遺贈寄付を受け入れる団体が注意すること ―― 「ありがたいご寄付」をトラブルにしないために

遺贈寄付を受け入れる団体が注意すること ―― 「ありがたいご寄付」をトラブルにしないために

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コラム
「遺言書で、財産の一部を寄付したいのですが」 NPO法人や公益法人などの団体に、こうしたお問い合わせが届くことが増えています。

遺贈寄付は、団体にとってまとまった財源になるだけでなく、寄付者の人生の思いを託される、とても重みのある寄付です。

一方で、遺贈寄付は、ふだんの寄付とは大きく違います。寄付者がすでに亡くなっているため、内容を確認し直すことができず、ご遺族、遺言執行者、税金、不動産など、さまざまな要素が関わってきます。準備がないまま受け入れると、思わぬ負担やトラブルにつながることもあります。

この記事では、遺贈寄付を受け入れる団体が注意しておきたいポイントをまとめました。

1. 遺贈寄付は「ふだんの寄付」と何が違う?

ふだんの寄付は、寄付者ご本人とやり取りをして、その時にお金を受け取れば完了します。

遺贈寄付の場合、団体がやり取りをするのは、多くの場合、遺言者か遺言執行者です。そして、

・勝手に遺言書作成されると、内容を事前確認することができない
・遺言書を書いてから亡くなるまで、何年、何十年とたっていることがある
・現金以外の財産(不動産・株式など)が含まれることがある
・ご遺族の気持ちや、相続人どうしの関係が影響する
・税金の問題が、団体側やご遺族側に生じることがある

といった特徴があります。

つまり遺贈寄付は、「受け取る」までにいくつもの判断が必要な寄付なのです。

2. 受け入れの方針を決めておく

遺贈寄付の連絡は、ある日突然届きます。遺言執行者から「◯◯様の遺言により、貴団体に不動産を遺贈することになっています」と連絡が来てから慌てないよう、あらかじめ受け入れの方針を決めておくことが大切です。

方針として決めておきたいのは、たとえば次のような点です。

・どんな財産を受け入れるか 現金・預貯金のみか、不動産や株式、自動車や美術品なども受け入れるか
・包括遺贈を受け入れるか (次の項目で説明します)
・使いみちの指定に、どこまで応じるか 「◯◯事業に使ってほしい」という指定に応じられるか、応じられない場合はどうするか
・だれが、どのように判断するか 担当者だけで決めるのか、理事会などの承認が必要か
・受け入れられない場合の対応 お断りする場合の伝え方や手続き

方針が決まっていれば、寄付を検討している方からの生前のご相談にも、*「当団体では、このような形でお受けしています」*と、はっきりお伝えできます。結果として、受け取れない遺言書が書かれてしまうことも防げます。

3. 特定遺贈と包括遺贈の違いに注意

遺言書による寄付には、大きく分けて2つの書き方があります。団体にとって、この違いはとても重要です。

特定遺贈
「◯◯銀行の預金のうち500万円を、△△法人に遺贈する」というように、特定の財産を指定して遺贈する方法です。

団体が受け取るのは、指定された財産だけです。亡くなった方の借金などを引き継ぐことはありません。遺贈寄付では、こちらが一般的です。

包括遺贈
「財産の全部を」「財産の3分の1を」というように、財産を割合で指定して遺贈する方法です。

包括遺贈を受けた団体(包括受遺者)は、法律上、相続人と同じ権利と義務を持つことになります。そのため、

・亡くなった方に借金があれば、割合に応じて引き継ぐ
・亡くなった方の税金(後で説明するみなし譲渡所得税など)も、割合に応じて負担する
・財産の一部を受け取る場合は、相続人との遺産分割協議に参加する必要がある
・不要な家財の処分など、想定外の対応を求められることがある

といった負担が生じる可能性があります。

また、包括遺贈を受けたくない場合は、原則として、自分が包括受遺者になったことを知った時から3か月以内に、家庭裁判所で放棄の手続きをしなければなりません。期限を過ぎると、借金なども含めて引き継ぐことになるおそれがあります。

こうした理由から、包括遺贈は受け付けない、または個別に慎重に判断するという方針をとる団体も少なくありません。包括遺贈の連絡が届いたら、まず期限を確認し、早めに専門家に相談することが大切です。

4. 不動産・株式の遺贈と「みなし譲渡所得税」

不動産を受け取るときの負担
不動産の遺贈は、金額が大きい一方で、団体にとって負担になることも多い財産です。

・売れない、または売るまでに時間がかかる
・売れるまでの固定資産税や管理費用がかかる
・空き家の場合、家財(残置物)の処分が必要になる
・建物の老朽化、境界の問題、土壌汚染などのリスクがある

「寄付をいただいたのに、管理費用で赤字になった」ということにもなりかねません。

みなし譲渡所得税

さらに注意したいのが、みなし譲渡所得税です。

不動産や株式などを法人に遺贈すると、亡くなった方がその財産を時価で売ったものとみなされ、値上がり益に所得税がかかることがあります。

この税金は、特定遺贈の場合は原則として相続人が負担し、包括遺贈の場合は団体も割合に応じて負担することになります。

特定遺贈の場合、団体に直接の税負担はありませんが、財産を受け取っていないご遺族に税金がかかることになるため、ご遺族の不満や、団体への不信感につながりやすい点に注意が必要です。

なお、一定の要件を満たして国税庁長官の承認を受けると、この税金が非課税になる特例もあります。ただし、要件が細かく、申請の期限も短いため、利用を考える場合は早めに税理士へ相談しましょう。

現金での寄付をご提案する選択肢も
こうした負担を避けるため、生前のご相談の段階で、*「不動産を売却して、そのお金をご寄付いただく形」(清算型遺贈)*をご提案している団体もあります。ただし、この方法でも税金の扱いには注意が必要ですので、個別の確認が欠かせません。

5. 遺留分の問題

遺言書で寄付が指定されていても、ご遺族には*遺留分(いりゅうぶん)*という、最低限の取り分が法律で保障されています(兄弟姉妹を除く)。

遺贈によってご遺族の遺留分が侵害されている場合、ご遺族は団体に対して、侵害された分をお金で支払うよう求めることができます(遺留分侵害額請求)。

たとえば、「全財産を団体に遺贈する」という遺言書があり、配偶者やお子さんがいる場合には、この請求を受ける可能性があります。

請求を受けた場合、団体はすでに受け取った寄付金の一部を支払うことになります。受け取った寄付金を、すぐに全額使ってしまわないことも、ひとつの備えになります。

また、遺留分の請求は、法的な争いに発展することもあります。その場合は、弁護士への相談が必要です。

6. ご遺族への配慮

遺贈寄付を受け入れるうえで、いちばん大切にしたいのがご遺族との関係です。

ご遺族の中には、

・故人が寄付をすることを、亡くなってから初めて知った
・本当は自分たちが受け取るはずだった、と感じている
・団体が故人をそそのかしたのでは、と疑っている

という方もいらっしゃいます。

ご遺族の理解が得られないと、遺言書の有効性を争われたり、団体の評判に関わる問題になったりすることもあります。

ご遺族と接する際には、

・故人への感謝と、ご遺族へのお悔やみの気持ちを丁寧に伝える
・寄付をどのように活用させていただくかを、誠実に説明する
・財産の受け取りを急かさない
・ご遺族の事情に耳を傾ける

といった姿勢が欠かせません。遺贈寄付は、故人とご遺族、両方の思いを受け取る寄付であることを忘れないようにしたいものです。

7. 生前のご相談で気をつけること

遺贈寄付を検討している方から、生前にご相談をいただくこともあります。団体にとってはありがたいことですが、ここにも注意点があります。

団体が遺言書の内容に深く関わりすぎない
団体の職員が、遺言書の内容を細かく提案したり、作成の場に立ち会ったりすると、後でご遺族から*「団体が自分たちに有利な遺言書を書かせた」*と疑われるおそれがあります。

遺言書の内容は、あくまで寄付者ご本人の意思で決めていただくもの。団体は、受け入れ方針や寄付の活用方法などの情報提供にとどめ、遺言書の作成そのものは、寄付者ご本人が専門家と進めていただくのが望ましいでしょう。

寄付者の判断能力に配慮する
ご高齢の方の場合、判断能力が十分かどうかが、後で遺言書の有効性をめぐる争いの原因になることがあります。ご本人の意思がはっきりしているうちに、公正証書遺言などの確実な方法で作成されるよう、お伝えするとよいでしょう。

ご家族への説明をおすすめする
可能であれば、寄付の意思をご家族にも伝えておいていただくよう、おすすめしてみてください。ご家族が事前に知っているかどうかで、相続のときのトラブルの起きやすさが大きく変わります。

8. 受け入れた後の対応

遺贈寄付を受け取った後にも、大切な対応があります。

・受領の記録と書類の保管 遺言書の写し、遺言執行者とのやり取り、受領書などは、きちんと保管しておきましょう。
・会計・税務上の処理 遺贈寄付の会計処理や、団体側の税金の扱いは、団体の法人の種類や事業の内容によって異なります。条件によっては、団体側に税金がかかるケースもあるため、税理士に確認しておくと安心です。
・使いみちの報告 ご遺族や遺言執行者に、寄付がどのように活用されたかを報告することで、信頼関係が深まります。
・故人への感謝の表し方 年次報告書へのお名前の掲載や、銘板への記載などを行う場合は、事前にご遺族の意向を確認しましょう。お名前の公表を望まない方もいらっしゃいます。

丁寧な対応は、ご遺族の安心につながるだけでなく、「この団体なら安心して託せる」という評判となって、次の遺贈寄付につながっていきます。

9. まとめ ―― 受け入れ体制は「事前の準備」で決まる

遺贈寄付を受け入れる団体が注意したいポイントを、あらためて整理します。

・受け入れる財産の種類や、包括遺贈への対応などの方針を事前に決めておく
・包括遺贈は、借金や税金を引き継ぐおそれがあり、放棄の期限にも注意する
・不動産・株式は、管理費用やみなし譲渡所得税の負担を確認する
・遺留分の請求を受ける可能性を想定しておく
・ご遺族への配慮を何より大切にする
・生前のご相談では、遺言書の内容に深く関わりすぎない
・受け取った後も、記録・報告・感謝の表し方まで丁寧に

遺贈寄付は、これから増えていくと考えられている寄付の形です。だからこそ、連絡が届いてから慌てるのではなく、今のうちに受け入れ体制を整えておくことが、寄付者の思いを確実に受け取ることにつながります。

おわりに

「遺贈寄付の受け入れ方針を、これから作りたい」 「包括遺贈や不動産の遺贈の連絡が来たとき、どう判断すればいいか分からない」 「寄付を検討している方からの相談に、どこまで答えてよいか迷う」

AOI行政書士事務所では、NPO法人・公益法人などの団体様向けに助言を行っています。受け入れ方針づくりから、個別の遺贈への対応の考え方まで、団体の皆さまの判断をサポートします。

※税金に関するご相談は税理士、紛争に関するご相談は弁護士など、内容によっては他の専門家へのご相談をおすすめすることがあります。


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