注目されるセットベース開発
トヨタのリーン製品開発の重要要素の一つとしてセットベース開発が注目されています。
セットベース開発の考え方は、ライト兄弟が世界で初めて飛行機を飛ばすことに成功したことに由来しています。
ライト兄弟は、驚くことに最初の設計で作った試作機で、飛行することに成功したと言われています。
当時、ライト兄弟の他にも飛行機を飛ばすことを夢見ていた研究者はたくさんいたようですが、その人たちが何度も試作・テストを繰り返しながら一度も成功しなかったことをしり目に、基礎実験を積み上げ、飛行のための未知の知識を学習により習得しながら、確信をもって詳細設計を行って、一発で成功させたというわけです。
ライト兄弟の成功をモデルに、製品開発において、わからないこと、未知へのチャレンジを一つずつ学習しながら、知識を積み上げてから詳細設計をするやり方をセットベース開発と呼んでいます。
セットベース開発に関する誤解
セットベース開発についてセミナーで話したり、ご要望によって解説したりすると、「そのやり方なら、うちでもやっているよ」という人がこれまで何人かいました。
よく聞いてみると、要素開発と詳細設計を分けてやっていて、詳細設計前に必要な要素開発を済ませるというやり方をセットベースと誤解しているようでした。
他にもトヨタの手法を書籍などで学んでセットベースをすでに始めています、という人も時々います。
そういう人たちに対して私は、セットべ―ス開発は何を目的に始めたのですか?その目的は達成されましたか?と聞くと、
「開発効率を上げるために始めましたが、まだ成果はでていません」
「ヒット商品を狙って始めましたが、形は整ったのですが、ヒット商品はまだ出来ていません」
というような答えが返ってきます。
どうやら、上辺だけのセットベースになっているように思えます。
セットベース開発に関する誤解には、いくつかのポイントがあります。
一つは、技術要素ばかりに目を奪われているということです。
イノベーションを起こす、ヒット商品を生み出すための製品開発では、すべての出発点は「顧客価値」です。
顧客価値を高めることが、最も注力すべき点で、セットベース開発では、顧客価値に関するチャレンジと技術開発に関するチャレンジの両方を並行して進める必要があり、顧客価値検証を怠ることで、良い製品が生まれないということになるわけです。
二つ目は、学習サイクルを早めるための小さな実験(MVE:Minimum Viable Experimentation)の重要性に関する認識不足です。
知りたい知識だけを得られるような小さな実験、他の要素からの影響を受けない実験をすることで、検証サイクルを早め、確実に一歩一歩進んでいくことで、開発日程を短縮させることができます。
三つ目は、未知のこと、わからないこと、つまり開発にとってのリスクを出し切れていないことで、結局、後戻りが発生してしまいます。
特にマイナーチェンジの開発だから、と学習すべき項目、つまりはリスクを軽視してしまうことで、結果、開発速度が上がらないということになります。
四つ目は、チャレンジとリスク回避の安全策をバランスよく維持しながら進める、ということが理解されていないことです。
限られた時間で、できるだけチャレンジ度の高い、顧客価値を高める製品を開発することが、開発組織には求められています。
開発は時間との闘いでもあります。
チャレンジはしたい、でも最悪のときは安全サイドでも製品を出さなければならない、そのために、学習していく開発として、チャレンジ度の高いものと安全なものの両方を継続しつつ、ある段階でどちらにするかを絞っていくというのがセットベースで大事な考え方なのですが、チャレンジばかりをやろうとして、納期で問題を起こしてしまうことになるわけです。
セットベースのインプリではなく、成果を評価しながら進める
製品開発組織では、企業によって異なるものの様々な問題や課題が存在しています。
問題解決のために、色々と策を練ったり、手法を取り入れたりすることもよくあると思います。
トヨタのリーン製品開発手法も、企業の様々な問題に対応するために取り入れようとすることが多いと思いますが、よくある間違った考え方は、そもそも何のためにリーン開発を取り入れようとしているかが曖昧であることです。
書籍などを読んでいくと、良いことばかり書いてあるので、この手法さえ取り入れればすべてがうまく行くと考えてしまうのかもしれません。
そうするとどういうことが起きるかと言うと、手法のインプリを完成出来たかどうかが指標になってしまい、そもそも何を目的に始めたかがわからないままになってしまうことをよく目にします。
もっとも達成したいこと、例えば開発日程を20%短縮したいということを狙ったのであれば、リーン開発やセットベース開発を実践する状況ではなく、開発日程がどう変化しているかをウォッチすべきなのです。
イノベーションを起こしてヒット商品を生み出したいのであれば、ヒット商品の確率を評価すべきなのです。
ライト兄弟のやり方で、開発期間も短く、開発費も少なく、しかも一発目の試作で成功する、ということが達成できたことが起源ですから、開発期間短縮、開発費低減、一発成功ということを目標としてセットベースの実践を進めていただきたいと思います。