夜風が頬をかすめる。

夜風が頬をかすめる。

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夜風が頬をかすめる。
二人は並んで歩きながら、
しばらく無言のまま街角を曲がった。
彼女がふと足を止めて、
マフラーの端を軽く引く。

彼「どうした?」
彼女「…このまま、少し歩こうか。
もう少しだけ、この夜を終わらせたくない」

彼は黙って頷き、二人の
歩調が自然とそろう。
遠くで電車の音が響き、
どこかでパン屋のシャッターが
下りる音がした。

彼「前は、夜が嫌いだったんだ」
彼女「どうして?」
彼「考えごとばかりして、
眠れなくなるから。でも、
君と話したあとの夜は、
不思議と静かで穏やかになる」
彼女「それは、きっと“安心”があるからだよ」

細い路地を抜けると、並木道の
先に公園があった。
葉を落とした木々が月明かりを
受けて白く浮かび上がる。

ベンチに腰を下ろすと、彼女は手を
膝に重ねて空を見上げた。

彼女「ねえ、さっき言った“育てる”って
言葉、あれね、もうひとつ意味があるの」
彼「うん?」
彼女「愛ってね、相手と一緒に“自分”も
育てていくことなんだと思う。誰かを
大切にするほど、自分の中にも優しさが
増えていくの」
彼「なるほどな…。君と話すと、
答えというより“温度”をもらう気がする」

彼女はくすりと笑って、手のひらを
少し開いた。夜の空気が指先で
光を映すように冷たい。
そして、そっと彼の手を包み込んだ。

言葉の代わりに、静かな“約束”が流れた。
焦らず、比べず、少しずつ。
このあたたかさを、これからの
季節も絶やさないように。

彼女「ねえ、また同じカフェで
会おうよ。次は、春が来るころに」
彼「いいね。そのときは、今より
もう少し大人になっていられるといいな」

ふたりの笑い声が、夜の風に溶けていく。
月がわずかに顔を出し、
濡れた街を淡く照らした。
歩き出した足音が重なるたび、
その鼓動のようなリズムが、
恋という名の“時間”を静かに刻んでいた。
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