青の教室/陽子 第14話(3月27日) ――芽がひらく日――
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第14話(3月27日)
――芽がひらく日――
春休みの朝。
青の教室には、いつもより少し早い光が差し込んでいた。
陽子が机にかばんを置いたとき
扉が開き、
石谷さとるが入ってきた。
「おはよう」
「……おはよう」
さとるは、
プリントの束を机に置きながら言った。
「春休みの宿題、なんかだるいんだよなあ」
その言い方が、
どこか昔の自分に似ていて、
陽子は胸の奥が少しだけ動いた。
「小目標を作るといいよ」
「小目標?」
「うん。
ちょっとずつ、できるところまで。
自分のリズムで進めるのがいいんだよ」
さとるは「ふーん」と言いながら、
まだピンときていない様子でプリントをめくった。
陽子も課題表を開き、
昨日分けてもらったスケジュールを見ながら
不規則動詞に取りかかった。
胸の奥は少しざわつく。
(……少しずつでいい)
陽子は、
自分に言い聞かせるように鉛筆を動かした。
***
昼食を食べ終えたあと、
陽子とさとるは短い散歩に出た。
昨日よりも自然に歩ける陽子。
さとるは、
陽子の少し後ろをついてくるように歩く。
二人の間には、
まだ大きな会話はない。
ただ、
同じ方向に歩いているだけ。
戻ってきた二人に、
友彦が声をかけた。
「青の教室のお話、知ってるかな。
陽子は読んだことがあるって言ってたっけ」
「はい」
「え、お話?」
「携帯で“青の教室”のホームページを検索してごらん。
新しいお話を、そこから読めるようにしてある」
陽子とさとるは、
「青の教室」と書かれたバナーを見つけ、
PDFへジャンプした。
陽子は、
画面に吸い込まれるように読み始めた。
さとるも、
静かにスクロールし始める。
***
陽子には、
その物語がまるで
女の子の絵を描くときと同じ“きらきらした世界”
として広がっていった。
読んでいくうちに、
胸の奥がすーっと晴れてくる。
(……なんか、気持ちが軽くなる)
陽子は、
自分でも驚くほど静かに、
深く読み進めていった。
「これ、続きあるんですか」
さとるがぽつりと聞く。
「うん。毎日ひとつずつ作ってるよ」
「明日も読んでいいですか」
「もちろん」
さとるは、
穏やかな目で画面を閉じた。
陽子も、表情が明るい。
***
午後、
陽子とさとるはそれぞれの課題に向かった。
さとるは、
ときどきため息をつきながら
まだ上手にリズムを作れない。
陽子はそっと言った。
「タイマーかけて、自分で休憩していいんだよ」
「そうなんだ」
さとるは携帯を手に取り、
静かにタイマーをセットした。
陽子も、
胸の奥のざわつきを抱えながら、
また一回りをしていく。
(陽子が決めて、じょうずに課題表を使ってね)
昨夜の美咲の声が、
胸の奥で静かに響いていた。
陽子は、
その声に背中を押されるように
もう一度ノートを開いた。
窓から差し込む昼下がりの光が、
そっと二人を照らしていた。