入る前は、ちゃんと決めていました。損切り10pips、利確20pips。リスクリワードは1対2です。
それが、含み損12pipsで「ここは戻る」と思って損切りをずらす。含み益8pipsでは、なんとなく怖くなって決済してしまう。
気づくと、実績のリスクリワードは1対0.5あたりです。
私も何度も経験あるのですが、これは意志が弱いから起きているわけではありませんでした。
リスクリワードというのは、1回のトレードで「失ってもいい幅」と「取りにいく幅」の比率です。多くの解説は「1対2以上にしましょう」で終わります。ただ、成績に効いているのは注文時の数字ではなく、決済したときの数字になります。
1.私の16営業日の記録。ロングとショートで平均が3.1倍違います
7月20日から8月12日までの16営業日、朝9時台のドル円だけを記録しています。私1人の記録なので、母数としては小さいです。
1. ロングは15回成立、平均21.95pips、中央値14.2pips
2. ショートは13回成立、平均7.02pips、中央値5.4pips
3. 平均で3.13倍、中央値でも2.63倍の差
保有時間も、ロングは平均31.9分に対しショートは2.2分。14.8倍です。
つまり、同じ「仲値トレード」でも、方向で取りにいける幅がまるで違うということです。ショートで1対2を狙うと、平均7pipsしか動かない場面で14pips待つことになります。
2.リスクリワードと勝率は、勝手に交換されます
値動きに方向の偏りがないとすると、損切り幅をa、利確幅をbとして、利確に先に届く確率は a ÷ (a + b) になります。損切りを10pipsに固定して計算しました。
1. 利確10pipsなら1対1で、勝率は 10 ÷ 20 = 50.0%
2. 利確20pipsなら1対2で、10 ÷ 30 = 33.3%
3. 利確30pipsなら1対3で、10 ÷ 40 = 25.0%
1対3にすると勝率はちょうど半分に落ちます。20,000回のシミュレーションでも実測26.2%で、理論値とほぼ同じでした。
つまり、リスクリワードを広げることは勝率を売ってリターンを買う取引になります。無料ではありません。
数学の上では1対1が五分です。ただ、体感の交換レートは違います。
行動経済学の研究チーム、ブラウン氏と今井氏らは、150本の論文から607個の推定値を集めて、損失を嫌がる強さを計算しました。結果は約1.96倍でした。
つまり、1万円を失う痛みは、1万円を得る喜びのおよそ2倍あるということです。1対1が守れないのは当然でした。数学的には五分でも、感じ方の上では最初から負けている勝負になります。
3.リスクリワードを広げても、期待値は増えません
ここが今日いちばん意外な部分かもしれません。
さっきの計算に、スプレッド(売値と買値の差。実質の手数料です)を0.2pips入れて、1回あたりの期待値を出しました。
1. 1対1 勝率50.0% 期待値 マイナス0.200pips
2. 1対2 勝率33.3% 期待値 マイナス0.200pips
3. 1対3 勝率25.0% 期待値 マイナス0.200pips
全部同じでした。式を整理すると、損切り幅も利確幅も打ち消し合って消え、残るのはスプレッドの値だけになります。
つまり、リスクリワードを広げるだけでは優位性は1ミリも生まれないということです。
では意味がゼロかというと、そうではありません。効くのは別の経路です。
決済に届くまでの平均時間は、損切り幅と利確幅の掛け算に比例します。同じ1か月なら1対3の取引回数は3分の1、払うスプレッドも3分の1になります。
広げて増えるのは勝ちやすさではなく、減るのはコストを払う回数のほうです。地味ですが、ここだけが確かな効果になります。
ちなみに金融先物取引業協会の速報では、6月の出来高は月末の建玉合計の60.0倍でした。その速さで1対3を狙うと、届く前に時間切れになる場面が増えます。
4.18万人の記録では、計画と実績が逆さまでした
アメリカとドイツの研究チーム、ヘイマー氏とイマス氏らは、世界150か国以上、18万7,521人分の取引データを調べました。多くはドル円やユーロドルなどの主要通貨ペアです。
注文を出す時点では、約46%が「損切りは近く、利確は遠く」の形で入っていました。中央値で見ると、利確のほうが損切りより394ベーシスポイント遠い位置にあります。ベーシスポイントは0.01%のことです。
問題は決済でした。同じポジションを決済時点で見ると、今度は損切りのほうが利確より546ベーシスポイント遠くなっています。符号ごと逆さまです。
含み損が出ると損切りを遠ざけ、含み益が出ると手で決済する。どちらも、次に多い行動を20ポイント以上引き離していました。
面白いのは、勝率のほうは上がっていることです。損失で終わったポジションは4割未満。それでも成績は良くなりません。負けの1回が勝ちの1回よりずっと大きいからです。利益の分布は、計画どおりならプラス方向に0.3だけ歪むはずが、実際はマイナス方向に3.29歪んでいました。
つまり、私たちは無意識のうちに勝率を買って、リスクリワードを売っているということです。
同じ研究チームの実験でも、84.0%が「損切り近め、利確遠め」で始めています。それなのに、損切り水準に触れた人の80.7%が、そこでリスクを広げる方向にずれました。
計画は正しい。実行だけが逆になる。ここが問題の中心です。
5.実際にどう決めるか
では、順番に組み立てていきます。3つだけです。
1つ目。リスクリワードを先に決めない。損切り幅を先に決める。順番が逆だと、利確に合わせて損切りを動かすことになります。まず「ここまで来たら想定が崩れる」価格を決める。リスクリワードは、そのあとに出る結果の数字でしかありません。
2つ目。決済の権限を、注文と同時に手放す。これが結論になります。エントリーと同時にOCO注文(利確と損切りを同時に置き、片方が約定したらもう片方が自動で消える注文)を入れて、そのあとは触らない。さきほどの実験では、計画を変更できない形にするとリスクを取れる人が13ポイント増えました。守れる人が増えたのではなく、守らなくていい仕組みにしたから増えています。
3つ目。ロングとショートで別のリスクリワードを持つ。私の16営業日では平均獲得幅が3.13倍違いました。方向ごとに記録を分けて、それぞれの中央値から決めるのがおすすめです。
野球で例えるなら、全打席でホームランを狙うのをやめる、という話です。次はストレート?カーブ?ってなる場面と、初球から振っていい場面は違います。
6.私の負けパターン
最後に、私がやってしまった負けパターンをお伝えします。
1. 含み損12pipsで損切りを20pipsに広げる 戻らなかったときに、1対2が1対0.2になります。
2. 含み益8pipsで利確する 20pips狙いのはずが実際は8pips。勝率は上がるので、しばらく気づきません。
3. ショートにもロングと同じ利確幅を置く 届かずに戻ってきます。
ルールを守る、というより、守らなくていい形にしておく。これが大事だと改めて気付きました。
まとめ
覚えて帰っていただきたいのは3つです。
1. 広げると勝率は機械的に下がります。1対1で50%、1対3で25%
2. 広げるだけでは期待値は上がりません。取引回数が減ってコストが減るだけです
3. 実績のリスクリワードは決済時に決まります。18万人のデータでは符号が逆転していました
今日やることは一つだけです。
次の1回だけ、エントリーと同時にOCO注文を置いて、そのあと一度も触らない。
まずは「触らなかった1回」を作るところからでOKです。
以上が、リスクリワードの決め方になります。ここまでご覧いただき、ありがとうございました。
note
ここに書いたことは、すべて無料で学べる範囲の内容です。OCO注文の置き方も、損切り幅の考え方も、調べれば出てきます。
ただ、実際にやると次の壁が出てきます。
損切り幅は「想定が崩れる価格」に置く、と書きました。ではその価格はどこか。相場の向きで変わります。つまり、リスクリワードを決める前に環境認識が要るということです。
その環境認識で、次の3つが起きます。
1. 時間足を切り替えているうちに、狙っていた場面が終わっている
2. 疲れた日は日足を飛ばし、含み損があると都合のいい時間足だけ見る
3. 昨日レンジと判断したチャートを、今日は上昇トレンドと見てしまう
これも意志の問題ではありません。毎回同じ基準で確認し続けること自体が、重い作業だからです。
その確認作業を引き受けるインジケーターを作って、noteに置いています。
note:環境認識に、毎日何分使っていますか
判断を任せるものではありません。その前の確認作業を引き受けるだけです。使っても負けるときは負けます。
急いで見る必要はありません。まずは記録から始めてください。