最近、「AI PC」や「NPU搭載PC」という言葉を見かける機会が増えてきました。
では、これから会社で使うWindows PCは、ChatGPTのようなAIをパソコンの中で動かす端末になっていくのでしょうか。
結論から言うと、Windows PCも、ローカル環境でAIやLLMを動かす方向へ進んでいくと思います。
ただし、すべてのパソコンが同じ高性能なAI PCになるわけではありません。
仕事の内容や利用者によって、必要なパソコンの性能は分かれていくはずです。
## ローカルLLMとは
LLMとは、文章の作成や要約、質問への回答などを行う生成AIの仕組みです。
一般的な生成AIサービスでは、入力した文章をインターネット経由でクラウドへ送り、クラウド側で処理します。
一方、ローカルLLMでは、パソコンの中にAIモデルを保存し、端末上で処理を行います。
ローカルで処理するメリットとしては、次のようなものがあります。
・機密情報を外部へ送らずに処理できる
・インターネットに接続できない環境でも使える
・毎回クラウドへアクセスする必要がない
・自社業務に合わせて調整しやすい
特に、顧客情報、設計資料、契約書、社内文書などを扱う企業では、ローカルAIが選択肢になる可能性があります。
## MacでローカルLLMが動かしやすい理由
Apple Siliconを搭載したMacでは、CPUとGPUが同じメモリを共有しています。
通常のパソコンでは、CPUが使うメモリと、GPUが使うメモリが分かれている場合があります。
Macでは、大容量のメモリをCPUとGPUの両方から利用しやすいため、大きなAIモデルを読み込ませやすいという特徴があります。
ただし、重要なのは単純なメモリ容量だけではありません。
たとえば、64GBのメモリを搭載していても、GPUがそのメモリを十分に利用できなければ、ローカルLLMには向きません。
実際には、
・GPUが使えるメモリ容量
・メモリの読み書き速度
・CPUとGPUの連携
・利用するソフトウェアへの対応
などが性能を左右します。
## Windows PCも同じ方向へ進んでいる
Windows PCでも、CPU、GPU、NPUがメモリを共有する製品が増えています。
最近では、AMD、Intel、Qualcommなどが、AI処理を前提としたCPUを提供しています。
特に、大容量メモリをGPUから利用できる製品は、ローカルLLMとの相性がよいと考えられます。
ただし、Windows PCは多くのメーカーが製造しています。
そのため、同じCPUを搭載していても、
・メモリ容量
・冷却性能
・消費電力
・GPU性能
・ドライバー対応
・メーカーのサポート期間
などに違いがあります。
Macよりも選択肢が多い一方で、製品を選ぶのが難しいという面もあります。
## NPUの数字だけで選ばない
最近のAI PCでは、NPUの性能が「TOPS」という数字で表示されています。
TOPSの数字が大きいほど、AI性能が高いように見えます。
しかし、NPUの性能が高ければ、どのようなAIでも高速に動くわけではありません。
NPUは、次のような処理を省電力で動かすことに向いています。
・会議音声の文字起こし
・ノイズ除去
・カメラ映像の補正
・文章の分類
・小型AIによる要約
一方で、大きなLLMを自由に動かす場合には、GPU性能やメモリ容量、メモリの速度が重要になることがあります。
また、利用したいアプリがNPUに対応していなければ、NPUが搭載されていても活用できません。
「AI PC」と書かれているかどうかではなく、実際に何を動かしたいのかを決めたうえで選ぶ必要があります。
## 会社のPCは用途別に分かれていく
今後の企業向けWindows PCは、大きく分けて次のような種類になると思います。
### 一般事務向けPC
メール、文書作成、Web会議、表計算などを中心に利用する端末です。
小型のAIを使って、文章の要約、文字起こし、メール整理などを行います。
メモリは16GBから32GB程度で、NPUを搭載した省電力PCが中心になるでしょう。
### エンジニアや専門職向けPC
プログラム開発、社内文書検索、RAG、データ分析などを行う端末です。
32GBから64GB程度のメモリと、比較的性能の高い内蔵GPUを搭載したPCが候補になります。
小型から中型のローカルLLMを動かし、業務システムと連携する使い方が考えられます。
### AI開発や高度な処理向けPC
大規模なAIモデルの検証、画像生成、動画生成、学習などを行う端末です。
64GBから128GB以上のメモリや、NVIDIAなどの専用GPUを搭載したワークステーションが必要になります。
すべての社員へ、このような高性能PCを配布する必要はありません。
業務内容に合わせて、端末を分ける方が現実的です。
## 企業ではローカルとクラウドを使い分ける
これからの企業AIは、すべてをローカルで処理する形にはならないと思います。
実際には、次のように使い分ける形になるでしょう。
・一般的な文章作成はクラウドAI
・最新情報を使う質問はクラウドAI
・個人文書の整理は端末上のAI
・会議音声の処理はNPU
・機密情報の処理はローカルAI
・負荷の高い処理はクラウドやGPUサーバー
処理する情報の機密性や負荷によって、実行する場所を変える考え方です。
ローカルAIを導入すれば、クラウドAIが不要になるわけではありません。
両方を適切に組み合わせることが重要になります。
## ローカルLLMを導入すると管理項目も増える
ローカルLLMを会社のPCへ導入する場合、単にソフトウェアをインストールすれば終わりではありません。
運用面では、次のような項目を考える必要があります。
・AIモデルの配布方法
・モデルのバージョン管理
・パソコンのストレージ容量
・GPUやNPUのドライバー更新
・利用ログの管理
・機密情報の保存場所
・ローカルAPIの公開範囲
・ウイルス対策ソフトとの相性
AIモデルは、1つで数GBから数十GBになることがあります。
多くの社員へ配布する場合、社内ネットワークへの負荷も無視できません。
ローカルAIは、クラウドより簡単に管理できるとは限らず、別の運用設計が必要になります。
## パソコン選びで確認したい項目
今後、AI利用を前提にWindows PCを選ぶ場合は、CPUの世代やメモリ容量だけでなく、次の点も確認した方がよいと思います。
・メモリ容量
・メモリの読み書き速度
・GPUが使えるメモリ容量
・NPUに対応するアプリ
・利用したいAIモデルへの対応
・ドライバーのサポート期間
・メモリを後から増設できるか
・社内システムと連携できるか
特に注意したいのは、NPUのTOPSだけで判断しないことです。
実際に利用するソフトウェアが対応していなければ、高性能なNPUを搭載していても十分に活用できません。
## 導入前に小さく試す
企業でローカルLLMを導入する場合は、最初から全社展開するのではなく、数台のPCで試す方法が安全です。
たとえば、次のような内容を確認します。
・利用したいAIモデルが動くか
・回答速度は業務で使える水準か
・業務アプリと同時に使えるか
・端末が熱くなりすぎないか
・バッテリーが極端に減らないか
・機密情報を安全に扱えるか
・モデルの更新や配布ができるか
カタログ上の性能だけでなく、実際の業務環境で確認することが重要です。
## まとめ
Windows PCは、今後ローカルLLMや小型AIを動かす端末へ変わっていくと思います。
ただし、すべてのパソコンが同じ性能になるわけではありません。
一般事務では、NPUを使った小型AI。
エンジニアや専門職では、メモリ容量とGPU性能を重視したローカルLLM。
AI開発では、大容量メモリや専用GPUを搭載したワークステーション。
このように、業務内容によって端末を分ける形が現実的です。
また、ローカルAIを導入すれば、情報を外部へ送らずに処理できるメリットがあります。
一方で、モデルの配布、更新、セキュリティ、端末性能など、新しい管理項目も増えます。
AI PCという名称だけで製品を選ぶのではなく、
「どの業務でAIを使うのか」
「どの情報をローカルで処理するのか」
「クラウドAIとどのように使い分けるのか」
を先に整理することが大切です。
小規模なローカルAI環境の構築、PC選定、Ollamaなどを利用した検証環境について、ご相談を受け付けています。