青の教室 俊雄 第12話/5月17日(最終話) ――声のある場所へ――
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青の教室 俊雄 第12話/5月17日(最終話)
――声のある場所へ――
夕方の青の教室は、
昨日と同じように静かだった。
俊雄は、
いつもの席に座り、
数学のプリントを進めていた。
鉛筆の音が止まる。
俊雄は、
かばんの中からノートを取り出した。
昨日書いたページ──
『花の声』が開かれる。
俊雄は、
その詩をしばらく見つめていた。
(……ぼくの声)
胸の奥で、
小さな色がそっと灯る。
友彦は、
俊雄がノートを開いたことに気づいたが、
何も言わなかった。
ただ、
青い光の中でその姿を見守っていた。
***
俊雄はノートを閉じ、
また数学に戻った。
問題を解くときの“確かめる感覚”と、
詩を書いたときの“胸の奥の揺れ”が、
どこか同じ場所にあることを
俊雄はうすうす感じていた。
(花の声も、ぼくの声も……)
言葉にはならないまま、
その感覚は静かに沈んでいく。
友彦は、
俊雄の横顔を見つめた。
青の光が、
その“同じ場所”を
そっと照らしている。
***
帰り支度をする俊雄の動きは、
いつもと同じようで、
どこか違っていた。
プリントをしまい、
ノートをそっとかばんに入れる。
俊雄の光が、
俊雄の背中をやわらかく押す。
俊雄は、
静かに教室をあとにした。
***
家に着き、
玄関の扉を開ける。
「ただいま」
その声は、
たしかに“俊雄の声”だった。
すぐに麻衣が顔を見せる。
「おかえり、俊雄」
その声は、
花の声とも、
俊雄の声とも、
夢の中の“ぼく”の声とも
どこか同じ場所に立っていた。
俊雄は、
ゆっくりと麻衣に笑いかけた。
***
夜の青の教室には、
誰もいなかった。
窓から差し込む青い光だけが
静かに部屋を満たしていた。
その光は、
俊雄の“声の芽生え”を
そっと祝福しているようだった。
青の教室は、
今日もまた、
誰かの声が生まれるのを
静かに見守っている。
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『花の声』
静けさの中で
花の声がきこえる。
風が止まり、
世界がそっと息をひそめると、
花は自分の色をひらく。
大きな音がすると
花は黙ってしまう。
その声は弱くて、
すぐにかき消されてしまうから。
でも、静けさが戻ると、
花はまた小さな声で話しはじめる。
その声は
だれにも聞こえないほど弱いけれど、
たしかにそこにあって、
たしかに色をもっている。
ぼくは
その声をひとつずつ拾っていく。
花の声を拾うたびに、
ぼくの中にも
小さな色が灯る。
その色はまだ弱くて、
まだ震えていて、
影に隠れそうだけれど――
たしかに
ぼくの色だ。
( 青の教室 俊雄 完 )