翌日のことである。
Xはいつも昼頃起きる。
この日は休日。
私は朝早く起きて、
Xのできない、外出して行うことをこなす。
それは買い物だったりとか、
溜まった資源ごみのゴミ出しとか。
この日もそれらをこなしたあと、
Xが起きてきた音がすぐに拾えるように、
部屋の扉を開けたままBalatroをプレイしていた。
そして、いつもの休日のように、
Xがカーテンを開けるしゃっという音がする。
不敵に微笑むジョーカーたちに別れを告げ、
朝の挨拶に向かう。
そこには、いつもより数段晴れやかなXがいた。
私「おはよう、Xちゃん」
Xは朝に弱い。
気分がすぐれなかったり、体調がすぐれなかったり。
起きるだけで一苦労なため、
常に昼過ぎの起床になる。
Xが自称したわけではないけれど、
スターシードにはあるあるらしい。
そんなXが、
今日この日の朝というか昼はとても穏やかで、
晴れやかだった。
昨日はなしたことが良かったのだろうか。
朝食というか昼食を終えたXと、
ドライブに出かける。
この郊外の川沿いの道をドライブするのも、
あと何回だろうか。
こっちに引っ越してくる前に、
急遽故障した前の車のかわりに購入したこの車。
中古車販売店に、積もるほどの大雪の日に二人でいった。
雪の中に佇む可愛らしいポップなカラーのボディに、
少し予算オーバーだけど、これしかないと二人で決めた。
買った頃は40000キロ台だった走行距離も、
今日84000を超えた。
なんとなくだけど、85000キロまでは乗ろうと、
70000キロを超えたときに考えていた。
あと1000キロ。
今日20キロぐらい走ったから、
またカウントダウンが進んだ。
こっちへ引っ越してきたときも、
この車でXを連れてきた。
Xを救えない悔しさでいっぱいだったのを覚えている。
「次はなんの車にするの?」
「あー、利便性で選ぶかも。
災害時に強いとか。ハイエースになるかもよw」
私は別にお金に余裕があるわけじゃない。
選択肢も限られている。
まぁ、予算に余裕があっても、地味なものを選びそうだけど。
それでも、最近は、好きな声優さんができたから、
その人にちなんだ痛車にするかも。
ちなみに、オタ活にもハイエースは便利らしい。
なるほど、あながち冗談の選択肢ではないかもしれない。
ふと、横のXを見る。
やはり、今日はいい顔をしている。
「それよりさ、今日、すごくいい顔している。
いつもいいけど、今日は一段といいね。
なにか、吹っ切れたみたいな」
Xが言う。
「わたし、自分じゃないものになろうとしてた」
一瞬、なんて返していいかわからず、
信号待ちで止まって、アルミボトルのコーヒーを飲んだ。
「そのまんまで良かったんだね。
不安を感じないように直さなきゃって思ってた。
でも、不安になるのは副産物なんだよね」
「なにかやるべきことがあって、
そのための性質を持って生まれてきて、
だから不安っていう副産物がある」
不安を感じても、
そこからの立ち直りが人より遅くても、
それで『自分』だということが、
今のXは、かなり納得できてきたのかもしれない。
「良かったね。きっとこの街を出て、次にむかえるよ」
川沿いの駐車場が格安で、
そこを通り過ぎるとき、私はそれを指さしていった。
「ほら、あそこに止めれば、川沿いの桜があるいて見られるよ」
「ほんとだー!ちょうどいいね」
「って、Xがここで桜を見ることは、来年はないだろうけどね」
きっと、Xは、私のところを卒業する。
何も悲しいことじゃない。
ツインフレームがツインレイを支援するというのは、
そういうことなのだ。
来年は、住んでいる街もここじゃないだろう。
川沿いには、桜の他につつじが植えられている。
ことしのつつじの咲き具合も素晴らしい。
「一昨年行った◯◯公園の紫陽花がまたみたいな。
去年はいけなかったから」
去年は、Xの体調が悪く、
紫陽花の季節には、近隣の中学校まで歩いて見に行った。
車で行ける範囲の公園には、もっと咲いているが、去年は行けなかったのだ。
「昔は紫陽花あんまり好きじゃなかった。なんか辛気臭く感じられて」
「でも、今はすごく色んな色があって、いいなって思う。
それも、こんな事があったから思えるようになったんだと思う。
一人じゃのりきれなかった」
「誰かの助けを借りなきゃならないほどの、
ピンチを乗り越えたんだから、きっとしあわせになれるよ」
「うん」
Yよ、
はやく迎えに来ておくれ。
やっぱり、私はXにしあわせになってほしい。
そして、あちこちで最高の紫陽花やら季節の花を見せてあげてほしい。
それが私の願いである。