今日も、明日も、同じ速さで歩く理由がある
記事
コラム
昼休みの校庭は、
冬に近い風が吹いていた。
凪は、ベンチに腰を下ろして、
紙パックの飲み物を両手で包む。
冷たいはずなのに、
指先は、あたたかい。
——昨日の帰り道のことを、
思い出していた。
10分の1の力。
強くもなく、弱くもなく。
離れない、とだけ伝える力。
(……不思議)
それだけで、
今日が少し違って見える。
「寒くない?」
声がして、
悠真が隣に座る。
「うん、大丈夫」
凪は、そう答えてから、
少しだけ間を置く。
「……ね」
「もしさ」
言いかけて、止める。
悠真は、急かさない。
「続き、いいよ」
その一言に、
胸の奥が、きゅっとなる。
「もし、また何か起きたら」
「私、ちゃんと立てると思う?」
悠真は、すぐには答えなかった。
校庭の向こうで、
ボールの音が弾む。
「立てるよ」
静かな声。
「でも」
「一人で立たなくていい」
凪は、顔を上げる。
「……それって」
「守るって意味じゃない」
悠真は、少しだけ笑う。
「同じ速さで歩く、って意味」
その言葉が、
胸に、すっと入ってくる。
——速さ。
前に引っ張られるのでも、
後ろから押されるのでもない。
「私さ」
凪は、息を吸う。
「前は」
「守られるのが、正解だと思ってた」
「でも今は」
「一緒に選ぶほうが、怖い」
悠真は、うなずく。
「うん」
「それ、恋だと思う」
凪は、思わず笑ってしまう。
「そんな、あっさり言う?」
「あっさりじゃないよ」
悠真は、視線を落とす。
「俺も、怖い」
その正直さが、
凪の心を、静かにほどく。
チャイムが鳴る。
立ち上がるとき、
自然に、二人の距離が近づく。
触れるか、触れないか。
でも今日は、
触れないまま、歩き出す。
——それでも、同じ速さ。
教室へ向かう廊下で、
凪は思う。
大きな約束はいらない。
未来を決めきらなくてもいい。
ただ、
今日も、明日も、
同じ速さで歩く理由がある。
それだけで、
恋は、ちゃんと続いていく。
凪は、
悠真の横顔を見て、
小さく息を吐いた。
——次も、ここにいる。
その確信が、
胸の奥で、静かに灯っていた。