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学び
\/ 目隠しの結び目 \/ ソードの2 \/
記事
学び
御茶乃子祭々
2026/07/25 21:14
× 目隠しの結び目 ×
七月の終わり、凪(なぎ)は姉の浴衣を借りて、颯(そう)の部屋の畳の上に広げていた。
「肌着着て、補正タオル巻いて。それだけでも全然違うから」
颯はそう言いながら、慣れた手つきで紐を並べていく。
子供の頃から近所に住む幼なじみで、着付けの心得があるのは、彼の祖母が呉服屋をやっていたからだ。
今夜は近所の夏祭りに、二人で行くことになっていた。
ただの幼なじみとして。
──そのはずだった。
「腰紐、結ぶよ。動かないでね」
颯の手が腰に回り、紐の両端を体に沿わせて巻きつけていく。
凪は目を閉じたまま、背中でその紐がひと締め交差する感触を追った。
見えない場所で交わる紐の気配に、頭に浮かんだのは、タロット占いの店で見たカードだった。
目隠しをした女性が、二本の剣を胸の前で交差させて座っている絵。
凪にも、そんな二本の剣があった。
一本は、この十年ずっと隣にいてくれた颯への、安全で穏やかな気持ち。
もう一本は、半年前に転勤してきた同僚への、危なっかしいくらい強く惹かれる気持ち。
どちらも本物で、どちらかを選べば、もう片方は消えてしまう。
紐を結ばれる、この一瞬だけの話じゃない。
凪は、ずっと心の目を閉じたままで生きてきた。
見ないふりをすれば、両方とも手放さずにいられる気がして。
颯は伊達締めを手早く当て、帯を結んでいく。
ぐっと締まる感覚に、凪はようやく目を開けた。
「できた。……あ、待って」
颯が凪の手首をそっと取った。
「浴衣着るとき、手首だけは隠した方がいいよ。スマホ触るとき、つい出ちゃうから」
袖口を少し引いて、彼が笑う。
何気ない仕草だったが、凪の心臓は跳ねた。
手首に触れた指の温度が、いつまでも残っている。
「……颯は、いつもそうやって、さらっと優しいよね」
「そう? 別に、普通のことだけど」
颯は自分の言葉に照れたように、視線を紐の結び目に落とした。
ずるい人だ、と凪は思う。
安全でいられると思っていたのに、今の一瞬で、片方の剣が急に重くなった気がした。
祭りの太鼓の音が、遠くから届き始める。
颯が
「行こうか」
と立ち上がり、玄関で振り返る。
「浴衣、完璧じゃなくてもいいから。楽しんで」
その言葉に、凪はふと目隠しを外したくなった。
見たくなかった真実ではなく、ずっとそこにあった気持ちを、ちゃんと見てみようと思った。
「ねえ、颯」
草履を履きながら、凪は言った。
「祭りの帰り、少し話したいことがあるんだけど、いい?」
颯が振り向く。
夏の夕方の光が、彼の顔を橙色に染めていた。
「いいよ。……何か、決めたって顔してる」
「うん」
凪は帯の上から、そっと胸に手を当てた。
二本の剣は、まだそこにある。
でも、目隠しは、もういらない。
太鼓の音が近づいてくる。
凪は颯の隣を歩き出した。
答えはまだ言葉にしていないけれど、目を開けたまま歩き出したことが、
もう答えだった。
誰かさんがブログで、タロットカードの「ソードの2」の説明を
「おちゃのこさんに教えてほしい」と書いた人がいたので。
短編恋愛で書きました。
お読みくださいね。
♪ 目隠しをしたこころ
サービス紹介や自己紹介のテーマソングを制作します
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