青の教室 俊雄 第8話/4月5日 ――小さな気づき――
記事
学び
青の教室 俊雄 第8話/4月5日
――小さな気づき――
夕刻の青の教室は、
昨日と同じように静かだった。
けれど、俊雄の胸の奥には、
昨日とは少し違う“ざわめき”があった。
昨日ノートを見せたときの、
あの胸の奥の震えが、
まだ消えずに残っている。
俊雄は、そっと席に着いた。
「こんばんは、俊雄」
友彦の声は、
いつものように落ち着いていて、
それだけで俊雄の呼吸が少し整う。
「こんばんは……」
俊雄は、
自分の声が少し軽いことに気づいた。
でも、その理由はわからない。
***
「今日の晩ごはん、何?」
ふいに友彦が聞いた。
「……カレーです」
俊雄は顔を上げた。
「いいね。うちはね、カレーに生卵をのせるんだ」
「生卵……ですか?」
「うん。好きなんだよ。
カレーって、好きな食べ方で食べたらいいんだよね」
俊雄は、
“好きな食べ方”という言葉に
胸の奥が少しだけざわつくのを感じた。
「俊雄の食べ方は決まってるの?」
「……別に」
「そっか。
じゃあ、…今日も数学する?」
俊雄はうなずいた。
そのうなずきは自然だった。
***
窓の外が薄暗くなってきたころ、
小さな影が道を横切った。
黄色い帽子をかぶった男の子が、
向こうへ向かって歩いていく。
「俊雄、あの子見える?」
俊雄は顔を上げた。
「……はい」
「普通に歩いてるね。
正しいとか、上手とかじゃなくて」
俊雄は、
何を言われているのかわからなかった。
でも、友彦の声はとても静かで、
その静けさが胸にしみこんでくる。
「だれでも、歩くとき
気をつけていることがあるわけじゃない」
俊雄は、
いぶかしげに眉を寄せながらも、
ゆっくりとうなずいた。
意味はよくわからないけれど、
でも、
“何か大切なことを言われた”
そんな気がした。
胸の奥が、
ほんの少しだけ温かくなった。
***
帰り道、
俊雄は自分の歩く足音を聞いてみた。
いつもと同じはずなのに、
なぜかその音が、
いつもよりも少しだけ軽かった。
教室の外は
すっかり夜に包まれている。
青はそこにも静かに寄り添っていた。