【作品サンプル】短編小説『ハンバーグとグラタンのワルツ』

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 彼女の好きなおかずはハンバーグ。ソースのアレンジが上手くて、僕は別にハンバーグ好きではなかったけれど、彼女の作ったハンバーグなら毎日でも飽きないのではないかと思った。
 僕の好きなおかずはグラタン。グラタンなら毎日でも飽きないと言ったら、本当に一週間毎晩グラタンが出て来て、ごめんなさいと言う事になった。
 初めての結婚記念日にグラタンが出て来たので喜んで食べていたら、中からハンバーグが顔を出して驚いた。
 驚きと、美味しさと、嬉しさと、いろんな感情がごちゃまぜになった僕の顔が可愛かったと言って、それ以来記念日にはハンバーググラタンが出てくる。
 記念日ごとに同じメニューでも、やっぱり彼女がボクを飽きさせることはない。ハンバーグの中にはいつもソースが隠れていた。特にチーズソースが好きだったけれど、カロリーの鬼だ。1カロリーは1美味しいなのでその分運動するしかないかなと、笑って食べた。
 目の前にあるコンビニのハンバーグとグラタンを見つめながら、彼女の事ばかり思い出している。10回目の結婚記念日を迎える前に、彼女は逝ってしまった。
 今日は12回目の結婚記念日。この日だけは、娘を両親に預けて彼女とふたりきりで過ごさせてもらう。
「乾杯」
 一緒に飲もうねと言って買ったワインは、まだあと数本残っている。今年もそのうちの一本を開けた。
「記念日だからね」
 ハンバーグとグラタン。ボクはハンバーググラタンを作れない。
 遠距離恋愛は向いていないなと思いながら、今年もふたりきりの結婚記念日に浸る。
 今夜だけ。今夜だけだから。明日からはまた日常に戻るから。キミの居ない日常に。
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