第一章 野球とスマホと、ちょっとだけ勉強
よしきとともきは双子の中学一年生。顔はそっくりだけど、よしきの方が少しだけ声が高くて、ともきの方がちょっとだけ足が速い。ふたりとも野球が大好きで、スマホも大好き。放課後は部活で汗を流し、帰ってからはYouTubeでプロ野球のハイライトを見たり、ゲームをしたり、LINEで友だちとやりとりしたり。
リバティの教室には去年の夏から通い始めた。最初は「塾ってめんどくさいな」と思っていたけれど、木村センセの話はなんだか面白くて、教室の空気も悪くない。勉強はあまり好きじゃないけれど、「まあ、まじめにやらなくちゃな」とは思っている。だけど、わからないことも多いし、スマホの方がずっと面白い。
そんなある日、木村センセがふたりに言った。
「お父さんに聞いたんやけどな。学年末の成績で『5』が2つ取れたら、スマホ買ってくれるって」
「え、マジで?」
「ほんまに?」
「それか、『4』が5つでもええらしい」
よしきとともきは顔を見合わせた。目がキラリと光った。
「それ、がんばるしかないやん」
「うん。スマホのためなら、やる」
その日から、リバティの教室でふたりの顔つきが変わった。
第二章 作戦会議と、ちいさな勝利
「まず、何の教科で『5』を狙うかやな」
「体育は無理やろ。通知表には入らんし」
「国語は?木村センセの授業、ちょっとわかるようになってきたし」
「社会もいけるかも。暗記系やし」
ふたりはノートを広げて、作戦会議を始めた。木村センセは笑いながら言った。
「おまえら、スマホのためやったら、ええ顔するな」
「センセ、スマホってすごいんやで。やる気スイッチや」
「ほんまやな。じゃあ、スイッチ入ったままにしとけよ」
それからのふたりは、教室でも家でも、ちょっとだけ変わった。宿題を忘れなくなったし、授業中に「わからん」と言う回数が減った。スマホの時間は減らないけれど、「勉強してからスマホ」という順番ができた。
ある日、木村センセが言った。
「よしき、この前の漢字テスト、満点やったな」
「え、マジで?やった!」
「ともきも、社会の小テスト、90点超えたやん」
「うそ、ほんまに?やった!」
ふたりはハイタッチした。小さな勝利。でも、うれしい。
第三章 通知表と、春のスマホ
学年末の通知表の日。ふたりは朝からそわそわしていた。
「どうかな…『5』2つ、いけたかな…」
「『4』5つでもええんやろ?どっちかや!」
学校から帰ってきたふたりは、カバンを放り投げて通知表を開いた。
「よしき、国語と社会、5や!」
「ともき、理科と社会、5や!」
「やったああああ!」
その夜、ふたりはお父さんに通知表を見せた。お父さんは笑って言った。
「約束やからな。スマホ、買いに行こうか」
「ほんまに?やった!」
「でもな、スマホは道具や。使い方、ちゃんと考えろよ」
「うん。勉強もちゃんとする」
「リバティも続ける」
木村センセに報告すると、センセはにっこり笑った。
「おまえら、やったな。スマホの力、すごいな」
「センセのおかげやで」
「いや、おまえらの『やる気スイッチ』の勝ちや」
春の風が吹いていた。よしきとともきは、新しいスマホを手に、少しだけ背筋を伸ばして歩いていた。
スマホと5と、双子の春。
それは、ちいさな一歩。でも、確かな一歩だった。