※本記事は,令和2年8月22日に作成したものです。
第0 はじめに(ざっくりとした感想)
改正民法(債権法,相続法)が施行されて最初の試験ということで,どのような出題がされたのか気になるところですが,がっつり改正法も問われています。
施行直後だろうが容赦しない!という考査委員の気迫を感じます。というか,改正が多岐にわたるので,改正された部分を出さないという出題は難しいように思いますし,受験生も改正法をある程度重点的に勉強して臨んでいると思われるので,受験生の実力を正確に測るという試験の趣旨に照らせば,改正された部分について解答を求める方が適切とも思われます。
また,難易度については,僕の感覚としては「普通」くらいかなと思います。
設問2(小問⑴)が若干マイナーな気はしますが,短答の知識があれば十分解答できるように思います。
問題は,設問1から設問3で,それぞれ冒頭に配点割合の記載があります(40:25:35)。
5頁に(別紙図面)があるので,それも含めて問題を分析する必要があります。
第1 設問1(配点40)
設問1は,「Bは,乙建物に住み続けることを前提に,上記【事実】5の防音性能の不備を理由としてCへの支払額を少なくしたいと考えている。このとき,契約①に基づくBの主張として考えられるものを複数挙げ,それぞれその主張が認められるかを検討しなさい。」というものです。
ここから読み取ることができることは,
・ Bは,乙建物に住み続けることを前提にしている(そのため,詐欺や錯誤による取消し,契約の解除などは選択肢から外れる)
・ Bは,Cへの支払額を少なくしたいと考えている
・ 契約①に基づくBの主張として考えられるものを複数挙げる必要がある(複数なので最低2つ。配点割合から考えても2~3個か)
という点が挙げられます。問題文の指示なので,この辺を外すと印象がかなり悪くなります。
1 代金減額請求権の行使(563条1項,562条1項)
「【事実】5の防音性能の不備を理由としてCへの支払額を少なくしたい」というBの意向からすると,まず,代金減額請求権を行使することが考えられます。
⑴ 代金減額請求権の成否
ア 「引き渡された目的物が…品質…に関して契約の内容に適合しない」(562条1項)
契約①は,甲土地及び乙建物を「目的物」とする売買契約であるところ,契約①においては,Bが乙建物内でチェロの練習をする予定であったため,乙建物が特に優れた防音性能を備えた物件であることが合意の内容とされ,代金額が6000万円と定められていることから,乙建物がこのような性能を備えていることが「契約の内容」でした。しかるに,Bが業者に点検させたところ,乙建物が契約①において合意された防音性能を備えていないことが判明しているから,これに「適合しない」といえます。
イ 履行の追完の催告(563条1項)
Bは,Aに対し,契約①で定められた防音性能を乙建物に備えさせるための工事に要する費用の見積書を提示し,費用を負担するか,工事を自ら手配するかを選択して履行するよう求めており,「履行の追完の催告」をしています。
Bは追加の工事に必要な費用の見積書を提示していることから,当該費用の支払いのためには1週間程度の期間が「相当」と考えられるところ,(履行の追完の催告をしたのがいつかは明確ではありませんが,令和2年10月10日頃だとすれば)Bの上記催告からは,少なくとも20日程度が経過しているから,「その期間内に履行の追完がない」といえます。
ウ したがって,Bは,Aに対し,「その不適合の程度に応じて」代金減額請求をすることができます(金額や割合は不明なので言及する必要はないと思います。)。
⑵ Cへの主張の可否(468条1項)
Cは契約①の当事者ではなく,売買代金債権の譲受人ですので,468条1項の適用を検討する必要があります。
468条1項の趣旨は,債権譲渡の現代社会における有用性に鑑み,取引の安全を図るとともに,債務者を保護し,もって両者の公平を図る点にあると解されます。そのため,「対抗要件具備時までに債権の譲渡人に対して生じた事由」とは,対抗要件具備時までに,抗弁事由それ自体が生じている場合のみならず,抗弁事由の発生の基礎が生じているものを含むと解されます。そのような場合には,債務者に抗弁の主張についての期待が生じており,その主張を認めることが両者の公平に適うと解されるからです。
本件で,Bが抗弁として主張する代金減額請求権は,「引き渡された」という文言から,目的物の引渡し時に発生する権利であると解されます(※適当です。)。乙建物の引渡しは令和2年9月25日ですが,Cへの債権譲渡は,それよりも前の同年7月30日にBへ「通知」(467条1項)がされ,対抗要件が具備されています。
もっとも,上記代金減額請求権の発生の基礎は,乙建物が契約①で定められた防音性能を有していなかったことにあり,これは契約①を締結した時にすでに生じていたので,抗弁事由の発生の基礎は契約①が締結された同年5月20日に生じており,これは上記対抗要件具備時よりも前です。
したがって,Bは,代金減額請求権の行使をCに対抗することができます。なお,同請求権は形成権であるので,Bがこれを行使した時点で契約①に基づく売買代金債権が減額されると考えられます。
2 損害賠償請求権との相殺(415条1項,505条,468条1項,469条)
前記のとおり,問題文が「複数」の主張を挙げることを求めているため,最低でも2個の主張を検討する必要があります。そこで,次に,債務不履行に基づく損害賠償請求権との相殺を主張することが考えられます。
なお,Aは,乙建物が契約①で合意された防音性能を備えていないことを認識していたことが示唆されているため,理論的には不法行為に基づく損害賠償請求権も成立し得るところですが,問題文では「契約①に基づくBの主張」と指定があり,不法行為に基づく損害賠償請求権がこれに含まれるかは判然としません。さらに,一般的に,証明の容易さは債務不履行に基づく損害賠償請求権の方が高いと考えられていますので,これを検討するべきであると思われます。
⑴ 損害賠償請求権の成否(415条1項,564条)
ア 「債務者がその債務の本旨に従った履行をしない」
契約①では,乙建物が所定の防音性能を備えていることが合意の内容とされていたにもかかわらず,乙建物は同性能を備えていないため,乙建物の引渡しは,「その債務の本旨に従った履行」とはいえません。
なお,旧483条が改正され,いわゆる特定物ドグマはなくなりましたので,乙建物の引渡しは債務不履行に該当します(答案でこれに言及する必要はないと思います。)。
イ 損害の発生と額
ここでの損害賠償請求は,修補(履行の追完)に代わる損害賠償を求めることにあるため,本件では,乙建物に契約①で定められた防音性能を備えさせるための工事に要する費用相当額が「損害」となります(具体的な金額は不明)。
ウ 債務者の帰責事由の有無(415条1項ただし書)
近隣住民によれば,Aは,以前にも乙建物における騒音に関して近隣住民とトラブルになっていたというのであるから,Aは,乙建物が契約①所定の特に優れた防音性能を有していないことを知っていたか,少なくとも知ることができたというべきです。
それゆえ,上記債務不履行は「債務者の責めに帰することができない事由によるものである」とはいえません。
エ したがって,Bは,Aに対し,債務不履行に基づく損害賠償請求権を有します。
⑵ 相殺の可否(469条)
次に,前記1と同じく,債権譲渡が行われているため,相殺の可否を検討する必要があります。
ア 損害賠償請求権の発生時期
469条1項によれば,「対抗要件具備時より前に取得した債権」であれば,相殺を主張することができます。そこで,上記損害賠償請求権の発生時期を検討する必要があります。
債務不履行に基づく損害賠償請求権は,債務不履行時に生じると解されますが,契約所定の防音性能を備えていない乙建物の引渡しという上記債務不履行が生じたのは,令和2年9月25日であるので,対抗要件具備時である同年7月30日「より前に取得した債権」にはあたりません。
イ 469条2項1号の適用
次に,上記損害賠償請求権は,前記のとおり,乙建物が契約所定の防音性能を備えていないことが原因であるところ,契約①は,乙建物が特に優れた防音性能を備えていることを重要な要素として締結されており,契約締結後に防音性能を高める工事が予定されていたわけではありません(ここまで書く必要はないかも。)。
すると,上記損害賠償請求権は,契約①の締結という「対抗要件具備時より前の原因に基づいて生じた債権」といえます。
ウ したがって,Bは,Cに対し,相殺の意思表示(506条1項)をすることで,上記損害賠償請求権と契約①に基づく売買代金債権との相殺を主張することができます。
3 両者の関係(補足)
答案に書く必要はあまりないと思いますが,前記1の代金減額請求権は一部解除の性質を有すると解されており,契約の解除によって損害賠償請求権の行使は妨げられないものの,本問で代金減額請求権と損害賠償請求権は実質的な目的を同じにする権利です。
そのため,Bは,いずれも請求することができるわけではなく,一方を行使すれば他方は行使することができないと考えることもできます。
いずれにしても,代金減額請求権の方が要件及び効果の点でBに有利だと思われますので,Bは代金減額請求権を行使する方が良いと思われます。
第2 設問2(配点25)
1 小問⑴
小問⑴は,「【事実】12の下線部㋐のBの発言は,正当であると認められるか。a部分及びc部分のそれぞれにつき,検討しなさい。」というものです。そこで,Bの主張の法的な根拠を明らかにし,法律要件を充足するかを検討する必要があります。
⑴ Bの主張の根拠(210条,211条,213条)
Bは,甲土地がいわゆる袋地であることから,丙土地について囲繞地通行権を有すると主張することが考えられます。
⑵ 囲繞地通行権の内容
囲繞地通行権の「通行の場所及び方法」については,「通行権を有する者のために必要であり,かつ,他の土地のために損害が最も少ないもの」(211条1項)とされ,さらに,分筆によって袋地が生じた場合については,「他の分割者の所有地のみを通行することができる」(213条)とされています。
したがって,Bの囲繞地通行権は,これらの要件を満たす範囲でのみ認められることになります(どのような範囲で囲繞地通行権が認められるかを具体的に確定し,それにc部分及びa部分が含まれるかを検討した方が書く量が少なくできると思います。)。
⑶ c部分について
甲土地と丙土地がかつて一筆の土地であり,分筆の結果,甲土地が袋地になったことから,Bの囲繞地通行権は,丙土地についてのみ認められます(213条)。
次に,(詳細については最判18年3月16日民集60巻3号735頁がありますが,配点割合や小問⑵で必要な検討内容からすると,端的に理由をつけて結論を指摘すれば足りると思います。)高度に自動車が普及した今日においては,自動車の使用は日常生活に必須であるうえ,自宅以外に自動車を駐車するとなれば負担も大きくなります。それゆえ,自宅の土地に至るために自動車での通行(幅3メートル程度)は「必要」といえます。また,土地の端を通行することが他の土地のために「損害が最も少ない」といえます。
したがって,Bは,囲繞地通行権に基づき,c部分を通行することができます(結論はどちらでも良いと思う。)。
⑷ a部分について
次に,Bは,自宅のある甲土地に行くために丙土地を徒歩で通行する「必要」があり,土地の端を通行することが他の土地のために「損害が最も少ない」といえます。したがって,Bは,囲繞地通行権に基づき,a部分を通行することができます。
⑸ したがって,下線部㋐のBの発言は,正当であると認められます。
2 小問⑵
小問⑵は,「【事実】12の下線部㋑及び㋒につき,B及びDが地役権設定契約の性質をどう捉え,それを踏まえて契約②の債権債務関係をどのように分析し,また,解除の制度趣旨についてどのような理解を基礎としているのかをそれぞれ発言者ごとに明らかにした上で,Dが契約②を解除することができるかを検討しなさい。」という問題です。
問題文が指示する検討事項の多さからして,小問⑵が設問2のメインであると思われます。
ただ,設問2で配点が25ですので,あまり書きすぎてはいけません。僕の予想としては,小問⑴が5点~10点,小問⑵が15点~20点だと思います。各自が設問2に割ける答案の分量から,書くべき事項は漏らさずも,書く分量をセーブしないといけません。
小問⑵の問題文を分析すると,
・ B及びDが地役権設定契約の性質をどう捉え,それを踏まえて契約②の債権債務関係をどのように分析しているのか
・ 解除の制度趣旨についてどのような理解を基礎としているのか
・ Dが契約②を解除することができるか(←これが最終的に答えるべき事項)
という点を採点者にわかりやすいように解答する必要があります。これに従わない解答は印象が悪くなります。以下これらに従って検討してみます。なお,ここでは,B及びDという人物ごとに書くのが良いと思います。
⑴ Bの主張
Bは,「地役権設定契約によって設定者が債務を負うことはなく,Dは契約②によって債務を負っていない」と主張しています。
そのため,Bは,
【地役権設定契約の性質】
地役権設定契約は,設定者は債務を負わず,地役権者がその土地(承役地)について地役権を有し,有償契約である場合には地代の支払債務を負う契約であるなど。
【解除の制度趣旨】
契約の解除は,契約の拘束から当事者を開放するためのものであるなど。
と分析・理解し,本件では,地役権設定契約によってDが債務を負担しない以上,契約②がDを法的に拘束するものとはいえず,解除の制度趣旨は妥当しないから,Dは契約②を解除することができない,などと主張していると考えることができます。
⑵ Dの主張
これに対し,Dは,「㋒契約②によってDが債務を負っていなかったとしても,Dは契約②を解除することができるはずであるし,また,そもそも地役権設定契約によって設定者は債務を負い,したがって,契約②によってDも債務を負っていた」と主張しています。
そのため,Dは,
【地役権設定契約の性質】
地役権設定契約は,設定者が地役権者に対し,承役地を用益させる債務を負わせ,有償契約である場合には,地役権者がこれに対する対価として地代の支払債務を負う契約であるなど
【解除の制度趣旨】
契約の解除は,契約の拘束から当事者を開放するのみならず,当事者が契約当時に予定していた契約の目的が達成できなくなった場合に,それに対する法的拘束を消滅させるものである
と分析・理解し,本件では,Dは契約②によって債務を負う,仮にこれを負っていないとしても,契約②はBにc部分を用益させる代わりに地代を得ることを目的とした契約であり(ここまでは言えないかも…),Bが地代を支払わない以上,契約の目的を達成することができなくなっており,したがって,Dは契約②を解除することができる,などと主張していると考えることができます。
⑶ 解除の成否(自己の見解)
(小問⑵は,上記のように,B及びDの「主張」と自己の見解というような解答を指定しているわけではありませんので,このような解答は必須ではありませんが,分析結果をわかりやすく提示する1つの方法として,このような記載をしています。)
280条本文は,地役権設定契約によって設定者が債務を負うことを明記してはいないが,地役権が設定契約によって生じる用益物権であることからすると,設定者が地役権者の地役権の行使を妨げる行為をすることは許されず,設定者は,少なくとも地役権者に地役権を行使させる義務を負うと解され,設定契約がなければこのような義務が生じない以上,この義務は設定契約に基づく債権的義務であると解することができます。
契約の解除は,契約の目的が達成できなくなった場合に,その法的拘束から当事者を開放することを主な趣旨とするものであると解されるところ,Dは,上記のように契約②によって債務を負うから,その拘束からDを開放するという契約の解除の制度趣旨は妥当します。
本件で,Bは,地代の支払いという「債務を履行しない」といえ,Dは,令和6年3月1日,Bに対し,地代の支払いを「催告」し,同月8日が経過しています。地代という金銭債務の支払いを怠ったことにつき,「債権者」であるD「の責めに帰すべき事由」はなく,地代の支払いのためには1週間が「相当な期間」(541条本文)であるというべきであるところ,Dの同月1日付けの意思表示は,停止期限付き解除の意思表示(540条1項)であるといえるから,同月8日の経過によって解除の効果が生じます。
したがって,Dは,契約②を解除することができると考えられます。
第3 設問3(配点35)
設問3は,「契約③に基づくBのGに対する所有権移転登記手続請求は認められるか。FがEの配偶者であることを踏まえて,検討しなさい。」という問題です。
設問に請求の根拠が明示されているので,Eの死亡による法律関係の変動を含めて,法律要件を丁寧に検討する必要があります。契約③の当事者を正確に分析し,契約③に基づいて,Bが契約③の当事者ではないGに対し,移転登記手続を請求することができるかを検討します。
1 契約③の効力(効果帰属)について
⑴ 契約③は,BとFの間で締結された丁土地の売買契約(代金2000万円)であり,Fは,Eの代理人としてこれを締結していますが,「FはEに対して丁土地の売却のことを知らせておらず,丁土地に関してEからFに代理権が授与されたことはなく」,Eの財産の管理について「Eから依頼があったわけではない」とされていることから,Fに丁土地に関する任意代理権はありません。
そこで,設問に示唆されているとおり,「FがEの配偶者であることを踏まえて」,丁土地の売買が761条に基づく代理権の範囲内の行為といえるか,仮に同条に基づく代理権の範囲内といえないとしても,Bがその範囲内である信じるについて正当な理由があるといえるかを検討することになります。
⑵ 761条の適用の検討
ア 直接の適用
761条は,夫婦が日常生活を共同して営むことに鑑み,「日常の家事」について,夫婦相互に代理権を与える趣旨と解されます。ここで,「日常の家事」といえるかどうかは,夫婦の職業,社会的地位,資産,収入などを考慮し,取引の内容と相関的に決定される解されます。
本件で,FらがEの医療費に充てるために丁土地の売却を検討していることから,EF夫婦にとって丁土地は重要な財産であると考えられます。また,EFが共同生活に必要な費用を不動産取引によって得ていたなどの事情はなく,丁土地はEが相続によって取得した土地であるにもかかわらず,誰も利用していなかったことからすれば,EF夫婦が丁土地を共同生活のために必要な費用を調達するために活用しようとしていたとも考えられません。
そうすると,丁土地の売買代金額が2000万円と高額に設定されていることも考慮すれば,丁土地の売買がEF夫婦の「日常の家事」に含まれるとはいえないと考えられます。
イ 110条の趣旨の類推適用
761条は,前記のとおり,夫婦に「日常の家事」に関して相互に代理権を与える規定であると解されるから,取引の安全を保護するため,相手方が夫婦の日常の家事に含まれると信じたことにつき正当な理由がある場合には,110条の趣旨を類推適用し,本人への効果帰属を認めるべきであると解されます。
本件で,Bは,契約③に際し,Eが入院加療中であることを認識したうえで,代理人とされたFからEの実印が押印された委任状及びBの印鑑登録証明書を提示されています。
しかしながら,FがEの配偶者であり,Eが入院加療中で自宅にいないとすれば,Eに無断でFがEの実印を使用して委任状を作成することは比較的容易であり,また,夫婦であれば互いの印鑑登録証明書を取得することができることから,Bは不動産取引の専門ではないとはいえ,代金2000万円という高額な取引を行うに際しては,その過程で1度は本人に意思を確認することが必要であったといえます。しかるに,Bは,夫が入院加療中であるから妻が取引をするのは通常のことと考え,それ以上にEに確認するなどの措置は採っていません。
そうすると,Bには契約③がEF夫婦の「日常の家事」に属すると信じたとしても,それについて過失があり,「正当な理由」があるとはいえないというべきです。
ウ したがって,契約③の効果は本人であるEには帰属せず,Eが契約③について知らずに死亡していることから,同人の追認もありません。それゆえ,契約③はEに効果帰属しません(113条1項)。
⑵ Gによる追認拒絶の可否
ア Eの死亡により,Eの債権債務は「配偶者」(890条)であるFが相続しますが,Fは相続放棄(915条1項)をしていることから,初めから相続人とならなかったものとみなされ(939条),Eには子がなく,Eの親族はFとGのみであったことから,889条2項により,「姉」であるGが相続人となります(Gは,Fの相続放棄の後,E名義の預金口座を解約して全額の払戻しを受けて,Eの医療費を弁済していることから,単純承認をしたものとみなされます(921条1号本文)。)。
イ 無権代理行為の追認権も被相続人の「権利」(896条本文)として相続の対象となりますが,無権代理行為をした相続人が追認権の行使を拒絶することは信義則に反するものとして許されないと解されるところ,無権代理人に準じる立場にあった相続人についても,同様に,追認権の行使を拒絶することは信義則に反して許されないと解するべきです。
本件で,Gは,無権代理人そのものではないものの,Fによる無権代理が行われるに際して,相談を受けたのみならず,売却に賛成し,もし売却するならGの事業の資金のために売却金の一部を使わせてほしいとFに申し入れ,無権代理行為を後押ししたといえます。さらに,Gは,契約③の締結の場にはFの求めに応じて同席し,その際,契約③に反対するような行動はなく,むしろ,Eの親族が契約③を了解していることの裏付けとなっており,Fが受け取った代金の一部である400万円のうち,200万円を事業の資金とするために受領して,経済的な利益を享受しています。このように,契約③に際し,Gは,終始,契約③に賛成し,これを後押しする者として行動しているうえ,契約③による経済的利益も享受しているのであるから,Gは形式的にも実質的にも無権代理人に準じる立場にあったというべきです。
それゆえ,Gは,契約③の無権代理行為の追認権の行使を拒絶することができず,結果として契約③の効果を免れることができないというべきです。
ウ したがって,契約③に基づくBのGに対する所有権移転登記手続請求は認められると考えられます。
第4 感想など
改正直後であったこともあってか,設問に検討すべき事項について指定がされているか,その示唆があり,問題文を丁寧に読めば検討すべき事項が何であるかは正確に把握することができたと思われます。
他方で,検討すべき事項が多く,その論理的関係に注意しながらメリハリをつけて論じることが求められるように思います。
個人的にポイント思われる点を指摘するとすれば,設問1は,乙建物が契約①に適合していないことその他の法律要件を,これに該当する事実を端的に示してあてはめること(ほとんどの問題がそうではありますが…。),設問2は,Bの主張の根拠を適切に把握したうえで,その要件に端的にあてはめること(小問⑴),B及びDの主張の根拠等を正確に分析したうえで,その対立点をわかりやすく示すこと(小問⑵),設問3は,請求の根拠と登場人物の法的地位を丁寧に分析したうえで,特に,Gによる追認拒絶が信義則に反することを基礎づける具体的事実を広く丁寧に指摘すること,ではないでしょうか。
例年と変わらず,法的な分析も重要ですが,そのうえで具体的な事実が持つ法的な意味を丁寧に説明することが重要であるように思います。
つまるところ,民法が改正されようが,試験が8月になろうが,求められている能力に全く変化はないということだと思います。