第1章ではブランドの立ち上げ、
第2章では商品ラインナップについてお話しました。
今回は、ご相談の中でも特に多いテーマ、
「世界観がまとまらない」についてお話します。
「世界観を作りたい。」
「おしゃれなブランドにしたい。」
そう思ってPinterestやInstagramを見ているけれど、「結局、自分のブランドって何なんだろう?」と分からなくなってしまう。
これは、ブランド立ち上げ時によく陥る悩みのひとつです。
実は、世界観を作るために必要なのは、たくさんの「好き探し」をして情報を集めることではありません。
大切なのは基準を持つということ。
何の基準かというと「自分のブランドは、何を選び、何を選ばないのか」という判断基準を持つことなんですね。
今回は、ジュエリーブランドの世界観をどのように整理していけばよいのか、実際のブランド相談で感じたことも交えながらお話しします。
1. ブランドの世界観とは何か
「ブランドの世界観」と聞くと、
・ロゴを作る
・ブランドカラーを決める
・写真の雰囲気を揃える
・Instagramをおしゃれに整える
ということをイメージするかもしれません。
もちろん、これらも世界観を伝え表現するための大切な要素です。
ですが、ブランドの世界観とは「ブランドが何を選び、何を選ばないかという判断基準」をもっていることだと思い至るようになりました。
例えば「天然石ジュエリーを作る」というだけでは、まだ世界観は決まりません。天然石を使ったジュエリーブランドは、たくさんあるからです。
その中で、
「透明感のある石を選ぶ」
「自然な形を生かす」
「複数の石の重なりを大切にする」
「装飾は控えめにする」
「日常の服に合わせられる上品さを残す」
など、一つひとつの選択を積み重ねていく。
その結果、「このブランドらしい」という印象が生まれます。
つまり世界観とは、見た目を揃えることではなく、ブランドの中に一貫した美意識と判断基準を持つこと。
2. 「好きなものを集める」だけでは世界観にならない
ブランドを始めたばかりの頃は、自分が好きなものをたくさん集めることから始める方も多いと思います。
実際私もそうでした。
「このジュエリーが好き」
「この写真が好き」
「この色が好き」
「このモデルさんの雰囲気が好き」
それ自体は、とても大切なことです。
むしろ、最初はたくさん見ることをおすすめします。
大事なのはその次なのです。
ここから一歩進むためには、「なぜ私はこれが好きなのか?」を考えることが必要です。
例えば、
「石の形が自然だから好き」
「複数の石が重なっているから好き」
「色の組み合わせが静かだから好き」
「華やかだけれど、派手すぎないから好き」
というところまで掘り下げてみる。
すると、自分でも気づいていなかった「好きの共通点」が見えてきます。
そして、その共通点こそが、ブランドの世界観を作る材料になります。
3. 世界観を作るための5つの質問
世界観がなかなかまとまらないとき、私は次のような質問を使って整理します。
① このブランドが一人の人物だとしたら、どんな人?
擬人化してみるのです。
言葉の解像度をもっと上げてみていきます。
よくあるターゲットを考えるって難しく感じませんか?
年齢は?職業は?なんて・・・
ここで考えるのは、単純な年齢ではありません。
「30代女性」だけでは、ブランドの人物像は見えてきません。
例えば、
・休日はどんな過ごし方をする?
・どんな場所へ行く?
・どんな音楽を聴く?
・どんな花を飾る?
・どんな服を着る?
・何を大切にして暮らしている?
そんなふうに考えていきます。
「ブランドを人にたとえる」という方法は、写真やモデル、文章のトーンを決めるときにも役立ちます。
② このブランドは何を大切にしている?
例えば、
・長く使えること
・自然素材
・上質さ
・遊び心
・クラフト感
・ストーリー
・特別感
・着用時のストレスの無さ
・エフォートレス
など。
ブランドには必ず価値観があります。
ここを言葉にしておくと、「この素材やデザインは、ブランドの考え方に合っているだろうか?」と判断しやすくなります。
③ このブランドは何を選ばない?
実は、これがとても重要です。
例えば、「高級感のあるブランド」を目指すのであれば、
・ポップな画像
・カジュアルすぎるモデル
・情報量の多いデザイン
などは、あえて選ばないかもしれません。
「自然体」を大切にするブランドなら、
・過度な画像加工
・作り込みすぎた演出
を避けることもあるでしょう。
ブランドは、「何をするか」だけではなく、「何をしないか」を決めることで輪郭がはっきりします。
最初は「やらないことを決める」というのが難しく感じるかもしれません。
でも、これができるようになると、商品も写真もSNSも、判断に迷いにくくなります。
私が好きなココシャネルの言葉で
「好きな要素を出し尽くしたら、あとはそぎ落としていく。
そして最後は絶対に足さないこと。」
というのがあります。
頑張るあまり、沢山盛り込んでしまうことは、世界観作りで失敗する例です。
④ 身につけた人は、どんな気持ちになる?
ここでは、
「かわいい」
「おしゃれ」
だけではなく、もう少し深く考えてみます。
例えば、
・安心する
・心地よい
・背筋が伸びる
・自信が持てる
・勇気が出る
・自分らしくいられる
・大切な思い出を感じられる
・少し特別な気持ちになる
など。
ジュエリーは、単なる装飾品以上の意味合いがあり身につけることで生まれる感情があります。
ファッションブランドでも、身に付けた時のその感情を考えることが、ブランドの軸につながります。
⑤ お客様は、何を買っている?
ジュエリーを販売しているからといって、お客様が買っているものが「ジュエリー」だけとは限りません。
特に高級消費財の場合ですが
例えば、
・記念日
・思い出
・自己表現
・人生の節目
・自信
・安心
・自分へのご褒美
・大切な人とのつながり
を買っているのかもしれません。
ここを考えると、ブランドが使う言葉も変わってきます。
「天然石を使ったリングです」という説明だけではなく、
「自分らしく過ごしたい日に身につける」
「人生の節目に選ぶ」
というように、お客様がそのジュエリーを身につける意味まで伝えられるようになります。
4. 実際のブランド相談から見えてきたこと
先日、あるジュエリーブランドの立ち上げについてご相談をいただきました。
そのブランドには、「絵をまとう」というキーワードを使用したコンセプトがありました。
天然石を組み合わせ、季節の風景や情景をジュエリーとして表現していきたいと、お話を伺い、魅力的なアイデアだと感じました。
ただ、これまで制作されてきたジュエリーや、実際に「好き」と感じるジュエリーの資料を一緒に見ていくと、少しずつ別の共通点が見えてきました。
例えば、
・石が持っている自然な色や模様
・不規則な形
・複数の石が重なった表情
・光を感じるデザイン
・季節や自然を連想させる雰囲気
などです。
一方で、
・金具や装飾が強く主張するもの
・エスニックな印象が強いもの
・個性的すぎて日常のエレガンスから離れるもの
には、あまり惹かれていないことも分かってきました。
ここで大切なのは、「最初に考えたコンセプトが間違っていた」ということではありません。
むしろ、最初のコンセプトがあったからこそ、
「本当に自分が表現したいものは何なのか?」
をさらに深く考えることができました。
そして、言葉からイメージする画像を探して見せ合い、
「ここが好き」「これは少し違う」
とご相談者さまとの答え合わせをしていく。
その中から、
「石を使って風景を作る」とい想だけではなく、
「石そのものが持つ自然の美しさや情景を生かす」
という方向性が見えてきました。
もともとその方の中にあった「好き」を、丁寧に言葉にしていったら
しっくりくるものに辿り着いたのです。
ブランドの世界観は、最初から完成している必要はありません。
自分が好きなものを見つめ直し、
「なぜ好きなのか?」
を一つひとつ掘り下げることで、少しずつ輪郭が見えてくることがあります。
5. 「選ばない」を決めることがブランドを強くする
ブランドづくりでは、
「もっと個性を出さなければ」
「もっと特徴をつけなければ」
と考えてしまうことがあります。
でも、個性は必ずしも「何かを足すこと」で生まれるわけではありません。
むしろ、何を残し、何を削るか。
そこにブランドらしさが表れることがあります。
例えば、天然石そのものに十分な美しさがあるなら、
「もっと装飾を加えよう」ではなく、
「この石の魅力を邪魔しないためには何を減らせばいいだろう?」と考える。
写真も同じです。
「何かおしゃれなものを足そう」ではなく、
「このブランドには、この背景や小物は必要だろうか?」と考える。
文章も同じです。
「伝えたいことを全部書こう」ではなく、
「ブランドとして、本当に伝えたいことは何だろう?」と考える。
選ばないことは、可能性を狭めることではなくて。
ブランドの輪郭を明確にするための、大切な選択です。
6. 世界観は、すべてを揃えること
世界観は、ロゴだけでは完成しません。
商品だけでもありません。
・商品デザイン
・写真
・モデル
・文章
・ホームページ
・Instagram
・ショップページ
・ラッピング
・パッケージ
すべてが同じ方向を向いたとき、
お客様は初めて「あ、このブランドらしい」と感じます。
例えば、
商品は上品で繊細なのに、
写真はポップ。
文章はカジュアルなのに、
パッケージは高級感がある。
これでは、ブランドとして見ると少しちぐはぐに感じられるかもしれません。
逆に、
「誰に届けたいのか」
「何を大切にしているのか」
「何を選ばないのか」が決まっていれば、
写真を撮るときも、
モデルを選ぶときも、
文章を書くときも、
判断基準ができます。
これが、世界観を「見た目」だけで終わらせないために大切なことです。
ブランドを立ち上げて育てていくのは本当に時間がかかる作業だと思います。
7. お客様が本当に買っているものを考える
もう一つ、ブランドの世界観を考えるときに大切なのが、
「お客様は何を買っているのか?」という視点です。
5つの質問のところでも出てきましたが
例えば、
記念日のジュエリーを販売するブランドなら、
お客様が買っているのは、リングやネックレスだけではありません。
そのジュエリーを見るたびに思い出す、「大切な時間」かもしれません。
自分自身のためのジュエリーなら、「頑張ってきた自分への贈り物かもしれません。
天然石のジュエリーなら「自分らしい色や個性を表現するもの」かもしれません。
こう考えると、商品写真や商品説明で伝えるべきことも変わってきます。
商品のスペックだけではなく、「このジュエリーを身につけることで、どんな時間や気持ちが生まれるのか」まで考える。
そこまで見えてくると、ブランドの言葉にも深みが出てきます。
8. 小さなブランドだからこそ、美意識を軸にする
大きなブランドには、長い歴史、知名度、広告力、販売網などがあります。
小さなブランドには、作り手の美意識そのものをブランドにできるという強みがあります。
何を仕入れるのか。
どんな石を選ぶのか。
どんなデザインにするのか。
どんな写真を撮るのか。
どんな言葉で紹介するのか。
その一つひとつに、
「私はこれが美しいと思う」
という意思を込めることができます。
もちろん、お客様のニーズや市場を知ることも大切で
「売れそうだから作る」という視点も、ビジネスでは必要です。
でも、市場に合わせるだけでは、似たような商品が並ぶ中で埋もれてしまうことがあります。
だからこそ、「お客様が欲しいもの」と「自分が美しいと思うもの」
その重なる場所を探していく。
それが、小さなブランドの大切な仕事なのだと思います。
9. 第3章まとめ
世界観は、センスのある人だけが作れるものではありません。
「おしゃれな写真を集めること」でもありません。
大切なのは言語化です。
「何が好きか」だけではなく、
「ブランドとして何を選び、何を選ばないか」を言葉にすること。
そして、
・このブランドはどんな人なのか
・何を大切にしているのか
・何を選ばないのか
・身につけた人にどんな気持ちになってほしいのか
・お客様は本当は何を買っているのか
を考えていくことです。
そうすると、「なんとなく好き」だったものが、
「だから、このブランドではこれを選ぶ」という判断に変わっていきます。
世界観とは、何か特別なものを外から作り出すことではありません。
自分の中にある美意識を見つけ、選択の基準として育てていくこと。
その積み重ねが、「このブランドだから欲しい」と思ってもらえるブランドらしさにつながっていきます。
10. 次回予告
ここまでで、
「どんなブランドにしたいのか」
「何を大切にするのか」
「何を選ばないのか」
という、ブランドの内側にある「設計図」が少し見えてきました。
次回は、この世界観を実際に「どう見せるか」の表現について考えていきます。
写真はどんな雰囲気にするのか。
モデルはどんな人を選ぶのか。
背景や小物はどうするのか。
Instagramではどんな画像を並べるのか。
ホームページではどんな言葉を使うのか。
世界観という「設計図」を、実際のビジュアルや発信へ落とし込んでいく方法です。
第4章はその設計図を形にする「表現編」
世界観を「伝わるビジュアル」にする方法
― 写真・モデル・Instagramでブランドらしさを表現する ―についてお話しする予定です。