以前、職場の人間関係についてご相談くださった方から、こんなお話を聞いたことがあります。
その方の職場に、新しい人が入ってきたそうです。
仕事を教える機会もあるので、朝会えばこちらから、
「おはようございます」
と声をかける。
ところが、返事がほとんどない。
最初のうちは、
「まだ緊張しているのかな」
「聞こえなかったのかもしれない」
と思っていたそうです。
新人ですし、新しい職場に慣れるまで時間がかかる人もいます。
だから、その方も最初から悪く受け取らないようにしていました。
けれど。
次の日も、その次の日も。
こちらから挨拶をしても、返事がなかったり、目を合わせないまま小さく返されるだけだったり。
それが何度も続くうちに、だんだんモヤモヤするようになったといいます。
「挨拶くらい普通にすればいいのに」
そんな気持ちが出てきたそうです。
■「こんなことで気になる私のほうが細かいのでしょうか」
その方が気にしていたのは、新人の態度だけではありませんでした。
むしろ、
「こんなことで腹を立てる自分のほうが細かいのでしょうか」
ということも気になっていたのです。
新人が仕事で大きなミスをしたわけではない。
自分に直接ひどいことを言ったわけでもない。
ただ、挨拶をほとんどしない。
たったそれだけと言えば、それだけです。
だからこそ、
「私が気にしすぎなのかな」
「最近は、挨拶をそれほど気にしない人もいるのかもしれない」
「別に放っておけばいいのかな」
そんなふうにも考えたそうです。
それでも、朝になってまた挨拶が返ってこないと、やっぱり少し嫌な気持ちになる。
こういう小さなモヤモヤって、職場では意外とあるのではないでしょうか。
遅刻ではないけれど、いつも時間ぎりぎりに来る人。
何かしてもらっても「ありがとう」を言わない人。
メールやチャットの返事が妙にそっけない人。
こちらから話しかけなければ、ほとんどコミュニケーションを取らない人。
大事件ではありません。
わざわざ誰かに相談するほどでもない気もする。
でも、毎日少しずつ気になる。
人間関係のストレスは、案外こういう小さなところから積み重なっていくものなのかもしれません。
■上司の一言で「私だけじゃなかった」と思えた
そんなある日。
その方が上司と何気なく話していたとき、新人の話になったそうです。
すると上司が、
「挨拶のことは、こちらも気になっているよ。仕事って成果だけじゃなくて、普段どう周りと関わっているかも含めて見ているからね」
という趣旨の話をしたそうです。
それを聞いたとき、その方は、
「やっぱり私だけが気にしていたわけではなかったんだ」
と思ったといいます。
そして、少しだけスッキリしたそうです。
新人の評価が低いことを喜んだわけではありません。
「ほら、私が正しかったでしょう」
と思ったわけでもありません。
ただ、
「私だけが神経質だったわけではなかった」
「周りの人も、ちゃんと気づいていたんだ」
と分かったことで、少し気持ちが軽くなったのだそうです。
この感覚、少し分かる気がします。
人間関係でモヤモヤしているとき、
「こんなふうに感じるのは自分だけなのかな」
と思うと、余計につらくなることがあります。
だから、誰かから、
「私も気になっていたよ」
と言われただけで、妙に安心することがあります。
■でも、そのあとに一つの疑問が残ったそうです
その方は、少し気持ちが落ち着いたあとで、ふと考えたそうです。
「でも、私はどうしてこんなに挨拶が気になったんだろう」
そこから、話が少し変わっていきました。
考えてみると、その方自身は昔から挨拶をとても大切にしてきたそうです。
朝会えば「おはようございます」。
帰るときには「お疲れさまでした」。
何かしてもらったら「ありがとうございます」。
本人にとっては、特別なことではありません。
むしろ、
「それが普通」
だと思っていました。
けれど、その「普通」の中にこそ、その人自身の価値観が入っていることがあります。
その方の場合は、
人には最低限の礼儀を持って接したい。
一緒に働く人には敬意を持って接したい。
人を無視するような態度は取りたくない。
自分が大切にしているルールは、ある程度相手にも大切にしてほしい。
そんな思いがあったのかもしれません。
つまり、挨拶そのものより、
「人としてきちんと扱われている感じ」
を大切にしていたのではないかと思うのです。
■人にイライラするとき、自分が大切にしているものが見えることがある
人に対して強くモヤモヤするとき。
もちろん、相手側に問題があることもあります。
ただ、それだけではなく、
自分が何を大切にしているのか
が見えてくることもあります。
時間にルーズな人がどうしても許せないなら、自分は時間や約束を大切にしているのかもしれません。
「ありがとう」を言わない人が気になるなら、感謝を言葉にすることを大切にしているのかもしれません。
人によって態度を変える人を見ると腹が立つなら、公平であることを大切にしているのかもしれません。
仕事を雑にする人にイライラするなら、責任感や丁寧さを大切にしているのかもしれません。
もちろん、何でも意味づけすればよいという話ではありません。
疲れている日は、いつもなら気にならないことにイライラすることもあります。
でも、
「私は、なぜこれがこんなに嫌なんだろう」
と少し考えてみると、自分でも気づいていなかったものが見えてくることがあります。
人へのモヤモヤは、できれば感じたくないものです。
けれど、ときどきそこには、
「あなたは、これを大事にしていますよ」
というサインが隠れていることもあるのです。
■「普通は挨拶するでしょ」は、本当にみんなの普通なのか
一方で、もう一つ大切なことがあります。
それは、
自分にとっての普通が、相手にとっても普通とは限らない
ということです。
今回のお話に出てきた新人が、なぜ挨拶をあまりしなかったのか。
本当のところは本人にしか分かりません。
人付き合いそのものが苦手だったのかもしれない。
緊張すると声が出にくい人なのかもしれない。
挨拶をそれほど重要なものだと思っていないのかもしれません。
育ってきた環境や、これまで働いてきた職場の文化が違った可能性もあります。
ですから、
「挨拶をしない人は悪い人」
とまで決めつけるのは違うと思います。
こちらが当然と思っていることを、相手も同じ温度で大切にしているとは限りません。
ただ、だからといって、
「人によって価値観が違うのだから、あなたが気にするのがおかしい」
という話でもありません。
自分にとって挨拶が大切なら、
「私は、人との間に礼儀や敬意があることを大事にする人なんだな」
と分かればいいのです。
相手の価値観を認めることと、自分の価値観を否定することは別です。
■人間関係の悩みには「相手」と「自分」の両方がいる
占いのご相談では、
「あの人は私のことをどう思っていますか」
「あの人はなぜ、あんな態度を取るのでしょう」
「私たちは相性が悪いのでしょうか」
というご質問をいただくことがあります。
もちろん、相手について見ることもあります。
でも私は、
「あの人が悪いからです」
「相性が悪いから仕方ありません」
だけで終わらせるのは、少しもったいないと思っています。
その関係の中で、
自分は何に傷ついたのか。
何を不公平だと思ったのか。
どんな距離感なら心地よいのか。
本当は相手にどう接してほしかったのか。
そうしたところにも、その方自身が大切にしているものが表れています。
人間関係の悩みは、相手を知るきっかけであると同時に、
自分を知るきっかけ
にもなるからです。
■占いも「自分では気づいていない価値観」を見る方法の一つ
自分を知る方法は、占いだけではありません。
一人でゆっくり振り返ってみてもいいでしょう。
誰かに話すことで初めて気づくこともあります。
心理学的な自己分析が役立つこともあります。
私は占い師なので、その一つとして占星術という角度から、その方の考え方や人間関係の傾向を見ることがあります。
人と関わるうえで何を大切にしやすいのか。
どんな態度に傷つきやすいのか。
何を「失礼」「不公平」「冷たい」と感じやすいのか。
どのくらいの距離感で人と付き合うと心地よいのか。
こうした部分は、本人にとって当たり前すぎるほど当たり前で、なかなか自覚できていないことがあります。
占いというと、未来を当てるものというイメージが強いかもしれません。
でも、
「私はどういうことを大切にする人なんだろう」
と整理するために使うのも、私は一つの使い方だと思っています。
■あなたが、なぜか許せないことは何でしょう
今回ご紹介した方にとっては、たまたま「挨拶」がそのきっかけでした。
でも、人によって引っかかる場所は違います。
時間にルーズな人が気になる。
返信をしてくれない人が気になる。
約束を軽く扱う人が苦手。
感謝を言葉にしない人にモヤモヤする。
人によって態度を変える人を見ると、とても嫌な気持ちになる。
もし、あなたにも
「なぜかこれはすごく嫌なんだよね」
ということがあったら、一度こんなふうに考えてみてください。
「あの人は、どうしてあんなことをするんだろう」
だけではなく、
「私は、なぜそれがこんなに気になるんだろう」
と。
そこには、自分がずっと大切にしてきたものが隠れているかもしれません。
私の鑑定でも、人間関係を善悪や相性だけで判断するのではなく、
「あなた自身は、何を大切にしている人なのか」
というところも大切にしています。
自分では当たり前すぎて気づいていない部分を、占いという少し違った角度から眺めてみる。
それによって、人との関わり方が少し楽になることもあります。
誰かにモヤモヤした日は、相手のことだけを考えて終わらせず、
「私は何を大切にしていたんだろう」
と、ほんの少しだけ自分にも目を向けてみる。
人間関係の悩みの中には、自分自身を知るためのヒントが隠れていることがあります。