「秋にも、いちごの季節がある!」
秋の街を歩いていたるなが、偶然見つけた「秋いちご」の直売イベント。
「いちご=冬~春」というイメージだったるなは大興奮!
しかも、品種改良によって秋にも収穫できるいちごがあることを知り、
「秋にもいちご……!?
じゃあ秋って、最高の季節じゃない……!?🍓✨」
曲紹介『秋いちご♡ファーストバイト!』
📖全体構成(目次)
第1節「秋の直売所で、運命のいちご!?」🍓🍁
秋の休日。
るなは先輩と一緒に、駅前の小さな秋のマルシェへ。
コスモスや焼き菓子、秋野菜などが並ぶ中――
突然、るなの足が止まる。
るな「……先輩」
先輩「ん?」
るな「いちご……」
先輩「いちご?」
るな「いちごがあります!!🍓✨」
先輩「🤣🤣🤣」
第2節「秋いちご食べ比べ♡」🍓🍓🍓
直売所では数種類の秋いちごを食べ比べできることに。
甘さ、酸味、香り、果肉の柔らかさ。
るなが真剣に食レポを始める。
第3節「いちごスイーツは、反則です♡」🍓🍰
秋いちごを使ったスイーツコーナーへ。
いちごタルト、いちごパフェ、いちごミルク、いちご大福などが並ぶ。
るなのテンションは完全に限界突破。
第4節「ファーストバイト♡」💕🍓
先輩も少し照れながら、「じゃあ……るなも」
るな「え?」
先輩がいちごを一粒取る。「はい」
るな「…………!」
るなの顔が一気に赤くなる。
第5節「秋いちご色の約束」🍓🍁✨
帰り道。夕焼けに染まる街。
るなは買った秋いちごの小さなパックを抱えて歩いている。
「今日は楽しかったです」
「いちごが?」
「……それだけじゃないですよ」
「じゃあ?」
るなは少し考えて、
「秋にしかできないことを、また一つ見つけた気がします」
そして、
第2部・秋外伝1『秋いちご♡ファーストバイト!』
第1節「秋の直売所で、運命のいちご!?」🍓🍁
「秋なのに……いちご!?」
夏の暑さが少しずつ遠ざかり、朝晩には涼しい風が吹くようになっていた。
街路樹の葉も、ほんの少しだけ色づき始めている。
『秋色のイルミネーション』の物語から、少し経った休日。
るなは駅前で、先輩と待ち合わせをしていた。
「……まだかな」
スマートフォンを確認する。
待ち合わせ時間まで、あと五分。
駅前の時計を見上げていると――
「お待たせ」
聞き慣れた声がした。
「……あっ!」
振り向く。
そこには、いつもの先輩が立っていた。
「おはようございます!」
「おはよう」
「今日はいい天気ですね!」
「うん。ちょうどいい気温になってきたな」
「ですよね。もうすっかり秋って感じです」
そう言いながら、るなは空を見上げた。
夏の頃よりも高く感じる青空。
少しだけ冷たくなった風。
そして、駅前の街路樹から舞い落ちる小さな葉。
「秋かぁ……」
るなが呟く。
先輩が笑った。
「この前まで夏だったのにな」
「ほんとですよね」
少し前まで、二人は夏祭りの夜を歩いていた。
屋台の明かり。
浴衣。
夜空いっぱいに咲いた花火。
そして――
あの時から、るなの中で少しずつ変わり始めた気持ち。
夏の恋は、まるで一瞬の花火だった。
けれど秋になった今、その光は消えてはいなかった。
静かに。
温かく。
心の中で、まだ灯り続けている。
「今日は、駅前の秋マルシェに行ってみようか」
先輩が言った。
「秋マルシェ?」
「うん。駅の反対側でやってるらしい。野菜とか果物とか、秋のお菓子とか」
「秋のお菓子……」
るなの目が少し輝いた。
「……食べ物?」
「たぶん」
「行きましょう」
即答だった。
「まだ何があるか聞いてないけど?」
「秋のお菓子があるなら行く価値があります!」
「なるほど」
二人は笑いながら、駅前の通りを歩き始めた。
しばらく歩くと、通りの向こうに色とりどりのテントが見えてきた。
「わぁ……!」
秋マルシェには、たくさんの店が並んでいた。
かぼちゃ。
さつまいも。
栗。
りんご。
焼き菓子。
パン。
ジャム。
そして、秋の花。
コスモスの小さな鉢植えまで並んでいる。
「秋って、こんなに食べ物あるんですね……」
るなが感心する。
「そこ?」
「秋は素晴らしい季節です」
「まだ始まったばかりだけど」
「もう好きです」
「早いな」
そんな会話をしながら歩いていた、その時だった。
「……ん?」
るなの足が止まった。
先輩が振り返る。
「どうした?」
るなは何も答えない。
ただ、ある方向をじっと見つめている。
その視線の先には――
赤い果実が並んでいた。
小さなパックに綺麗に詰められた、真っ赤な果実。
そして、そこには大きな看板が掲げられていた。
『秋いちご』
「…………」
るなの目が大きくなる。
「…………」
一歩。
近づく。
さらに一歩。
「るな?」
「……先輩」
「うん?」
るなは振り返った。
その瞳は、まるでイルミネーションを見つけた時のように輝いていた。
「いちごがあります!!🍓✨」
「……うん」
「秋なのに!」
「そうだな」
「いちごです!!」
「見れば分かるよ」
「秋なのに、いちごです!!」
「二回言ったな」
るなは看板を見つめたまま、感動していた。
「いちごって……冬とか春のイメージじゃないですか」
「まあ、そうだな」
「なのに……」
るなは震える声で呟いた。
「秋にも……いちごがある……」
「そんなに驚くこと?」
「大事件です」
「大事件?」
「はい」
真剣な顔で頷く。
「これは……」
るなは、赤く輝くいちごを見つめる。
そして――
「運命です……!🍓」
「……運命?」
「はい!」
先輩は思わず笑った。
「いちごとの?」
「もちろんです!」
「俺との運命じゃなくて?」
「……え?」
るなの動きが止まった。
先輩も一瞬、言ってから気づいた。
「……いや、今のは忘れて」
「…………」
るなの顔が、じわっと赤くなる。
「せ、先輩……」
「ん?」
「そういうこと……急に言うの、ずるいです」
「ごめん」
「……でも」
るなは小さく笑った。
「……ちょっとだけ、嬉しかったです」
その瞬間。
秋風が二人の間を通り抜けた。
コスモスの花びらが、ふわりと舞う。
そしてるなは――
「……じゃなくて!」
急に店の方を向いた。
「まずはいちごです!!」
「結局そこなんだな」
「だって運命のいちごですよ!?」
「はいはい」
二人は笑いながら、秋いちごの売り場へ向かった。
「るな、秋いちごに出会う」
売り場には、いくつかの種類のいちごが並んでいた。
パックの中には、つやつやと輝く赤い果実。
一粒一粒が宝石のように見える。
「わぁ……」
るなは、完全に夢中になっていた。
「綺麗……」
先輩が隣から覗き込む。
「そんなに違う?」
「違いますよ!」
るなが真剣な顔で説明を始める。
「ほら、色!」
「うん」
「形!」
「うん」
「ツヤ!」
「うん」
「そして……」
るなは、そっとパックを指差した。
「香りです!」
「まだ食べてないのに?」
「分かるんです」
「本当に?」
「いちご好きですから」
胸を張るるな。
そこへ、売り場のお店の人が声をかけてきた。
「お嬢さん、いちご好きなの?」
「はいっ!」
即答。
「秋いちごって珍しいでしょう?」
「はい! すごく気になってます!」
「秋から冬にかけて収穫できる品種もあるんですよ」
「へぇ……!」
るなの顔がさらに輝く。
「夏の終わりから花を咲かせて、秋にも実をつけるものもあるんです」
「じゃあ……」
るなが少し考える。
「秋にも、いちご狩りができたりするんですか?」
「場所によってはね」
「……!」
るなの頭の中に、秋の景色が浮かんだ。
赤や黄色に染まる木々。
コスモス。
そして――
真っ赤ないちご。
「秋いちご狩り……」
小さく呟く。
「最高……」
先輩が笑った。
「もう来年の予定まで考えてる?」
「もちろんです」
「早いって」
お店の人が笑いながら、一つのパックを取り出した。
「よかったら試食してみる?」
「……え?」
るなの目が丸くなる。
「試食……?」
「うん。一粒だけだけど」
「……!」
るなは先輩を見る。
先輩も笑って頷いた。
「食べてみれば?」
「……いいんですか?」
「どうぞ」
「ありがとうございます!」
るなは両手を合わせた。
そして、目の前に差し出された赤いいちごを見つめる。
「……いただきます」
一粒を手に取る。
赤くて。
艶やかで。
秋の光を受けて、キラキラ輝いている。
るなはそっと口に運んだ。
「……ぱくっ」
しばらく沈黙。
「…………」
先輩が聞く。
「どう?」
るなは目を閉じたまま――
「……甘い」
「うん」
「でも……」
ゆっくり目を開く。
「ちゃんと、いちごです」
「それはそうだろ」
「違うんです!」
るなは力説する。
「秋に食べるいちごって、なんだか不思議じゃないですか」
「確かに」
「でも、ちゃんと甘くて、ちゃんと酸っぱくて……」
もう一度、口の中に残る味を感じる。
「……おいしい」
その表情は、とても幸せそうだった。
先輩が笑う。
「よかったな」
「はい!」
そしてるなは、いちごの並んだ売り場を眺めた。
「秋って……」
「ん?」
「夏とは違う楽しみが、いっぱいあるんですね」
その言葉に、先輩は少しだけ頷いた。
「そうだな」
夏には夏の思い出がある。
花火。
祭り。
夜空。
そして、二人の間に生まれた特別な時間。
秋には秋の思い出が待っている。
コスモス。
夕焼け。
落ち葉。
そして――
秋いちご。
るなは、ふっと笑った。
「じゃあ……」
「うん?」
「今年の秋も、いっぱい思い出作りましょうね」
先輩が少し驚いたようにるなを見る。
けれどすぐに、優しく笑った。
「そうだな」
その返事だけで、るなの胸が温かくなる。
そして――
「……ところで」
るなが再びいちごを見る。
「これ、買って帰りません?」
「やっぱり?」
「はい」
「さっき一粒食べただけだよ?」
「だからです」
「だから?」
るなは満面の笑顔で答えた。
「もっと食べたいです!🍓✨」
「……だと思った」
二人の笑い声が、秋のマルシェに響いた。
赤く実った秋いちごの隣では、コスモスが風に揺れている。
夏から秋へ。
季節が変わっても――
るなの心に灯った小さな光は、まだ消えていなかった。
そして、この日の「一粒のいちご」が、
二人にとって忘れられない小さな恋の思い出になっていくことを――
この時のるなは、まだ知らなかった。🍓✨
第2節「秋いちご食べ比べ♡」🍓🍓🍓
「どれが一番おいしい?」
「これ……全部、違うんですよね?」
秋いちごの売り場の前で、るなは真剣な表情をしていた。
目の前には、いくつもの品種。
形も少しずつ違う。
色の濃さも違う。
粒の大きさも違う。
そして、パックに貼られた小さな説明書きには、
「甘みが強い」
「香りが豊か」
「ほどよい酸味」
など、それぞれの特徴が書かれている。
「……」
るなは腕を組んだ。
「……」
さらに悩む。
先輩が横から覗き込む。
「どうした?」
「決められません……」
「買うのを?」
「全部食べたいです」
「そっちか」
即答だった。
「だって、全部違うんですよ?」
「まあ、そうだな」
「だったら……」
るなは真剣な顔でパックを見比べる。
「全部食べてみないと分かりません」
「なるほど」
「これは大事な問題です」
「そんなに?」
「はい」
るなは小さく頷いた。
「いちご好きとして、ここは妥協できません」
先輩は思わず笑った。
「じゃあ、食べ比べしてみる?」
「……!」
るなの顔がぱっと明るくなる。
「いいんですか?」
「さっきのお店の人に聞いてみよう」
「はいっ!」
二人で店員さんのところへ戻る。
事情を話すと、店員さんは笑顔でいくつかの品種を用意してくれた。
「じゃあ、少しずつ食べ比べてみて」
「ありがとうございます!」
るなは両手を合わせる。
目の前に並んだ小皿。
その上には、赤い宝石のようないちごが一粒ずつ。
「……」
るなの瞳が輝く。
先輩がその横顔を見て笑う。
「そんなに嬉しい?」
「はい」
「顔に出てる」
「だって……」
るなは、いちごを見つめながら言った。
「こんなにいっぱいのいちごを、一度に食べ比べできるなんて……」
そして――
「幸せです……🍓」
先輩が優しく笑った。
「じゃあ、食べようか」
「はい!」
まずは一粒目。
るながそっと手に取る。
「いただきます」
ぱくっ。
「……!」
目を閉じる。
「どう?」
「甘いです」
「甘い?」
「はい。でも、ただ甘いだけじゃなくて……」
るなは真剣に味わっている。
「最初に甘さが来て、そのあと少しだけ酸味が残ります」
「へぇ」
「だから、もう一個食べたくなる味です」
「もう一個?」
「はい」
「今食べたばかりなのに?」
「はい」
「……なるほど」
先輩は笑った。
次のいちご。
「じゃあ、これは?」
ぱくっ。
「……!」
今度は、るなの表情が少し変わった。
「香りがすごい……!」
「そんなに?」
「はい!」
るなは嬉しそうに頷く。
「口に入れた瞬間、いちごの香りがふわって広がります」
「さっきより好き?」
「うーん……」
るなは悩む。
「難しいです」
「何が?」
「どっちも美味しいです」
「じゃあ、勝負にならないな」
「まだです!」
るなは真剣だった。
「まだ第三のいちごがあります!」
「第三のいちごって……」
「食べます!」
ぱくっ。
「…………」
沈黙。
先輩が見る。
「……るな?」
るなは動かない。
「どうした?」
「……」
数秒後。
るなが、ゆっくりと目を開いた。
「……これ」
「うん?」
「好きです」
「一番?」
「……はい」
先輩が笑う。
「やっと決まった?」
「はい!」
るなは嬉しそうに頷いた。
ところが――
店員さんが言った。
「実はね、それ、今日一番人気なんですよ」
「……!」
るなの目が輝く。
「やっぱり!」
「分かる?」
「はい!」
るなは誇らしげに胸を張った。
「私の舌は正しかったです!」
「自分で言うんだ」
「いちごに関しては、自信あります!」
「そうだったな」
「いちごより、赤くなる」
食べ比べを続けるうちに、るなはすっかり夢中になっていた。
「これは甘さが強い!」
「こっちは香り!」
「これは酸味とのバランスが……」
「……るな」
「はい?」
「なんか評論家みたいになってる」
「えっ?」
るなが我に返る。
気づけば、店員さんまで笑っている。
「お姉ちゃん、いちご詳しいねぇ」
「いえ、そんな……」
「将来、いちご農家になったら?」
「……!」
るなは一瞬、本気で考えた。
「……いいかもしれません」
「本気?」
「毎日いちごを……」
先輩がすかさず言う。
「仕事として食べるんじゃないぞ?」
「……ですよね」
るなは少し残念そうに肩を落とした。
🤣
「でも」
先輩が続ける。
「こうやって一緒に食べるのも楽しいな」
「……!」
るなの動きが止まった。
「一緒に……」
「うん」
「……食べるの」
「うん」
「……楽しいです」
るなは小さく笑った。
そして、先ほど選んだお気に入りのいちごを見つめる。
「一人で食べるのも美味しいけど……」
「うん」
「誰かと一緒に食べると、もっと美味しく感じるんですね」
「そうかもな」
「……」
るなは少しだけ先輩を見る。
「じゃあ……」
「ん?」
「また、食べに来たいです」
先輩は笑った。
「来ようか」
「……!」
その一言だけで、るなの頬がほんのり赤くなる。
けれど――
「……あっ!」
突然、るなが声を上げた。
「どうした?」
「これ!」
るなが指差したのは――
「秋いちごパフェ」
と書かれた看板だった。
「……」
先輩が黙る。
るなも黙る。
二人で看板を見る。
「……食べる?」
先輩が聞く。
「……」
るなの顔に、じわじわと笑顔が広がる。
「……食べたいです」
「やっぱり」
「だって……」
るなは小さく笑った。
「食べ比べしたら、今度はスイーツも気になるじゃないですか」
「そういうもの?」
「そういうものです!」
るなは元気よく答える。
そして二人は、いちごスイーツのコーナーへ向かって歩き出した。
その途中。
先輩がふと口を開く。
「そういえば」
「はい?」
「さっき、俺との運命って言ったの……」
「……!」
るなが固まる。
先輩も固まる。
二人とも、あの瞬間を思い出した。
「…………」
「…………」
沈黙。
るなの顔が、少しずつ赤くなる。
「……あれは」
「うん」
「……いちごの話ですから」
「分かってる」
「……」
「……」
また沈黙。
先輩が少し笑う。
「でも」
「はい?」
「ちょっと期待した」
「…………!」
るなの顔が一気に赤くなる。
「せ、先輩……!」
「ごめんごめん」
「もう……!」
るなは頬を膨らませる。
そして、少しだけ俯いた。
「……ずるいです」
「何が?」
「そういうこと言われたら……」
「うん?」
るなは小さな声で呟く。
「……意識しちゃうじゃないですか」
「…………」
今度は先輩が固まった。
「……」
るなも自分が何を言ったのか理解して――
「…………あ」
二人とも、再び固まる。
秋風が吹く。
コスモスが揺れる。
遠くでマルシェの音楽が流れている。
そして数秒後。
「……パフェ」
るなが呟いた。
「ん?」
「パフェ食べましょう」
「……今?」
「はい」
「話、戻すの?」
「戻します!」
るなは真っ赤な顔のまま、先輩の前を歩き始める。
「……いちごパフェが待ってますから!」
先輩はそんなるなの背中を見ながら、ふっと笑った。
「……やっぱり、るなだな」
「何か言いました?」
「いや」
「?」
るなは振り返る。
その顔には、もういつもの笑顔が戻っていた。
「早く行きましょう!」
「はいはい」
二人は並んで歩いていく。
秋の午後。
赤いいちごと、赤くなった二人の頬。
そのどちらも、秋の日差しの中で――
まるで小さなイルミネーションのように、優しく輝いていた。🍓🍁✨
第3節「いちごスイーツは、反則です♡」🍓🍰
「秋いちごパフェ、発見!」
「……ありました」
秋マルシェの一角。
そこには、秋いちごを使ったスイーツ専門の小さなカフェブースがあった。
ショーケースの中には――
いちごタルト。
いちごミルフィーユ。
いちご大福。
いちごミルク。
いちごロール。
そして、一番目立つ場所に――
「秋いちごスペシャルパフェ」
という大きな文字。
「…………」
るなが固まる。
先輩も看板を見る。
「……」
二人とも何も言わない。
ただ、るなの瞳だけが、キラキラと輝いていた。
「……るな」
「はい」
「食べたい?」
「……はい」
即答だった。
「ですよね」
「はい」
「……じゃあ、一つ頼もうか」
「……!」
るなの顔が一気に明るくなる。
「いいんですか?」
「うん」
「本当に?」
「本当に」
「……やったぁ……!」
るなは小さくガッツポーズ。
ところが、メニューを見ているうちに、また悩み始めた。
「……」
「どうした?」
「これも……」
「うん」
「これも美味しそう……」
「……」
「こっちはタルト……」
「……」
「でもパフェも……」
「るな」
「はい?」
「さっき食べ比べしたばっかりだぞ」
「そうなんですけど……」
るなはメニューを見つめる。
「いちごスイーツは別腹です」
「……」
「これは常識ですよ?」
「初めて聞いた」
「今、作りました」
「作ったの?」
「はい」
🤣
先輩は笑いながら、
「じゃあパフェで」
「はいっ!」
注文を済ませる。
しばらくして――
「お待たせしました」
店員さんが運んできたものを見て、るなの口がぽかんと開いた。
「…………」
そこには――
大きなグラス。
その中にたっぷりのいちご。
いちごソース。
バニラアイス。
生クリーム。
スポンジ。
そして、一番上には大粒の秋いちごが三つ。
さらに、薄くスライスされた秋いちごが花びらのように飾られていた。
夕方の光を受けて、いちごがキラキラ輝いている。
「……すごい」
るなが呟いた。
「綺麗だな」
「……食べていいですか?」
「もちろん」
「いただきます!」
るなはスプーンを手に取った。
しかし――
一瞬、止まる。
「……」
「どうした?」
「どこから食べればいいんでしょう?」
「好きなところからでいいんじゃない?」
「……なるほど」
るなは真剣に考える。
そして――
「では……」
一番上の大粒のいちごを、そっとスプーンですくう。
「これにします」
「最初から一番いいところ?」
「もちろんです」
「潔いな」
「だって、最初の一口って大事じゃないですか」
るなは、いちごを見つめる。
「……いただきます」
ぱくっ。
「…………!」
目を閉じる。
そして――
「……幸せ……」
小さく呟いた。
その表情を見て、先輩も笑った。
「そんなに?」
「はい……」
「じゃあ、食べてよかったな」
「はい!」
るなは満面の笑顔。
「これ……反則です」
「何が?」
「美味しすぎます」
「一つのパフェと、二つのスプーン」
しばらくすると、るなはパフェを食べる手を止めた。
「……先輩」
「ん?」
「これ……」
「うん?」
るながパフェを見る。
「一人で食べるには、ちょっと大きいですね」
「そうだな」
「……」
「……」
二人の間に、少しだけ沈黙。
そして、るながスプーンを持ったまま言った。
「……一緒に食べません?」
先輩が少し驚く。
「いいの?」
「はい」
「じゃあ……」
先輩がもう一つスプーンを取る。
「いただきます」
「はいっ」
二人で同じパフェを食べ始める。
るながいちごを食べる。
先輩がアイスを食べる。
るながスポンジを食べる。
先輩がいちごソースをすくう。
「……」
「……」
最初は普通だった。
でも――
ふと気づく。
同じグラスから。
同じパフェを。
二人で食べている。
るなの手が止まる。
「……」
先輩も気づいたようだった。
「……なんか」
「はい」
「ちょっと変な感じだな」
「……ですね」
るなの頬が、ほんのり赤くなる。
「……でも」
「うん?」
「楽しいです」
「俺も」
その言葉に、るなは小さく笑った。
「じゃあ、もっと食べましょう」
「うん」
再びスプーンが動く。
けれど今度は――
さっきより少しだけ、お互いを意識していた。
その時。
るなが、いちごを一粒すくった。
「……あ」
「どうした?」
「これ……」
大粒のいちご。
真っ赤で、形も綺麗。
「一番大きいです」
「ほんとだ」
るなは、そのいちごを見つめる。
そして――
「先輩、どうぞ」
「え?」
「これ、食べてください」
「俺に?」
「はい」
「いいの?」
「はい」
るなは笑った。
「今日は一緒に食べてるので」
「……」
先輩は少し照れながら、
「じゃあ……いただきます」
いちごを受け取る。
ぱくっ。
「……美味しい」
「ですよね!」
るなは嬉しそうに笑った。
「じゃあ……」
先輩がパフェを見る。
そして、赤いいちごを一粒すくう。
「今度は、るなの番」
「……え?」
「はい」
差し出されたスプーン。
その先には――
真っ赤ないちご。
「…………」
るなの顔が固まった。
「どうした?」
「……先輩」
「うん?」
「それ……」
「いちご」
「そうじゃなくて……」
るなの頬が、どんどん赤くなる。
「……食べさせてくれるんですか?」
「……」
先輩もそこで固まった。
「…………」
「…………」
二人とも、動かない。
秋の風が吹く。
コスモスの花が揺れる。
マルシェのざわめきが、遠くに聞こえる。
そして――
先輩が少し照れながら言った。
「……嫌なら、やめるけど」
るなは俯いた。
「…………」
そして、小さな声で――
「……嫌じゃ、ないです」
先輩の手が、ほんの少しだけ動く。
「……じゃあ」
るなは顔を上げる。
真っ赤になりながら――
「……いただきます」
一歩。
二人の距離が近づく。
そして――
🍓
その瞬間。
るなの頭の中には、たった一つの言葉が浮かんでいた。
「……これ、反則です……♡」
秋の夕暮れ。
コスモスの向こうで、街の明かりが一つ、また一つと灯り始めていた。
夏の花火のような激しい光ではない。
もっと小さくて。
もっと温かくて。
二人の間だけに灯るような――
そんな光だった。
そして、るなはまだ知らない。
この日が二人にとって――
初めての「ファーストバイト」になることを。🍓💕✨
第4節「ファーストバイト♡」💕🍓
「……いただきます」
差し出されたスプーンの先。
そこには、真っ赤な秋いちご。
るなは、そのいちごを見つめたまま動けなかった。
「…………」
先輩も動けない。
「…………」
二人の間に、不思議な沈黙が流れていた。
ほんの数秒。
なのに――
るなには、それがものすごく長く感じられた。
「……先輩」
「うん?」
「……近いです」
「……ごめん」
先輩が少しだけ手を引こうとする。
すると、るなが慌てて言った。
「……あっ!」
「ん?」
「……その……」
るなは俯いた。
「……嫌って言ったわけじゃないです」
「……うん」
「ただ……」
頬がどんどん赤くなる。
「こういうの……初めてだから……」
その言葉に、先輩も少し照れたように笑った。
「俺も」
「……え?」
「こういうの、初めて」
「…………」
るなが顔を上げる。
先輩も少しだけ赤くなっている。
それを見た瞬間――
るなの胸が、きゅっと締まった。
「……」
さっきまで恥ずかしくて逃げ出したかったのに。
先輩も同じように照れている。
そう思ったら、不思議と怖くなくなった。
るなは小さく息を吸う。
そして――
「……いただきます」
ぱくっ。
秋いちごが、るなの口の中へ入った。
「……!」
甘い。
そして、ほんの少しだけ酸っぱい。
けれど、それ以上に――
胸の奥が熱くなる。
「……どう?」
先輩が聞く。
るなは口元を押さえながら、小さく頷いた。
「……甘いです」
「よかった」
「……でも」
るなは少しだけ先輩を見る。
「……いつもより、甘い気がします」
「いちごが?」
「……」
るなは一瞬迷って――
「……たぶん」
「たぶん?」
「……先輩が食べさせてくれたから」
「…………」
今度は先輩が固まった。
るなも、自分で言ってから気づいた。
「…………あ」
「…………」
「……私」
「……うん」
「今、すごいこと言いました?」
「……ちょっとだけ」
「…………」
るなの顔が、一気に真っ赤になる。
「忘れてください!!」
「無理だろ」
「忘れてください~~!!」
「はいはい」
先輩は笑った。
るなは両手で顔を隠した。
「もう……」
でも――
隠した指の隙間から見える口元は、少し笑っていた。
「今度は、るなの番」
しばらくして。
ようやく落ち着きを取り戻したるなは、残りのパフェを眺めた。
「……」
そして、ふと思う。
「……先輩」
「ん?」
「さっき……」
「うん?」
「私だけ食べさせてもらいましたよね」
「そうだな」
るながスプーンを見る。
そして――
にっこり笑った。
「じゃあ、今度は先輩の番です」
「……え?」
るなは、パフェの中から一番綺麗ないちごを選んだ。
「これ」
「……」
「はい」
今度は、るながスプーンを差し出す。
「食べてください」
先輩は少し驚いた顔をする。
「俺も?」
「はい」
「……いいの?」
「もちろんです」
「でも……」
「ファーストバイトなんですよね?」
「……!」
先輩が固まる。
るなも言った瞬間に――
「…………」
自分で顔が赤くなる。
「……言っちゃった」
「……言ったな」
「……はい」
二人とも、また黙る。
そして――
先輩が少し笑った。
「じゃあ……いただきます」
ぱくっ。
「……」
「どうですか?」
「甘い」
「ですよね!」
るなが嬉しそうに笑う。
「……でも」
先輩が続ける。
「さっきより甘いかも」
「……!」
「るなが食べさせてくれたから」
「…………」
るなの顔が真っ赤になる。
「……先輩」
「ん?」
「それ……」
「うん?」
「反則です……」
先輩が笑う。
「お互い様だろ」
「……」
るなは少しだけ俯いた。
「……そうですね」
そして――
二人で笑った。
食べ終わったパフェのグラス。
その底には、ほんの少しだけいちごソースが残っている。
るながそれを見つめる。
「……終わっちゃいました」
「美味しかったな」
「はい」
「また食べたい?」
「もちろんです」
即答。
先輩が笑う。
「じゃあ、また来よう」
「……!」
るなの目が輝いた。
「約束ですか?」
「うん。約束」
「……はい!」
るなは嬉しそうに頷いた。
そして、ふと気づく。
今日、二人で交わした「約束」。
それは、とても小さなものだった。
秋いちごを食べること。
パフェを一緒に食べること。
そして――
またここへ来ること。
でも。
るなにとっては、それだけで十分だった。
大きな言葉じゃなくても。
「好き」と言わなくても。
こうして一緒に笑える時間が、少しずつ増えていく。
それが、嬉しかった。
二人が席を立つ。
外へ出ると、夕暮れの空が淡いオレンジ色に染まっていた。
コスモスが風に揺れている。
街路樹の葉が、ひらりと舞う。
「……綺麗」
るなが呟く。
「秋だな」
「はい」
るなは空を見上げる。
夏の頃とは違う空。
夏の花火のような、眩しい光ではない。
もっと静かで。
もっと優しい。
それでも――
確かに心を照らしてくれる光。
るなは、隣を歩く先輩を見る。
「……先輩」
「ん?」
「今日は……」
「うん」
「ありがとうございました」
「こちらこそ」
「すごく楽しかったです」
「俺も楽しかった」
「……また一緒に来ましょうね」
「ああ」
るなは嬉しそうに笑った。
その笑顔は、夕暮れの街の中で――
まるで小さな光のように輝いていた。
そして、その手には。
今日買ったばかりの――
秋いちごの小さなパック。🍓
るなはそれを大切そうに抱えながら歩く。
「……」
ふと、いちごを見る。
そして小さく呟いた。
「……来年も、一緒に食べられますように」
先輩には聞こえないくらいの声だった。
けれど――
その願いは、確かにるなの心の中に灯った。
秋の夕暮れ。
コスモスの向こうに、一番星が瞬く。
そして二人の恋にも――
また一つ。
小さな光が灯った。🍓🍁✨
第5節「秋いちご色の約束」🍓🍁✨
「帰り道の小さな宝物」
マルシェを出る頃には、空はすっかり夕焼け色になっていた。
昼間の青空は、淡いオレンジ色に染まり始めている。
通りには、秋の風。
街路樹から舞い落ちた葉が、二人の足元を転がっていく。
「……秋ですねぇ」
るながぽつりと言った。
「さっきも言ってなかった?」
「言いましたっけ?」
「言ってた」
「じゃあ……今日二回目ですね」
「もっと言ってると思うけど」
「……そうかもしれません」
るなは笑った。
その手には、小さなビニール袋。
中に入っているのは――
今日買った秋いちご。
「……」
るなは歩きながら、袋の中をちらっと覗く。
赤い果実が、夕焼けを受けている。
まるで、さっきまでの自分たちの頬みたいだった。
「……ふふ」
思わず笑ってしまう。
「どうした?」
先輩が聞く。
「いえ……」
るなは少し考えてから答えた。
「今日って……ずっと赤かったなぁって」
「赤かった?」
「はい」
「何が?」
「いちごです」
「……」
「あと……」
るなは言いかけて止まった。
「あと?」
「……なんでもないです」
先輩は少し笑った。
「顔?」
「……!」
るなの足が止まる。
「先輩!」
「違う?」
「……違いませんけど!」
先輩も笑う。
「俺も結構赤かったと思う」
「……ですよね」
二人で顔を見合わせる。
そして――
「ふふっ」
「ははっ」
思わず笑ってしまった。
今日一日。
いちごを見て。
いちごを食べて。
いちごを食べさせ合って。
そして――
お互いに照れて。
真っ赤になった。
それだけなのに。
るなには、ものすごく大切な一日に思えた。
二人は駅へ向かう道をゆっくり歩く。
やがて、駅前のイルミネーションが見えてきた。
まだ完全な夜ではない。
けれど、街灯が一つずつ灯り始めている。
「……」
るなが立ち止まる。
「どうした?」
「……綺麗ですね」
夕暮れの街。
淡い空。
灯り始めた街灯。
そして、その向こうに揺れるコスモス。
本編で見た「秋色のイルミネーション」と同じ景色なのに――
今日は少し違って見えた。
「夏の花火とは、全然違いますね」
「そうだな」
「花火は、一瞬でぱーっと明るくなるけど……」
るなは街の灯りを見つめた。
「秋の光は、ゆっくり灯っていく感じがします」
先輩が頷く。
「確かに」
「だから……」
るなは小さく笑う。
「今日のことも、そんな感じなのかもしれません」
「今日?」
「はい」
るなは、手に持ったいちごの袋を見る。
「いちごを食べたことも」
そして少しだけ先輩を見る。
「一緒に笑ったことも」
さらに小さな声で、
「……ファーストバイトも」
「……」
先輩の顔が少し赤くなる。
「……」
るなの顔も赤くなる。
二人とも、また固まる。
「…………」
「…………」
そして――
るなが先に吹き出した。
「ふふっ……!」
先輩も笑う。
「また赤くなってる」
「先輩もです!」
「るなもだろ」
「……もう!」
二人の笑い声が、秋の夕暮れに響いた。
「来年も、また」
駅の改札が近づいてくる。
そろそろ帰る時間。
「今日は楽しかったです」
るなが言う。
「俺も」
「秋いちご、食べられてよかった」
「それが一番?」
「……」
るなは少しだけ考える。
そして――
「……違います」
「うん?」
「先輩と一緒だったことが、一番です」
「……!」
今度は先輩が言葉を失った。
るな自身も、少し恥ずかしそうに俯く。
「……本当ですよ?」
「……うん」
先輩は、優しく笑った。
「俺も」
その一言だけで――
るなの胸が温かくなる。
秋の風が吹く。
けれど、さっきまでのような少し冷たい風ではない。
なんだか心地よかった。
「……先輩」
「ん?」
「来年も……」
るなが言葉を選ぶ。
「秋いちご、食べに行きませんか?」
「来年?」
「はい」
「いいよ」
「……!」
あまりにも自然な返事だった。
だからこそ、るなは嬉しくなった。
「約束ですよ?」
「約束」
「絶対ですよ?」
「絶対」
「……じゃあ」
るなは小指を差し出した。
「指切りです」
「子どもみたいだな」
「いいじゃないですか」
先輩も笑いながら、小指を絡める。
「約束」
「……約束です」
小さく指切りをする。
それだけ。
それだけなのに――
るなの心には、また一つ光が灯った。
改札の前。
「じゃあ、また」
「はい。また明日」
「気をつけて」
「先輩も」
二人はそれぞれの方向へ歩き始める。
数歩進んだところで――
「……あっ!」
るなが振り返った。
先輩も振り返る。
「どうした?」
「いちご!」
るなが袋を掲げる。
「今日買ったいちご、家に帰ったら食べます!」
「うん」
「……でも」
るなは少し考えてから笑った。
「今日の分は、もう十分甘かったので」
「……」
「残りは明日食べます」
「そうだな」
るなは手を振る。
「また明日!」
「また明日」
二人はそれぞれの道へ。
けれど――
るなは何度も振り返りながら歩いていた。
そして、家に着く頃。
空はすっかり夜になっていた。
部屋に戻ったるなは、今日買った秋いちごをテーブルの上に置いた。
「……」
パックを開ける。
赤い果実が並んでいる。
るなは、その中から一粒だけ取り出した。
今日食べた一粒とは違う。
けれど――
なぜか、今日のことを思い出す。
「……」
マルシェ。
食べ比べ。
パフェ。
先輩の「俺との運命じゃなくて?」
そして――
ファーストバイト。
「…………」
るなの顔が、また赤くなる。
「……もう……」
一人で頬を押さえる。
「思い出すだけで恥ずかしい……」
でも。
その顔は、笑っていた。
るなは赤いいちごを眺める。
そして、そっと呟く。
「……来年も、一緒に食べられますように」
小さな願い。
まだ一年も先のこと。
約束が叶うかどうかなんて、誰にも分からない。
それでも――
「また一緒に」
そう言えることが、嬉しかった。
窓の外。
秋の夜空に、月が浮かんでいる。
その光が部屋の中へ差し込む。
テーブルの上の秋いちごを、淡く照らしていた。
赤いいちご。
白い月明かり。
そして――
るなの頬に残った、ほんのりとした赤。
夏の花火のように激しくはない。
けれど、確かに心の中で灯り続ける光。
秋の恋は、少しずつ。
ゆっくりと。
その色を深めていく。
るなは最後に、もう一度いちごを見つめた。
「……来年も、絶対ですよ?」
その約束を胸に――
秋の夜は、静かに更けていった。
🍓外伝1・完
「秋いちご♡ファーストバイト!」
それは、二人が初めて食べさせ合った日。
そして――
「来年も一緒に」という、小さな未来の約束が生まれた日。 🍓🍁✨