選ばれた人たち4

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鏡のメンバー
さやかが交流会に現れなくなったのは、ある水曜日の夜からだった。

最初は体調かもしれないと思った。翌週も来なかった。

静香はチャットでメッセージを送った。

「最近見かけないけど、大丈夫ですか」。


返信が来たのは三日後だった。

「心配してくれてありがとうございます。

実は少し前に碧さんの個別セッションを受けて、その後から眠れなくて、会社も休んでしまって。

静香さんがセッションを受けたって話してくれてたから、私も申し込んでみたんです。

碧さんのことは好きだし、責めているわけじゃないけど……しばらく休みます」

静香は画面を閉じた。

しばらく動けなかった。



翌日、もう一度そのメッセージを読んだ。

静香さんがセッションを受けたって話してくれてたから。

自分がさやかに話した記憶はある。

あのセッションが良かった、碧さんはちゃんと聞いてくれる、と言った。

勧めたつもりはなかった。

ただ話しただけだった。


でもさやかには、それが十分だった。

静香はサロンのチャット履歴を遡った。

さやかとのやり取りが並んでいた。

碧の言葉の引用、問い、相槌。

スクロールするほどに、さやかがいつも同じ形で問いを立てていたことに気づいた。

「碧さんがこう言っていたから、こうすれば変われますか」

「セッションを受けたら、何か変わりましたか」

変えてもらえる、という前提が、いつもそこにあった。

静香はそれに気づいていたか。

気づいていたかもしれない、でも何も言わなかった。

それどころか、頼られていると感じて、温かい気持ちになっていた。

さやかが頼ってくれることが、素直に嬉しかった。

もっと聞いて欲しかった、頼ってくれることに価値を感じていたのかもしれない。

その考えが浮かんで、静香はまた画面を閉じた。



責めているわけじゃないけど、という一文を、静香は何度も読んだ。

さやかは碧を責めていない、と書いている。

でもその言葉は、助けてくれないという気持ちを押し込めているように見えた。

それはかつての自分に似ていた。

松田に怒ったとき、「松田には分からない」と言いながら、本当は何かを押し込めていた。



静香は碧にメッセージを送った。

さやかのことを簡単に説明して、「私が何か言ってしまったのかもしれません。

碧さんは何か感じていましたか」と書いた。

送ってから、自分が何を求めているのか分からなかった。

謝罪してほしい?違う気がする。

それとも、あなたのせいではないと許されたいのか。

答えを求めているのはわかった。


返信が来たのは翌日だった。

「それは、静香さんにとってどういう意味がありますか。」

それだけだった。

静香はその言葉を何度も読んだ。

碧は逃げているのか。

それとも本当のことを言っているのか。

答えは私の中にあるのか——それも碧さんの言葉なのか、私から出てきたのかわからない。

ふと、33,333円のことが頭をよぎった。

あの金額は、何への対価だったのか。

使命に向かうための投資、と思っていた。

でも今、その言葉が少し遠かった。

ただ答えを聞きたくて払っただけではなかったか。

両方かもしれない、と思った。碧の言葉はたぶん正しいのだろう。

でも静香が感じていることは、静香のものだ。

問いを問いで返すのは、答えは私しか出せないということなのか。

誠実でない気もする、考えれば考えるほど、嫌なものが出てくる気がした。



その夜、静香は松田とのことを思い出した。

構造だけ見て判断するな、と怒った。

エビデンスで人の気持ちは測れない、とも言った。

でも静香は、ずっとジャッジしていた。

松田のことを「分からない人」と決めつけていた。

さやかのことを「まだそこまで来ていない」と思っていた。

新しいメンバーの疑問を「成長途中だから」と流していた。

全部受け入れる風で、何も受け入れていなかった。

松田が静香のこと、碧のことをジャッジしていると怒った。

でも静香がしていたことも、同じだったのかもしれない。



いや、もっと巧妙だったかもしれない。

松田は少なくとも、素直に考えていたことを言っていたと感じる。

私は素直に受け取ってはいなかった。

静香は、優しい顔をしながら、人を格付けしていた。

そんなことを考え始めると、胸が重くなった。

そんな思考を止めたい、そう願った。



さやかへの返信を何度か書いては消した。

「大変でしたね」は違う。

「碧さんのせいじゃないと思います」も違う。

「私も話してしまってごめんなさい」も、何かがずれている。

結局、こう書いた。

「ゆっくり休んでください。また話せる時に」

送ってから、これでよかったのか分からなかった。

でも他に言える言葉が、今の静香にはなかった。

返信は来なかったが、しばらくして通知は来た。

さやかがサロンを退会しました、と。

静香は画面を見た。それから、そっと置いた。

「ため息が出ちゃう」

実際は出ていないが、静香はそう呟いた。
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