中小企業経営のための情報発信ブログ241:シュンペーター

記事
ビジネス・マーケティング
今日もブログをご覧いただきありがとうございます。
今日は、名和高司著「資本主義の先を予言した史上最高の経済学者 シュンペーター」(日経BP )を紹介します。ヨーゼフ・アロイス・シュンペーターと言えば、「イノベーションの父」と呼ばれた経済学者です。1883年、カール・マルクスが亡くなった年に、オーストリア・ハンガリー帝国に生まれ、1911年にグラーツ大学教授に就任し、1919年にオーストリアの大蔵大臣に就任したもののすぐに辞任、1921年にビーダーマン銀行の頭取に就任したものの、1924年に同銀行が経営危機に陥り解任されています。1927年にハーバード大学の客員教授となり、1932年に制教授に就任し亡くなる1950年まではハーバード大学教授を務めています。
シュンペーターは、「イノベーションの父」と呼ばれています。今から100年近く前に、シュンペーターが初めてイノベーションという概念を使いました。
シュンペーターは初期の著「経済発展の理論」では、イノベーションではなく「新結合(new combination)」という言葉を使っています。
イノベーションは「技術革新」と訳されますが、「イノベーションは0→1」という考えはシュンペーターがいうイノベーションとは似て非なるものです。
イノベーションとは、新しい知・アイデアを生み出すことです。新しいアイデアがなければ、人も組織も変わることはできません。シュンペーターによれば、「新しい知とは、常に『既存の知』と別の『既存の知』の『新しい組み合わせ(新結合)』で生まれる」のです。これは言われてみれば当たり前のことです。人間はゼロからは何も生み出せないのです。今まで誰一人思い浮かばなかったアイデアであっても、それは既にある何かと何かの組み合わせにしか過ぎないのです。
例えば、ステーブ・ジョブズは、iPhoneを作ったことがすごいと言われますが、iPhoneに似たものは当時かなりありました。ジョブズの真骨頂は「既にある似たようなものを組み合わせ、それによって人々の生活を変えたこと」です。ただ、製品を思いつくだけでなく、その先にいる世界中の人々に「思わず使いたくなる製品を作り、きちんと届ける販路を作り、もちろん原料の調達も可能にしたこと」がすごいです。これはシュンペーターの言う「イノベーション」理論を体現しています。
また、トヨタ生産システムの「カンバン方式」がありますが、これは、1950年代に米国のスーパーマーケットのモノ・情報の流れからヒントを得たとされています。それまでの自動車生産は、部品を作って(前工程)、その部品を組み合わせて完成車にしていました(後工程)。前行程で必要なだけ部品を作り、後工程に押し出す流れです。
一方、スーパーマーケットでは、顧客がきて必要なモノを必要なだけ買っていきます。すなわち、後工程が前工程に必要な分だけ引き取りに来るのです。この方式なら在庫のムダを省くことができます。スーパーマーケットと自動車生産という、これまで繋がっていなかった知と知が結びついて、日本が世界に誇るイノベーション(カンバン方式)が生まれたのです。
知と知の組み合わせは枚挙に暇がありません。ヤマト運輸の小倉昌男氏が宅配便のビジネスを思いついたのは、吉野家の牛丼ビジネスを学んだときと言われ、増田宗昭氏がTUTAYAのビジネスモデルを思いついたのは、消費者金融のビジネスを見たときと言われています。
このように、イノベーションの源泉である「新しい知」を生み出すためには、既存の知と既存の知の組み合わせ、つまり「新結合」が必要なのです。
シュンペーターは「アイデアなんてただのゴミ」と言っています。重要なのは、「既にあるものの組み合わせ」なのです。全く新しいアイデアを生み出そうとしても、人の認知には限界があります。近視眼的(マイオピア)です。人や組織は、本質的に「今認知できている目の前のもの同士だけ」を結びつける傾向があります。目の前の知だけを組み合わせるので、ある程度時間が経つと組み合わせが尽きてしまい、新しい知が生まれなくなるのです。実際、今の日本で、イノベーションに悩む多くの企業は、大企業・中小企業を問わず、目の前の知と知の組み合わせをやり尽くし、閉塞感にとらわれてしまっているのです。
シュンペーターは、「変革は外から起きるのではなく、内からしか起こらない」「景気の波は繰り返し起こる」「資本主義が終焉を迎える」などさまざまな理論を残しています。特に、この本の第3部「資本主義の先を見る」は考えさせられる内容となっています。シュンペーターは、その著「資本主義・社会主義・民主主義」の中で資本主義の終焉を予想しています。
シュンペーターはカール・マルクスが亡くなった年に生まれていますが、経済を「機械」ではなく「生き物」として捉え、能動的に分析し、結果的に社会主義へ移行するという点で、シュンペーターとマルクスの思想には共通点が見られます。ただ、決定的な違いがあります。それは、マルクスが、ヒトを労働力と捉えたのに対し、シュンペーターはヒトを知力の源泉と捉えた点です。マルクスのように外的な力による革命は必要なく、資本主義はその内在的なメカニズムによって自然に社会主義に移行すると考えているのです。
ここで、この本の著者である名和氏は、「志本主義」、資本主義が岐路にたつ今、個々の経済主体の「志」が問われていると言っています。
シュンペーターの理論には、常に前を向き、停滞している現状を打破できる力があります。シュンペーターの理論が特に経営者に人気があり、現代も生き生きしているのは、現代においても使える理論だからです。経営学者の机上の理論よりも役に立ちます。シュンペーターの理論を学ぶにはわかりやすく良い本です。
サービス数40万件のスキルマーケット、あなたにぴったりのサービスを探す