青の教室/陽子 第13話(3月26日) ――陽子、案内する――

青の教室/陽子 第13話(3月26日) ――陽子、案内する――

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学び
第13話(3月26日)
――陽子、案内する――

青の教室の窓から、
 春の光がやわらかく差し込んでいた。

陽子は席に座り、
 スケッチブックをそっと開いた。

昨日描いた女の子のイラストを見つめる。
 その線は、
 陽子の胸の奥に静かに灯りをともしていた。

(……今日も、描けるかな)

そう思ったときだった。

教室の扉が静かに開いた。

「……あれ、陽子?」

陽子は顔を上げた。
 そこに立っていたのは――

石谷さとる。

陽子よりも1つ年上。
 保育所のころからの幼なじみ。
 でも、中学に入ってからは
 ほとんど話していなかった。

「……さとる?」

「うん。今日、体験で来たんだって。
  おばさん(美咲)に言われて」

さとるは少し照れたように笑った。
 陽子の胸の奥で、
 なつかしい何かがふっと揺れた。

「陽子、なにしてるの?」

「あ。これ。
  私、ここでときどき絵をかくの」

「へえ、そんなことしていいんだ」

さとるはスケッチブックをのぞき込み、
 陽子は少しだけ頬が熱くなった。

「おれは……不規則動詞から。
  友彦先生と話したんだ。」

「不規則動詞?」

「うん。
 1年でも出てきてるよな。
 2年で受け身とか現在完了とか出てくるから、
 過去分詞ってのも覚えなくちゃいけないんだ」

さとるはプリントを広げながら言った。

「お母さんの課題表に
  “英語の教科書の巻末にある不規則変化動詞”ってある」

陽子はその言葉に、
 胸の奥が少しだけ動いた。

(……私も、それからやってみようかな)

スケッチブックを閉じ、
 陽子は課題表をそっと開いた。

巻末の不規則動詞は、
 ずらりと70個近く並んでいる。

(……こんなにあるんだ)

胸の奥が少し重くなる。
 でも、
 さとるが隣でプリントを見ているのを感じると、
 陽子は鉛筆を持った。

(分けてもらおう。
 お母さんに……
 課題表のスケジュール、調整してもらおう)

自然に浮かんだその考えに、
 陽子は少し驚いた。

(……私、ちょっとだけ変わってきてるのかな)


***

そのとき、
 教室の奥から陽斗が声を上げた。

「さとる! ひさしぶり!」

陽斗は勢いよく駆け寄ってきた。
 ひかりも後ろからついてくる。

「さとるくん、来たんだ!」

「お、おう……久しぶり」

さとるは少し照れながらも、
 陽斗の明るさに押されて笑った。

陽斗とひかりのまわりには、
 今日も光が満ちていた。
 その光に照らされて、
 さとるの表情も少しだけ明るく見えた。

陽子はその様子を見ながら思った。

(さとるって……
 陽気なのに、ちょっと引っ込み思案で……
 なんか、昔の私みたい)

胸の奥で、
 小さな波が静かに揺れた。


***

不規則動詞をひと区切りつけたあと、
 陽子は自然に口を開いた。

「さとる。
  ちょっと……散歩しない?」

「散歩?」

「うん。
  ここ、外に出てもいいんだよ。
  歩くと、ちょっと楽になる」

さとるは少し迷ったあと、
 「……行ってみる」と言った。

陽子は立ち上がり、
 さとると並んで歩き出した。

青の教室の扉が、
 静かに閉まった。

――外の空気が、
 ふたりを迎えに来ていた。

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