ダンテ『神曲』地獄篇第1歌でボキャブラ・アップ:第26連句

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【C.H.Sisson英訳】
But you, why do you come back to such disturbance?
Why do you not climb the delightful mountain
Which is the beginning and reason of all joy?’
【Mark Musa英訳】
But why retreat to so much misery?
 Why not climb up this blissful mountain here,
 the beginning and the source of all man’s joy?”
【野上素一和訳】
だが、きみはなぜふたたび苦悩の場所へ戻るのだ。
どうしてすべての喜悦の源である
歓楽山へ登ろうとはしないのだ」
【平川祐弘和訳】
だがおまえ、なぜこの苦悩の谷へ引き返すのか?
 なぜ喜びの山に登らないのか、
 あらゆる歓喜の始めであり、本(もと)である、あの喜びの山に?」

【語句】
disturbance=騒ぎ、妨害、騒動、傷害。動揺、不安、心配。
reason=理由、根拠。
joy=有頂天になるような大きな喜び・幸福感。
 pleasure=楽しい気持ち・満足感・幸福感を含む、喜びを表わす、最も一般的な語です。
 delight=pleasureよりも強い喜びを表わし、身振り・言葉などによってはっきりと外面的に表わされます。
 enjoyment=一時的な満足からかなりの期間にわたる深い幸福感まで表わし、満足感を静かに味わうことを示します。
retreat=余儀なく退く、後退する、退却する(from~to…)。
 retire=(軍隊が)(~から…まで)後退する、撤収する。計画的な場合、または婉曲的に表現する時に用います。
miser=惨めさ、悲惨、苦痛、苦悩。
blissful=至福の、この上な幸せな。
source=源泉、元、源、原因。
歓楽山=「煉獄(浄罪)山」とも呼ばれ、「煉獄(浄罪界)」はこの上にあります。ダンテが登りかけた「丘」は、この麓だったのです。

【解説】
 「地獄」は救いの無い場所、「天国」は罪の一切無い場所と定義されますが、「煉獄」はキリスト者として罪の贖いを受けて救いが約束されていながら、小罪及び罰の償いが残っているため、浄化を必要とする者のためにある場所と考えられています。聖書には具体的な記述はありませんが、『マタイによる福音書』第12章32節において、後の世で赦される可能性が述べられていること、および旧約聖書外典『マカバイ記』Ⅱの第12章43節において、罪を犯した死者のために執り成しの祈りを認めていることを根拠にしています。カトリック教会ではこのような「煉獄」の死者のための祈りなどを行う伝統がありましたが、「教皇の免償の権威が死者にも及ぶのか」という問いをマルティン・ルターが投げかけたことが宗教改革の発端となったという歴史的経緯から、プロテスタントの諸教派は「煉獄」の概念を否定しました。また、第二ヴァチカン公会議以降の「教会の現代化」の流れにより、現代のカトリック教会で煉獄について言及されることはほとんどありません。一方、東方正教会には、「パニヒダ」(永眠者の為の祈り)というものがあります。
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