\/ 目隠しの結び目 \/ ソードの2 \/

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× 目隠しの結び目 ×


七月の終わり、凪(なぎ)は姉の浴衣を借りて、颯(そう)の部屋の畳の上に広げていた。

「肌着着て、補正タオル巻いて。それだけでも全然違うから」

颯はそう言いながら、慣れた手つきで紐を並べていく。

子供の頃から近所に住む幼なじみで、着付けの心得があるのは、彼の祖母が呉服屋をやっていたからだ。

今夜は近所の夏祭りに、二人で行くことになっていた。

ただの幼なじみとして。

──そのはずだった。

「腰紐、結ぶよ。動かないでね」

颯の手が腰に回り、紐の両端を体に沿わせて巻きつけていく。

凪は目を閉じたまま、背中でその紐がひと締め交差する感触を追った。

見えない場所で交わる紐の気配に、頭に浮かんだのは、タロット占いの店で見たカードだった。

目隠しをした女性が、二本の剣を胸の前で交差させて座っている絵。

凪にも、そんな二本の剣があった。

一本は、この十年ずっと隣にいてくれた颯への、安全で穏やかな気持ち。

もう一本は、半年前に転勤してきた同僚への、危なっかしいくらい強く惹かれる気持ち。

どちらも本物で、どちらかを選べば、もう片方は消えてしまう。

紐を結ばれる、この一瞬だけの話じゃない。

凪は、ずっと心の目を閉じたままで生きてきた。

見ないふりをすれば、両方とも手放さずにいられる気がして。

颯は伊達締めを手早く当て、帯を結んでいく。

ぐっと締まる感覚に、凪はようやく目を開けた。

「できた。……あ、待って」

颯が凪の手首をそっと取った。

「浴衣着るとき、手首だけは隠した方がいいよ。スマホ触るとき、つい出ちゃうから」

袖口を少し引いて、彼が笑う。

何気ない仕草だったが、凪の心臓は跳ねた。

手首に触れた指の温度が、いつまでも残っている。

「……颯は、いつもそうやって、さらっと優しいよね」

「そう? 別に、普通のことだけど」

颯は自分の言葉に照れたように、視線を紐の結び目に落とした。

ずるい人だ、と凪は思う。

安全でいられると思っていたのに、今の一瞬で、片方の剣が急に重くなった気がした。

祭りの太鼓の音が、遠くから届き始める。

颯が「行こうか」と立ち上がり、玄関で振り返る。

「浴衣、完璧じゃなくてもいいから。楽しんで」

その言葉に、凪はふと目隠しを外したくなった。

見たくなかった真実ではなく、ずっとそこにあった気持ちを、ちゃんと見てみようと思った。

「ねえ、颯」

草履を履きながら、凪は言った。

「祭りの帰り、少し話したいことがあるんだけど、いい?」

颯が振り向く。

夏の夕方の光が、彼の顔を橙色に染めていた。

「いいよ。……何か、決めたって顔してる」

「うん」

凪は帯の上から、そっと胸に手を当てた。

二本の剣は、まだそこにある。

でも、目隠しは、もういらない。

太鼓の音が近づいてくる。

凪は颯の隣を歩き出した。

答えはまだ言葉にしていないけれど、目を開けたまま歩き出したことが、
もう答えだった。













誰かさんがブログで、タロットカードの「ソードの2」の説明を
「おちゃのこさんに教えてほしい」と書いた人がいたので。

短編恋愛で書きました。
お読みくださいね。






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♪ 目隠しをしたこころ












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