人生二周目を、本気で生きる|第9回「あなたの経験の価値は、自分では見えにくい」

人生二周目を、本気で生きる|第9回「あなたの経験の価値は、自分では見えにくい」

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コラム
50代後半から、これからの働き方について考え始めた方と話していると、

よくこんな言葉を耳にします。

「自分には、特別な強みなんてありません」

「人に教えられるようなこともないですし……」

「普通に会社員をやってきただけですから」

「自分の経験が、誰かの役に立つとは思えません」

そんな言葉を聞くたびに、私は少しもったいないな、と思います。

その方に価値がないのではありません。

ただ、自分では、その価値が見えにくくなっている。

私は、そういうことがとても多いと思っています。



長く仕事をしてきた人ほど、

自分がやってきたことを「当たり前」だと思っています。

毎日、普通に続けてきたこと。

頼まれれば、当たり前のように対応してきたこと。

後輩や部下に、何気なく伝えてきたこと。

お客様や取引先との間で、自然と気を配ってきたこと。

問題が起きれば、なんとか収めてきたこと。

本人からすれば、

「仕事だから、やってきただけ」

なのかもしれません。

でも、別の人から見れば、それは決して当たり前ではありません。

たとえば、

トラブルが起きても、慌てず状況を整理できる。

若い人の話を頭ごなしに否定せず、まず聞くことができる。

長年の経験から、

「これは早めに手を打った方がいい」

と感じ取ることができる。

人間関係がこじれそうな時に、

それぞれの立場や感情を考えながら間に入ることができる。

こうした力は、本人にはとても見えにくいものです。

なぜなら、

もう自然にできるようになっているからです。



人は、自分が長い時間をかけて身につけたものほど、

「そんなの誰でもできる」

と思ってしまうことがあります。

「たまたま経験しただけです」

「大したことじゃありません」

「もっとすごい人はいくらでもいます」

そう言いたくなる気持ちも分かります。

でも、その「当たり前」ができるようになるまでに、

どれだけの時間がかかったでしょう。

どれだけ迷ったでしょう。

どれだけ失敗したでしょう。

どれだけ人に頭を下げ、悔しい思いをし、考え直してきたでしょう。

そうした積み重ねの先に、今の判断があります。

人との接し方があります。

そして、今のあなたにしか話せない言葉があります。



私は、経験の価値というものは、

派手な実績や肩書きだけにあるのではないと思っています。

もちろん、

「部長だった」

「役員を経験した」

「専門分野で長く仕事をしてきた」

そうした経歴にも価値はあります。

でも、人生後半の働き方を考える時に、

本当に見てみたいのは、その肩書きの奥にあるものです。

悩みながらも続けてきたこと。

失敗しても、その都度立て直してきたこと。

人との関係を大切にしてきたこと。

現場で何度も考え、判断してきたこと。

誰かから頼られた時、逃げずに向き合ってきたこと。

そんな地道な積み重ねの中に、その人ならではの価値が隠れています。



私自身も、自分の経験にどんな価値があるのか、

最初から分かっていたわけではありません。

会社員として働き、経営に携わり、起業も経験しました。

うまくいったこともあります。

反対に、うまくいかなかったこともたくさんあります。

人との関係で悩んだこともあります。

自分の判断の甘さを痛感したこともあります。

できることなら、思い出したくないようなことだってあります。

その渦中にいる時は、それが将来何かの役に立つなどとは考えられません。

ただ、苦しい。

ただ、なんとか乗り越えたい。

そんな時間だったと思います。

でも、時間が経ってから振り返ると、見え方が変わることがあります。

失敗したからこそ、失敗しそうな人の気持ちが少し分かる。

起業で遠回りをしたからこそ、勢いだけで独立を勧めようとは思わない。

思うようにいかなかった経験があるからこそ、

「まず小さく始めてみてもいいのでは」

と言える。

一人で抱え込んだ経験があるからこそ、

一人で考え続ける苦しさも分かる。

かつては「失敗」としか見えなかった出来事が、

時間を経ると、

誰かを理解するための経験に変わることがあります。

私は、それも人生の面白さなのだと思っています。



経験は、その瞬間には「苦労」や「失敗」にしか見えないことがあります。

でも、後から丁寧に振り返ってみると、

「あの時の経験が、今の自分をつくっているんだな」

と思えることがあります。

そして、その経験が、誰かにとってのヒントになることもあります。

50代、60代になると、誰にでもかなりの経験が蓄積されています。

ところが、それが自分の中できれいに整理されている人は、

それほど多くありません。

どんな仕事をしてきたのか。

どんな役割を任されてきたのか。

どんな時に人から頼られたのか。

どんな問題を乗り越えてきたのか。

どんなことなら、あまり無理をしなくても自然にできたのか。

こうしたことを一つひとつ振り返っていくと、

これからの働き方を考える時のヒントが見えてきます。



たとえば、長年、職場で「調整役」をしてきた人がいたとします。

本人は、

「特別な専門性はありません」

と言うかもしれません。

でも話を聞いてみると、

部署と部署の間に入り、

お客様と社内の間に入り、

上司と部下の間に入り、

何度も難しい場面を収めてきた。

それは単に「間に入っていただけ」ではありません。

相手の話を聞く力。

状況を整理する力。

違う立場の人の考えを理解する力。

落としどころを考える力。

そして、信頼関係を壊さずに前へ進める力。

長い仕事人生の中で培われた立派な力です。



また、

「部下や後輩から相談されることが多かった」

という人もいます。

本人は、

「ただ話を聞いていただけですよ」

と言われるかもしれません。

でも、「ただ話を聞く」というのは、簡単なようで難しいことです。

相手が安心して話せる。

途中で否定しない。

すぐに自分の答えを押しつけない。

必要な時だけ、少し違う見方を伝える。

こうしたことが自然にできる人は、実はそう多くありません。

自分では何でもないと思っていたことが、

誰かにとっては、とてもありがたい力だったりするのです。



だから、これからの働き方を考える時、

職歴や肩書きだけを見るのではなく、

もう少し奥まで振り返ってみてほしいと思います。

どんな時に、自分は力を発揮してきたのか。

どんな人から頼られることが多かったのか。

どんな問題を見ると、放っておけなかったのか。

仕事をするうえで、何を大切にしてきたのか。

逆に、

「これだけはやりたくない」

「これは自分には合わない」

と感じてきたことは何だったのか。

そうした一つひとつが、

これからの自分を考える材料になります。



そして、ここが大事なのですが、

自分の経験の価値は、自分一人ではなかなか見つけられません。

自分にとって当たり前すぎるからです。

誰かと話している時、

「それって、すごい経験ですね」

と言われて初めて、

「えっ、そうなの?」

と気づくことがあります。

誰かに問いかけられ、

昔の出来事を思い出し、

言葉にしていくうちに、

「ああ、自分はこういうことを大切にして働いてきたんだな」

と初めて腑に落ちることもあります。

答えを急いで出す必要はありません。

転職なのか。

再就職なのか。

独立なのか。

今の仕事を続けながら、別の可能性を探すのか。

最初から一つに決めなくてもいいと思います。

その前に、

自分はこれまで何を積み重ねてきた人なのか。

そこを一度、丁寧に見直してみる。

人生後半の働き方を考えるなら、そこから始めても遅くありません。



あなたが「普通にやってきた」と思っていることの中に、

これからの働き方の種があるかもしれません。

苦労して乗り越えてきたことの中に、

誰かの役に立つ経験があるかもしれません。

長い間、当たり前だと思って続けてきたことの中に、

あなた自身がまだ気づいていない強みがあるかもしれません。

だから、

「自分には何もない」

と、あまり早く決めなくてもいいのです。

これまでの人生を、少しゆっくり振り返ってみる。

そして、

「自分は何をしてきたのだろう」

ではなく、

「その経験を通して、自分は何を身につけてきたのだろう」

と問い直してみる。

そこから、人生二周目の景色が少しずつ変わっていくのかもしれません。

今日も明るく元気よく。



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