「鳥になりたい ユナ②」

記事
小説
自分の人生について、子供達だって悩んでいるかもしれない...
自分の楽しめる事を見つけて♪という想いを込めて書きました。

「鳥になりたい ユナ②」
作:ユイ姉

 いつものように湖のほとりに訪れたユナ。
ユナがここに招かれたように訪れるときは、
何かしら胸騒ぎを覚えて、思わず足が向いたときだ。
そういうときは決まって、湖全体が霧に覆われ、
暗い空気を醸し出しているものだ。
ところが今日は、晴れ渡った視界一面に湖の表面は
キラキラと輝き、透明な水面に映ったのは、
白装束を纏ったユナ自身の姿だった。
「なんだ、今日はお呼びでなかったかしら」
ユナがそう呟いたとき、湖の水面が急に揺れ動き、
ひとつの黒い物体が映った。
一羽のカラスだった。
「あら、まあ...」
ユナは拍子抜けした表情になった。
そこに映し出されたのは、
時折ユナの御用達をしているカラスだったからだ。

「ユナ様、お呼びでございますか?」
そのカラスは、いつものようにユナの肩へ舞い降りた。
「何か悩み事があるそうじゃない?」
ユナが問いただすと、カラスは言った。
「そうなんですよ、ユナ様。
実はひとりの少年が、わたしになりたいと...」
「なに?おまえになりたいとな?」
「人間なんて嫌だ!
僕は鳥になりたい、と言いまして...」
「ほう...」
「ユナ様、どうしたらいいもんでしょう?」
「まあ、自分で考えなさいな」
「えっ!ユナ様、そっ、そんなぁ」

ユナに相手にされなかったカラスは、
翌日も気になっていた少年のもとへ飛んでいった。

少年が通う小学校では、道徳の授業中であった。
カラスは、窓越しに、その少年の姿を心配そうに
眺めていた。

「みなさんは、将来何になりたいですか?」
先生らしき人が、生徒たちに質問していた。
「じゃあ、和樹くん」
和樹は、1か月程前にこの小学校へ転校してきたばかりだ。
なんとも、災害で家を流され、こうして遠く離れた
親戚を頼って避難生活していた。
命からがら逃げて、なんとか助かったが、
その時の恐怖とその後の喪失感は、
今も少年の心に重くのしかかったままだ。
(鳥はいいなあ。危険なときは、いつでも逃げられて)
和樹は鳥を見つけるたびに、そう話しかけていた。
「はい、先生、僕は鳥になりたいです」
「ハーッ!鳥だってよー!何言ってんだ」
アハハハ...

教室中、ドット笑い声がたちこめた。
困り果てた先生は、和樹にやさしく質問した。
「和樹くんは、どうして鳥になりたいと思ったの?」
「だって、鳥だったら、いつでも危ないところから
お空に飛んで逃げられるんだ。
僕の災害のときも、みんなが鳥だったら、
みんな助かっているんだ!」
今度は教室中がシーンと静まり返った。
ああ、そうだった。
和樹くんは、避難してここに来てたんだ。
子供たち全員無言になった。

和やかな食卓を囲んで夕食を食べながら、
一人の少年が言った。
「お母さん、今日僕はクラスの友達に悪いこと言っちゃった。
避難してここに来た子をバカにして笑っちゃったんだ。
謝りたいけど、それも恥ずかしくてできないんだ」
クラスの学級委員をしている雅人だった。
しかも和樹の席の隣に座っていて、
あれから和樹のことが気になって仕方がなかったのだ。
「それなら、お友達になってあげればいいじゃない?」
「そうか!わかったよ」

次の日の放課後、
雅人は勇気を出して和樹へ話しかけた。
「僕、少年サッカーチームに入っているんだよっ。
和樹くんもためしにやってみない?」
「えっ?僕も入れてくれるのかい?」
和樹は、ふるさとでサッカーに没頭していたが、
最近は、大好きなスポーツもずっと
ご無沙汰だった。
あまりの嬉しさに、和樹の心は珍しく高揚した。
「じゃあ、早速グラウンドでパスして遊ぼう!」
「そうしよう!」

「和樹くんって、こんなにサッカーが
上手だったんだね」
「えっ、そうかい?」
和樹はさらに嬉しくなった。
「じゃあ、いきなりたか~いシュートだあ!
それーぇ!」
和樹は全身の力をふりしぼって、思いっきり
ボールを空高く蹴り上げた。
バシッ!
ボールが鈍い音を立てて、一緒に黒い何かが落ちてきた。
「あー、カラスに当てちまった!」
カァ、カァ、カァ...

和樹は少しの間、カラスをじっと見つめていたが、
前のように話しかけなかった。
(僕はもう、飛べなくてもいいのさ。
地面を走り回ってサッカーをしたいよ。
これからは、地に足をつけて生きていく...)

「ユナ様、お呼びでございますか?」
カラスがユナの肩へ舞い降りた。
「ところで、その後、あの少年は元気かい?」
「はぁ、それが前向きになったんですよ、
どうも...」
「そうだろうねえ、あの子なら
心配しなくても、自分で生きる道を見つけられると
思っていたよ」
「えっ、ユナ様、それ早く言ってくださいよう...」
「何か言ったかい?」
「いいえ、ユナ様...」

「ところで、そんなに身体じゅう、包帯巻いてどうした?」
「いやぁ、ユナ様、
バレましたですかあ?」
「そりゃあ、おまえの真っ黒い身体に
白い包帯巻いたらスグわかるさ」
「ヘヘッ、そうですねぇ」

アハハハ...アハハハ...アハハハ...

ーおしまいー

最後までお読みいただき、ありがとうございました。








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