ココナラで、ADHDの傾向がある人の相談に乗っている。話を聞いていると、「集中できない」という悩みには大きく2つの形があると感じる。ひとつのことにのめり込みすぎる過集中タイプと、注意があちこちに散りやすいタイプだ。私自身は後者なので、相談者の話を聞きながら、自分に当てはまると思うことも多い。
今回は、注意が散りやすいタイプの人に試してもらいたい方法を紹介したい。YouTubeで見かけたもので、「壁の一点を見る」というシンプルなトレーニングだ。
【脳を集中モードに切り替える「壁を見る方法」】
考案したのは、ハーバード大学とイェール大学医学部を卒業し、YouTuberとしても活動するジョージ・グオ氏。10年かけてたどり着いたという、脳のモードを強制的に切り替えるトレーニングだ。
グオ氏によると、人間の脳には2つの状態がある。目の前のタスクに向かう「タスク・ポジティブ・ネットワーク(TPN)」と、考えがあちこちにさまよう「デフォルト・モード・ネットワーク(DMN)」だ。ここではそれぞれ、集中モードと散漫モードと呼ぶことにする。
集中モードは、懐中電灯の光をレーザーのように一点に絞った状態。散漫モードは、同じ光が広い範囲にぼんやり広がった状態だ。2つはシーソーのような関係で、片方が強く働くと、もう片方は弱まる。
ADHDの研究でも、この散漫モードは注目されている。ADHDの脳では作業中でも散漫モードがうまく静まらず、集中を邪魔しているのではないか、という説があるのだ。相談の場でよく聞く「気づいたら別のことを考えていた」という状態は、散漫モードが顔を出した瞬間なのかもしれない。
【気が散っているとき、頭の中の主語は「私」】
たとえば緊張で頭がいっぱいのとき、脳は散漫モードに乗っ取られていて、「失敗したらどうしよう」という感情が渦巻いている。
グオ氏によれば、気が散っているとき、頭の中の主語はほぼ100%「私」になっているという。
「失敗したらどう思われるだろう?」
「自分の説明、下手じゃないか?」
意識がすべて自分に向いてしまっているのだ。
グオ氏は、不安や完璧主義、失敗への恐れの根っこには、自分について考えすぎる「自意識過剰」があると言う。
これは、ADHDの人の相談を受けていても思い当たる話だ。忘れ物やうっかりミスを重ねてきた人ほど、「またやらかすんじゃないか」という自己嫌悪と不安にとりつかれやすい。そしてその意識そのものが、さらに集中を奪っていく。悪循環になっているケースは少なくない。
この自意識の呪縛から離れ、脳を集中モードに切り替えるためのトレーニング。それが「静かな場所で椅子に座り、壁のどこか一点をじっと見続ける」ことだ。
【壁を見る方法のやり方】
*1. 姿勢と環境*
静かな場所で椅子に座る。
*2. 一点を見つめる*
壁のどこか一点をじっと見続ける。
*3. 集中度を問いかける*
「今、この点に何%集中できているか?」と自分に問いかける。
*4. 雑念に気づいて戻す*
途中で雑念が入り、集中度が4〜5割に下がっても問題ない。最初からやり直す必要もない。大事なのは「意識が逸れている」と自分で気づき、観察できるようになることだ。
*5. 実践時間*
いきなり10分やる必要はない。1分や3分の短い時間から始めて、習慣にしていく。
【ADHDの人に勧めるなら】
注意が散りやすい人にこの方法を勧めるとしたら、次の点を添えておきたい。
*数字にこだわりすぎない*
ADHDの脳は逸れるのが普通なので、「何%集中できたか」にこだわると、低い数字が続いたときに「やっぱりダメだ」と自分を責める材料になってしまう。それよりも、逸れたことに気づいて戻れた回数を数えるほうがいい。10回逸れて10回戻れたら、10回分の筋トレをしたと考える。
*時間はとにかく短く*
1分がしんどければ30秒でもいい。スマホのタイマーをセットして、鳴ったら終わり。「いつ終わるんだろう」と考えなくて済むだけで、ずいぶん楽になる。
*逸れるのは失敗ではなく前提*
この方法の本質は、ずっと集中し続けることではない。逸れた自分に気づいて、戻ってくることにある。
相談では「続けられなかった」と落ち込む人も多い。だからこそ、最初から「できなくて当たり前」という前提で始めることを勧めたい。
【応用:日常の動作と、人との会話へ】
このトレーニングには応用段階もある。
ひとつは、ふだん無意識にこなしている動作に注意を向けること。水を飲むときのグラスの手触りや水の温度、歯磨き、歩くときの足裏の感覚。そういう「今この瞬間」の感覚に100%向き合えているかをチェックする。壁の前に座らなくても、日常のあちこちで練習できるのがいい。
もうひとつは、対人関係への応用だ。会話中に相手の顔の一点、たとえば目の色やホクロに意識を集中させる。グオ氏によれば、そうすることで「自分がどう思われているか」という自意識が消え、コミュニケーションの質がぐっと上がるという。
ただ、相手の顔の一点を見つめるのが落ち着かない人もいると思う。そんなときは、顔ではなく相手の話の中身に意識を向けるだけでも、同じように「私」から離れられるはずだ。
【散らないことより、戻れること】
注意が散りやすい人にとって大事なのは、散らないことではなく、散ったときに戻れる場所を持っておくことだと思う。壁の一点は、そのための手がかりのひとつだ。
まずは1分、試してみてほしい。うまくいかなくても、それは失敗ではない。気づいて戻る練習を、1回分したということだ。
※この記事は個人の経験と考えをまとめたもので、医学的な治療法を紹介するものではありません。症状が生活に大きく影響している場合は、医療機関への相談をおすすめします。