『やすきと、ひとつのプリント』

『やすきと、ひとつのプリント』

記事
学び
ぼくはやすき。小学2年生。
お勉強は、すきじゃない。
だって、めんどくさいし、わからないし、
漢字なんて、なんであんなにいっぱい書かなきゃいけないのか、
だれか教えてほしいくらいだ。

ノートに書いても、すぐに忘れる。
書いてる途中で、手がつかれる。
つかれたら、もうやる気なんてどこかへ行ってしまう。

でも、木村センセのプリントだけは、
なんか、やってもいいかなって思う。

理由はかんたん。
答えを見て書いていいからだ。
「見ていいんかい!」って、ぼくは最初びっくりした。
でもセンセは、にこにこして言った。

「見てええねん。見て書いてるうちに、勝手に覚えるからな」

そんなこと、ほんまにあるんかな。
でも、センセが言うと、なんかほんまっぽい。

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プリントには絵がついている。
犬が走ってたり、空がひろがってたり、
なんか、勉強っていうより、
ぼくのすきな“遊びの紙”みたいだった。

ぼくは、えんぴつを持って、
プリントの上をなぞる。
答えを見ながら、ゆっくり書く。

書いているとき、
ぼくの頭の中は、いつもより静かになる。
「できない」とか「めんどくさい」とか、
そういう声が、ちょっとだけ小さくなる。

センセは、ぼくの横で何も言わない。
ただ、ぼくが書いているのを見ている。
見ているだけなのに、
なんでか知らないけど、
ぼくはちょっとだけがんばれる。

「やすき、ええ感じやな」

センセがそう言うと、
ぼくの胸の中が、
あったかい風船みたいにふくらむ。

ぼくは、勉強がすきじゃない。
でも、センセのプリントは、
なんか、すきかもしれない。

すきじゃないものが、
すきになる瞬間って、
こんなふうに静かにやってくるんだなって、
ぼくはまだ知らない。

でも、ぼくの手は、
今日もプリントの上を動いている。

ゆっくり。
ゆっくり。
でも、まっすぐ。

ぼくの知らないところで、
ぼくの未来の“根っこ”が、
すこしずつ伸びている。


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