収入を上げたい、と思うことに、 どこか後ろめたさを感じていた時期がありました。
今の会社が嫌いなわけじゃない。 人間関係もそこまで悪くないし、生活もちゃんと回っている。
それでも、 「このままでいいのか」という感覚だけが、 どうしても消えてくれなかった。
新卒で入った会社は、誰もが知っている大手電気メーカーでした。給料は平均的で、ボーナスもちゃんと出る。世間的には「安定している」と言われる部類の会社だったと思います。
最初の数年は、それで十分だと思っていました。社会人としての基礎を学び、少しずつ仕事を覚えていく。毎月決まった日に振り込まれる給料。それが当たり前の日常になっていく中で、僕はどこかで気づかないふりをしていたのかもしれません。
このまま続けても、劇的に何かが変わることはないのだろうな、と。
30歳を過ぎた頃、大学院を出た同期や後輩との年収差が、ふと目に入るようになりました。別に彼らを羨んでいたわけではありません。ただ、同じ時間を過ごしているのに、なぜこれほど差が開いていくのだろう、という素朴な疑問が湧いてきたのです。
年収って、会社で決まるものだと思っていました。でも、本当にそうなのだろうか。もしかすると、「どこで働くか」ではなく「どう働くか」で決まるものなのではないか。そんな違和感が、静かに、でも確実に大きくなっていきました。
違和感を抱えながらも、僕はなかなか動き出せませんでした。
転職サイトを眺めては閉じる。副業の情報を集めては、結局何も始めない。「いつかやろう」と思いながら、その「いつか」は永遠に来ない気がしていました。
想像することと、実際に行動することの間には、思っていたよりずっと深い溝がある。その溝の前で立ち尽くしている自分に、焦りと、少しの情けなさを感じていました。
あるとき、ふと思ったのです。
やらなかった後悔と、やった後悔。どちらを選びたいだろう、と。
答えは、意外とシンプルでした。失敗してもいいから、動いてみたい。そう思えた瞬間、ようやく一歩を踏み出すことができました。
転職先は、世界最大手と呼ばれる外資系メーカーでした。年収は約200万円上がりました。
正直に言えば、嬉しかったです。自分の市場価値が認められたような気がしたし、「時給の高い働き方」をようやく手に入れられたと思いました。
でも、現実はそう甘くはなかった。
実力主義という言葉の裏側には、常に成果を求められるプレッシャーがありました。結果を出し続けなければ、存在価値を問われる。そんな環境の中で、僕は少しずつ追い詰められていきました。精神的にも、体力的にも限界が近づいていることを感じながら、それでも走り続けようとして、最終的には走れなくなりました。
退職届を出したとき、解放感よりも、虚しさのほうが大きかったように思います。
会社を辞めて、フリーランスとして独立しました。
自分の力で稼いでいく。そう意気込んで始めたものの、現実は想像以上に厳しいものでした。最初の頃は、時給に換算すると数百円という仕事もありました。コンビニでアルバイトをしたほうがよほど稼げる。そんな状況の中で、「自分は誰よりも低い時給で働いているのではないか」という不安が、毎日のように押し寄せてきました。
あの頃の僕は、不安を「あってはならないもの」だと思っていました。不安を感じている自分はダメだ、もっとポジティブにならなければ、と自分を責めていた。
でも、あるとき気づいたのです。不安を否定するのではなく、そのまま受け入れてみたらどうだろう、と。
不安があるから動ける。不安があるから考える。不安は敵ではなく、行動するためのエネルギーなのかもしれない。そう思えるようになってから、少しだけ楽になりました。
その頃から、成功者と呼ばれる人たちの本や動画に、意識的に触れるようになりました。
最初は半信半疑でした。こういうものを見て変われるなら、誰も苦労しない。そう思っていました。でも、毎日少しずつ、1年間続けてみました。
劇的な変化があったわけではありません。ただ、気づいたら、物事の捉え方が少しずつ変わっていました。
うまくいかないことがあったとき、以前の僕なら「やっぱりダメだった」と落ち込んでいたと思います。でも、いつの間にか「これは何かのチャンスかもしれない」と考えるようになっていた。悲観的な状況の中にも、何か意味を見出そうとする自分がいました。
理想のコンフォートゾーンを設定して、そこに向かって日々小さな行動を積み重ねる。派手なことは何もしていません。ただ、昨日より少しだけ前に進むことを、毎日続けただけです。
そんな日々の中で、少しずつ出会いも増えていきました。
同じように悩み、同じように模索している人たち。そして、そんな僕に伴走してくれる人たち。一人では絶対に続けられなかったと思います。志を同じくする人がいるということが、どれほど心強いか。それは、実際に経験してみないとわからないことでした。
フリーランスとしての収入が、少しずつ安定してきた頃、思いがけない話が舞い込んできました。国内最大レベルの大企業への転職の誘い。面接を重ねる中で、これまで身につけてきたマインドやスキルが評価されていることを感じました。
結果として、年収は約300万円上がりました。
最初の会社を勇気を出して飛び出してから4年が経ち、年収は2倍以上になりました。
今の僕は、会社員としての安定した収入を得ながら、副業にも取り組んでいます。
これが正解かどうかは、正直わかりません。もっと良い方法があるのかもしれないし、この先また壁にぶつかるかもしれない。でも、少なくとも今は、以前より自由で、以前より豊かな人生に近づいている実感があります。
振り返ってみると、僕のキャリアは決して順風満帆ではありませんでした。挫折もあったし、逃げ出したこともある。誇れることばかりではありません。
でも、だからこそ思うのです。
収入を上げたいと思うこと、今の状況に違和感を感じること、それは決して間違いではないのだと。むしろ、それは次のステージへの入り口なのかもしれない。
あの頃の僕のように、「このままでいいのか」という感覚を抱えている人がいるとしたら、その違和感を大切にしてほしいと思います。
答えは、まだ僕にもわかりません。 でも、問い続けることで、少しずつ見えてくるものがある。
そんな気がしています。