住宅を買う人が一番気にすることって、なんだと思いますか?
デザインでも、駅からの距離でもなく、「この価格で、本当に買っていいのか」なんですよね。
これ、IRODORIマンション相談室を作る中で、一番頭を使った軸です。居住費診断。
てか作ったはいいですが、奥が深くまだまだ改善の余地はあるので、どんどんアップデートしていこうと思っています。
■ 物件購入は年収の「7倍」までという幻想
このフレーズよく聞きますよね?間違ってはいないのですが、単なる目安なんですよね。
以前、税引き前の年収の7倍を基準に、物件を検討していた方がいました。
この基準だけを見ると、一見成立しているように見えるんです。でも実際の家計を見せてもらうと、話は変わってきます。
ゴルフ、料理教室。趣味にもしっかりお金をかけていて、加えて残価設定型ローンで車も持たれていました。
正直、これで住宅費まで乗せるのはかなり危ういと感じ、率直にお伝えしました。
■ 「年収の何倍」が、もう機能していない
最近、似たようなケースが本当に増えています。
物件価格自体が高いのに加えて、相談者側の支出構造も変わってきているんですよね。
バイクとか、お金のかかる趣味を持つ人がむしろ減ってきている。
お子さんがいる家庭だと、住宅より教育資金に回す割合の方が大きかったりする。
その一方で「他のことにはお金をかけないけど、住宅だけはいい場所に、いい環境に住みたい」という方が増えている印象です。
結果として、住宅にかける年収の割合は、全体的に上がってきています。
年収の5倍、7倍。額面か手取りか。こういう指標そのものが、もう実態と合わなくなってきているんです。
だから居住費診断では、こうした倍率ではなく、「実際に毎月いくらかかるか」を具体的な金額で出すことにしました。
月額が見えれば、「金利がこうなったらこういう生活になる」「これくらいかかるなら、生活費のここを抑えよう」と、自分ごととして判断できるようになります。年収の何倍という目安より、こっちの方がよっぽど大事だと思っています。
■金利は上がる?下がる?
とはいえ、その「毎月いくら」を出すには、将来の金利や価格がどう動くかも考えないといけません。
金利がこのまま上がらない世界線で計算すべきか。今、少しずつ金利は上がっていますが、どこまで現実的に上がるのか。そもそも、また下がるんじゃないか。
これは政治も絡みますし、市況も絡むので、これ!という答えはないものです。ただ、一般的にはこうなるだろうという方向性は見えてくるものだと思っています。
今までの私の経験とさまざまな情報からさまざまなシチュエーションを分析しました。
リーマンショックが起きたらどうなるか。今みたいな石油危機が起きたらどうなるか。バブルの時はどうだったのか。
でもやっぱり未来を予測するのって難しいんですね。
直近の動向はわかりやすいです。政局、国際情勢、為替、景気、ニュースをみていればなんとなく、わかると思います。ただ、5年先は誰にも予想できません。でも住宅ローンは基本35年ありますから、何かしらの指標は決める必要があります。
■ 10年での「収束」
まず、都内を中心に今、物件価格は高騰しています。
物価高騰、職人不足による単価アップ、マンション自体の資産性評価。理由は色々ありますね。てか工事費高すぎ・・・
直近10年の実データを見ると、年5%というかなり高い上昇率のエリアもざらにあります。
でも、これをそのまま複利でずっと伸ばすと、30年後、40年後には数倍の価格になってしまいます。いくらなんでも、日本の不動産にそんな力はありません。
そこで、直近の実測値を起点にしつつ、10年かけて「上昇+1.5%/横ばい0%/下落▲1.5%」という、あらかじめ決めておいた穏当な水準まで収束させ、以降はその数値が続く設計にしました。
実はこの1.5%、当時、日銀が掲げる物価目標の2%とか、不動産のDCF評価で使う「収束成長率」の考え方を頭に置いて決めた数字なんです。
内閣府が出している中長期の経済財政試算を見ると、現実路線の「ベースラインケース」では名目GDP成長率が2030年ごろに0.5%くらいまで落ち着く一方、政策目標に近い「成長実現ケース」だと3%くらいまで伸びるとされています。1.5%は、ちょうどこの2つの真ん中あたりの水準なんですよね。
日銀の物価目標である2%をそのまま使わなかったのは、不動産の値上がりって物価上昇と完全には連動しないと思っているからです。エリアによっては人口減少という逆風もありますし。楽観的すぎず、悲観的すぎず、というスタンスを数字に落とし込んだ結果が1.5%でした。
とはいえ、「この式で1.5%が導かれる」という厳密な計算式があったわけではありません。複数の公的な経済指標や実務の考え方を照らし合わせた上での、専門家としての着地点です。だって10年後ですもん。そこは正直にお伝えしておきます。
■ じゃあ何を検証したかというと
数字そのものより、時間をかけたのは、直近の伸び率をそのまま将来に延長していいのかという検証です。
東京の主要区だけで見ると、築年数帯ごとの伸び率はだいたい年4〜7%程度で、大きな矛盾はありません。でも対象を大阪・名古屋・福岡・札幌・鳥取まで広げると、地域ごとの傾向はバラバラで、名古屋のある区では築30年台の伸び率がマイナスに転じているケースなんかがあります。
エリアによっては、直近の勢いをそのまま将来に延ばすと、符号すら逆転しかねない。だからこそ、実測値をそのまま将来永劫使うのではなく、穏当な水準に収束させる設計にしています。1.5%という数字そのものより、こちらの検証にこそ時間を使いました。
■ 都合よく数字を操作するくらいなら、はっきりと見せる
このシミュレーション、30年、40年と伸ばしていくと、複利の力でどうしても超長期になるほど利益が出やすくなります。
ただ、これは「予測が難しい」というより、もっと単純な理由があります。
日本のマンションというのは、古いものでもせいぜい築60年くらいしかありません。それより先、築70年、80年経ったマンションがどう値動きするのか、実はまだ誰も見たことがないんです。
つまり「予測できない」のではなく、「そもそもデータが存在しないので、判断のしようがない」というのが正確な表現です。ないものは、どれだけ計算式を工夫してもデータにはなりません。
数字が大きくなりすぎるから、上限を設けて頭打ちにしましょうかという案も、正直検討しました。でも、それをやると、さっき決めた「収束先の設計」自体を自分で否定することになる。データがないことを、それらしい数字でごまかすようなことはしたくありませんでした。
代わりに選んだのは、グラフの30年目以降の領域に、あえて薄いグレーをかけて、「30年以降は不確実性が高い」とはっきり注記することです。数字は一切いじらず、その代わり「ここから先は当てにしすぎないでください」と、画面の中で正直に伝えることにしました。
■ 一般的には、どうなっているのか
ここからは少し業界の話になります。銀行の担保評価は、そもそも将来の値上がりを予測していません。今の価値を、築年数に応じて機械的に減らしていくだけです。担保という性質上、値上がりを前提にできないので、これはこれで当然だと思います。
一方、大手の査定サービスは、膨大なデータをもとに50年後の価格まで予測を出しています。ただ、その前提が何%で計算されているかは、基本的に開示されていません。
我々のサービスはそのどちらでもありません。予測を放棄するでもなく、ブラックボックスで断定するでもなく、前提を全部見せた上で、一緒にシミュレーションする。
指標や考えを一方的に押し付けるというよりは、相談者のスタンスや考え方に立って、いくつかシミュレーションを提示する。それが今のところの、自分なりのスタンスです。