ダンテ『神曲』地獄篇第1歌でボキャブラ・アップ:第25連句

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【C.H.Sisson英訳】
I was a poet, and I sang of the just
Son of Anchises, the man who came from Troy,
After the proud Ilion had been burnt down.
【Mark Musa英訳】
I was a poet and sang of that just man,
 son of Anchises, who sailed off from Troy
 after the burning of proud Ilium.
【野上素一和訳】
私は詩人だったが、驕る城イリオンの
落城の後でトロイアからやってきたアンキーセの
嫡子のことをうたったこともある。
【平川祐弘和訳】
私は詩人だった、だからトロイアから来たアンキセスの
 正義感の強い息子(アエネアス)のことを歌った、
 誇り高いトロイアの城は焼け落ちてしまったからだ。

【語句】
poet=詩人。
sing of=~を詩(歌)に作る。
proud=高慢な、尊大な、うぬぼれた、思い上がった(⇔humble, polite)。
 haughty=傲慢な、高慢な、横柄な(very proud)。
burn down=全焼する、焼け落ちる。
Ilion=イリオン、トロイアのギリシア語名。
Ilium=イリウム、トロイアのラテン語名。
sail=船で行く、出帆する、出港する。
トロイア=小アジアの海岸にあった都市で、トロイア戦争で知られています。トロイア戦争とは、トロイア王プリアモスの子パリスがスパルタ王メネラオスの下に客人として滞在中、王妃ヘレネに恋をして、彼女を奪って帰国したために、それを奪還せんとして攻めて来たギリシア軍との間に10年にわたって起こった戦争です。
アンキーセ(アンキセス)=カピュスとダルダノス王の娘テミステの子。トロイア落城の時、アイネイアスに背負われて脱出しました。
アンキーセの嫡子=アンキーセ(アンキセス)と女神アプロディテとの間に生まれた英雄アエネアスのこと。彼はトロイア戦争時にはトロイア方の名将でしたが、落城後は各地を漂白し、イタリアに着いてからはトゥルヌスを殺して、ローマ建国の基礎を作りました。彼の子アスカニオ(アスカニウス)はアルバ・ロンガを建設、その子孫のロムルスはローマを建設しました。

【解説】
 ウェルギリウスの『アエネイス』第2歌に「我々はトロイア人であった。イリウム(トロイアのこと)があった。」という言葉が出て来ますが、これは「輝ける祖国トロイアも今は無く、我々はもはやトロイア人ではなくなった」という意味です。あるいは第1歌にも、カルタゴ女王ディドが女神ユノに捧げた神殿に描かれていたトロイア戦争の絵を見て、アエネイスが部下の兵士達に言う言葉に「ここにも人の世に注ぐ涙があり、人間の苦しみは人の心を打つ」という表現が出て来ており、人口に膾炙(かいしゃ)していました。
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