれば、どこか気持ちが重くなる人もいます。
でも、その重さの理由を聞かれると、うまく言葉にできないことがあります。
忙しくなりそう。
責任が重そう。
会議が増えそう。
自分の時間がなくなりそう。
もちろん、それも本音だと思います。
ただ、話を整理していくと、もう少し奥に別の理由があることがあります。
それは、
「部下の育成はしたい。でも、組織の代弁者にはなりたくない」
という葛藤です。
管理職が嫌なのではなく、セットでついてくる役割が嫌
管理職になることに抵抗がある人の中には、人を育てること自体には興味がある人がいます。
後輩に仕事を教える。
部下が成長するきっかけを作る。
困っている人の話を聞く。
その人に合ったやり方を一緒に考える。
こういうことには、むしろやりがいを感じる。
でも、管理職になると、それだけでは終わりません。
会社の方針を現場に伝える。
上から降りてきた目標を、部下に納得してもらう。
組織としての立場で発言する。
自分が完全に腹落ちしていないことでも、現場に説明しなければいけない。
ここに強い違和感が出ることがあります。
つまり、嫌なのは「育成」ではありません。
嫌なのは、育成とセットでついてくる「組織の代弁者」という役割なのです。
「忙しそう」は本当の理由の手前にある言葉
管理職になりたくない理由として、よく出てくるのが「忙しそう」です。
ただ、この言葉は少し広すぎます。
何が忙しそうなのか。
どんな時間が増えるのが嫌なのか。
何に時間を奪われる感覚があるのか。
ここを分けて考えると、自分の違和感が見えやすくなります。
たとえば、
- 部下と向き合う時間が増えるのは嫌ではない
- 育成のための面談ならやってみたい
- でも、上からの方針を伝えるだけの会議はしんどそう
- 数字や方針を現場に落とす役割には抵抗がある
このように分けてみると、「管理職が嫌」ではなく、「管理職の中のどの役割が嫌なのか」が見えてきます。
部下育成がしたい人ほど、組織の言葉に違和感を持つことがある
部下育成に関心がある人は、目の前の人をよく見ています。
その人が何に困っているのか。
どこで止まっているのか。
何が分かれば動けるのか。
どう伝えれば納得してくれるのか。
こうしたことに意識が向きやすい。
だからこそ、上から降りてくる言葉が、現場の実感とズレて見えることがあります。
「今年はこれを重点的にやろう」
「この方針で進めよう」
「現場に浸透させよう」
言っていることは分かる。
会社として必要なのも分かる。
でも、現場からすると、
「去年も似たようなことを言っていなかった?」
「言葉を変えているだけでは?」
「それを伝えるための資料作りに、そんなに時間を使う必要がある?」
と感じることもある。
この違和感を持つ人は、組織に向いていないわけではありません。
むしろ、現場の感覚を大事にしているからこそ、上の言葉をそのまま流すことに抵抗が出るのだと思います。
管理職の仕事は「翻訳」でもある
上は結果を見ています。
現場は現実を見ています。
その間に立つ管理職は、ただ上の言葉を下に流すだけではありません。
上の意図を、現場が動ける言葉に変える。
現場の困りごとを、上に伝わる言葉に変える。
つまり、管理職の仕事には「翻訳」が含まれます。
この翻訳ができないと、現場は動きにくくなります。
たとえば、上から「今期は生産性を上げよう」と言われたとします。
そのまま現場に伝えても、現場は動けません。
必要なのは、
- 何のために生産性を上げるのか
- 今回、特に変えるべき行動は何か
- 何をやめて、何に集中するのか
- どこまでできればOKなのか
を、現場の言葉に直すことです。
この翻訳ができる人は、組織にとってとても貴重です。
ただし、その役割を引き受けたいかどうかは、別の話です。
「やりたい役割」と「セットでついてくる役割」を分ける
管理職になるか迷ったときは、まず役割を分けてみるのがおすすめです。
一枚の紙に、こう書いてみてください。
【やりたい役割】
- 部下の育成
- 面談
- 困りごとの整理
- 仕事の進め方のサポート
- チームの空気づくり
【やりたくない役割】
- 上からの方針をそのまま伝える
- 腹落ちしていないことを説明する
- 会議や資料作成に時間を取られる
- 組織の代表として振る舞う
- 自分の裁量が減る
こうして分けるだけで、悩みの正体が少し見えてきます。
「管理職になりたいか、なりたくないか」ではなく、
どの役割なら引き受けたいのか。
どの役割に強い抵抗があるのか。
ここを整理することが大切です。
「やらない」と決めるのも前に進むこと
管理職になるかどうかをずっと保留にしていると、頭の中に未完了のタスクとして残り続けます。
やるのか。
やらないのか。
いつ決めるのか。
何が分かれば決められるのか。
決めていないことは、思っている以上に疲れます。
だから、もし今の自分にとって管理職が違うと感じるなら、
「今はやらない」
と決めることも、立派な前進です。
逃げではありません。
自分の価値観を守る選択です。
もちろん、将来変わってもいい。
今はやらないけれど、育成の経験は積む。
管理職ではなく、メンターや教育係のような形で関わる。
副業やコーチングで、人の成長に関わる道を探す。
選択肢は、管理職になるか、完全に諦めるかの二択ではありません。
まとめ
管理職になりたくない理由は、単に忙しいからだけではないことがあります。
本当は、部下育成には興味がある。
人の成長に関わることにはやりがいを感じる。
でも、会社の方針を現場に伝える役割や、組織の代弁者として振る舞うことには違和感がある。
その葛藤を無視して「期待されているから」「年齢的にそろそろだから」と進むと、あとでしんどくなるかもしれません。
大切なのは、自分が何に惹かれていて、何に抵抗しているのかを分けて見ることです。
管理職になるかどうかを決める前に、一度、自分の中にある違和感を言葉にしてみてください。
答えは、無理に急がなくて大丈夫です。
ただ、決めないまま抱え続けるよりも、
「何が分かれば決められるのか」
を整理するだけで、頭の中はかなり軽くなります。
もし今、管理職になるかどうか、仕事の役割をどう選ぶかで迷っているなら、一人で抱え込まずに一度話してみてください。
話すことで、自分が本当に引っかかっているものが見えてくることがあります。