商業出版を目指して企画書をつくっても、それが出版社の編集者に読んでもらえるとは限りません。
そもそも、外部からの企画書を受け付けていない出版社も少なくありません。著者にとっては、企画の内容を評価してもらう以前に、編集者に届けること自体がひとつのハードルなのです。
では、企画書を読んでもらえたら、内容さえよければ出版が決まるのでしょうか。
実は、そうとも限りません。
20年以上、商業出版の企画・執筆・編集に携わってきた経験から、今回は「よい企画書」と「出版社が出版を決める企画書」の違いについて考えてみたいと思います。
編集者が「この本をつくりたい」と思う企画とは?
商業出版では、まず担当編集者に「この本をつくってみたい」と思ってもらうことが大切です。
編集者は企画書を読みながら、その本が実際に書店に並んだ姿を想像します。
誰がこの本を読むのか。どんなタイトルなら手に取ってもらえるのか。似たテーマの本があるなかで、この本ならではの魅力は何か。
そして、担当編集者が企画を気に入っても、それだけで出版が決まるわけではありません。
出版社では通常、企画会議などを経て、内容の魅力だけでなく、想定読者や販売の見込み、採算性なども含めて検討されます。
出版社は文化を届ける場所であると同時に、本をつくり、販売する会社でもあります。
ですから、企画書がよくできていても、出版に至らないことはあるのです。
「この企画、絶対に面白い!」と思っていても
私はこれまで、何度も出版社に企画を持ち込んできました。
もちろん、持ち込むときはいつも「この企画、絶対に面白い!」と思っています。
ところが、出版社の編集者と話し合い、企画をブラッシュアップしていくうちに、当初の構想から大きく変わることがあります。
少し方向性を調整する程度ではなく、結果的に、最初に考えていたものとはまったく違う本になったことさえあります。
それでも、完成した本を振り返って「企画を変えてよかった!」と思った経験が、私には何度もあります。
なぜなら、企画(視点)を変えることによって、最初に伝えたかったことが、より多くの読者に、より伝わりやすい形になることがあるからです。
著者にとっては長年の研究や経験から得た大切な発見でも、初めてそのテーマに触れる読者には、その面白さがすぐには伝わらないかもしれません。
そこで、どんな切り口なら興味を持ってもらえるのか、どこから話を始めれば読者を引き込めるのか、どんな構成にすれば魅力が伝わるのかを考える。
著者が伝えたいことを、読者に届く形にする。それは、編集者ならではの技術です。
企画を変えることは、思いを曲げることではない
著者にとって大切な企画ですから、「自分の考えた内容を変えられたくない」と感じる気持ちもわかります。
けれど、企画を変えることは、必ずしも自分の思いを曲げることではありません。
むしろ、別の視点を取り入れることで、企画の可能性が大きく広がることもあります。
出版社は、本をつくるだけでなく、読者に届け、販売することまで考えなければなりません。編集者からの提案には、そうした視点も含まれています。
だからこそ、最初の企画に固執しすぎず、プロの意見にも耳を傾けてみてほしいのです。
もちろん、言われたとおりに何でも変えればいい、ということではありません。
大切なのは、著者と編集者が一緒に考え、よりよい形を探していくこと。
自分の思いを大切にしながら、読者にとっても、商品としても価値のある一冊をつくる。
私は、そんな本づくりが理想だと思っています。
企画書は、出版社に提出する前に磨いておきたい
商業出版を目指す場合、企画書を受け付けている出版社は限られています。
だからこそ、提出前にできるだけ企画を整えておくことをおすすめしています。
もちろん、最初から完璧な企画書である必要はありません。出版社の編集者と出会ってから、企画が大きく育つこともあります。
ただ、最初の企画書で本の魅力が十分に伝わらなければ、その可能性に気づいてもらえないかもしれません。
大切なのは、立派な言葉を並べることではなく、「なぜ今、この本を、この読者に届けたいのか」が伝わること。
そして、編集者がその先の本づくりを想像できることです。
出版の形はひとつではない
ここまで商業出版についてお話ししてきましたが、私は、すべての方が商業出版を目指すべきとは考えていません。
今は、商業出版のほかにも、電子書籍や自主出版など、本を世に送り出すさまざまな方法があります。
大切なのは、「本を出すことによって、何を実現したいのか」ということ。
多くの書店に並べたいのか。自分の専門知識や経験を必要な人に届けたいのか。自分の考えや作品を、一冊の本として残したいのか。権威性を高めたいのか。ご自身の講座などのテキストブックも兼ねたいのか。
目的によって、ふさわしい出版方法も変わってきます。
ただ、どんな方法を選ぶとしても、私が大切にしたいことは変わりません。
企画を練り、構成を考え、文章を磨き、読者に伝わる一冊に仕上げること。
出版方法にかかわらず、商業出版と同じように、編集の行き届いた質の高い本を目指したい。
それが、長年、本づくりに携わってきた私の考えです。
最後に
よい企画書を書けば、必ず商業出版できるわけではありません。
けれど、企画を磨くことには意味があります。
自分では当たり前だと思っていた経験に、読者にとっての新しい価値が隠れているかもしれません。反対に、いちばん伝えたいことが、企画書のなかで埋もれていることもあります。
本づくりは、「何を書くか」と同じくらい、「どう届けるか」が大切です。
商業出版を目指す方も、それ以外の方法で本を出そうと考えている方も、一度「この本は誰に、何を届けたいのだろう?」と問い直してみてください。
そこに、企画をもう一段育てるヒントがあるかもしれません。
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