「問い合わせメールへの返信をAIに作ってもらう」
ここまでは、すでに試したことがある方も多いかもしれません。
届いたメールをAIへ貼り付け、「丁寧な返信文を作ってください」と頼めば、文章は短時間で作れます。
ところが、実際の問い合わせ対応では、文章を書く前後にも仕事があります。
たとえば、次のような確認です。
・どのサービスについての問い合わせか
・相手は何を希望しているか
・料金や納期について、どの資料を確認するか
・通常対応できない依頼が含まれていないか
・誰が返信内容を確認するか
・対応結果をどこへ記録するか
返信文だけをAIに作らせても、これらの確認が人の頭の中に残っていると、担当者の負担はあまり減りません。
そこで今回は、問い合わせメールが届いてから返信内容を記録するまでをAIに手伝わせる構築例を考えてみます。
※以下は業務の組み立て方を説明するための構築例です。実際に使用する資料、判断条件、保存先は会社ごとに異なります。
※本記事の構築例は、Google WorkspaceおよびGoogle Workspace上のGeminiに、問い合わせ内容などの顧客データと、料金表・サービス資料などの自社データを入力・参照させる設計です。実運用では、会社の情報管理ポリシーや契約条件に応じて、AIへ入力できる情報、入力しない情報、匿名化・マスキングする範囲、保存先、閲覧権限などを事前に決める必要があります。個人情報や機密情報を扱う場合は、そのまま入力できるとは限りません。必要に応じて情報を削除・置換し、人が確認してから処理する運用にします。
■ 問い合わせが届いてから返信するまで
今回の例では、Gmail、Googleドライブ、Googleスプレッドシートを使います。
流れは次のとおりです。
1. Gmailに問い合わせが届く
2. AIが相談内容を整理する
3. Googleドライブ内の料金表とサービス資料を確認する
4. AIが返信文の下書きを作る
5. 担当者が内容を確認し、必要なら修正する
6. 担当者がメールを送信する
7. 対応内容をGoogleスプレッドシートへ記録する
AIが最初に整理する項目は、たとえば次のように決めます。
・会社名または相談者名
・問い合わせの対象サービス
・相談内容
・希望時期
・予算の記載
・返信前に確認が必要な点
・不足している情報
長いメールでも、この形にそろえておけば、担当者は要点を確認しやすくなります。
ただし、この流れを安定して使うには、AIを動かす前に決めておきたいことが3つあります。
■ 1. 何を「正しい情報」として使うか
最初に決めるのは、AIがどの資料を確認するかです。
たとえば、Googleドライブ内に次の資料があったとします。
・2025年料金表
・2026年料金表
・営業担当者が作った料金メモ
・過去に送った見積書
人であれば、ファイル名や作成者から新しい資料を推測できるかもしれません。しかしAIに複数の候補を渡すと、古い料金や例外的な条件を回答に使う可能性があります。
そこで、問い合わせ対応で使用する資料を先に決めます。
・料金は「現行料金表」を参照する
・対応範囲は「サービス一覧」を参照する
・標準納期は「受付状況表」を参照する
・資料に書かれていない内容は、AIが推測して回答しない
ファイル名だけでなく、保存場所と更新担当者も決めておくと、資料の入れ替えがしやすくなります。
高性能なAIを使うことより、どの情報を正しいものとして渡すかのほうが、回答の安定に直結する場面があります。
■ 2. AIだけで判断しない条件を決める
次に、AIが返信文を作らず、人へ確認を求める条件を決めます。
今回の例では、次のような問い合わせが対象です。
・値引きの希望がある
・料金表にない依頼が含まれている
・通常より短い納期を希望している
・契約内容の変更が必要になる
・社内ルール上、AIへ入力できない個人情報や機密情報が含まれている
・苦情や返金に関する内容である
該当する場合、AIは勝手に条件を決めません。
代わりに、担当者へ次のように伝えます。
「通常料金にない相談が含まれています」
「希望納期が標準納期より短いため、確認が必要です」
「入力対象外の情報が含まれているため、削除・マスキングの範囲を確認してください」
AIに何でも判断させるのではなく、判断できない場面を見つけて人へ戻す役割を持たせます。
この線引きがあると、担当者はすべての文章を一から作る必要がなくなり、確認が必要な部分へ集中できます。
■ 3. 返信後に何を記録するか
問い合わせ対応は、メールを送って終わりではありません。
対応結果をGoogleスプレッドシートへ記録します。
記録する項目の例は次のとおりです。
・問い合わせを受けた日
・対象サービス
・相談内容の要約
・AIが作成した返信案
・担当者が修正した箇所
・返信した日
・次に必要な対応
・対応状況
この記録がたまると、次のことが見えやすくなります。
・同じ質問が何度も届いていないか
・料金表やサービス説明で分かりにくい部分はないか
・AIの文章を人が毎回修正している箇所はないか
・どの問い合わせで確認に時間がかかっているか
たとえば、納期に関する質問が多ければ、案内ページへ標準納期を追記できます。
AIが毎回同じ表現を間違えるなら、参照資料や返信ルールを修正できます。
記録を残すことで、問い合わせ対応そのものを少しずつ改善できるようになります。
■ 作るのは「メールを書くAI」ではない
ここまでで作ったのは、文章だけを書くAIではありません。
問い合わせを受け取り、内容を整理し、決められた社内資料を確認し、返信案を作り、判断できないものを人へ戻し、結果を記録する「問い合わせ担当」です。
AIが賢くなるほど、すべてを自由に任せたくなるかもしれません。
しかし、実務で重要なのは、何を参照するか、どこまで判断してよいか、どの時点で人が確認するかを先に決めることです。
人の確認を残すのは、AIの仕事を止めるためではありません。
AIへ安心して任せられる仕事の範囲を、少しずつ広げるためです。
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