精神疾患の病歴は、転職で隠すべきか|診断を「お得情報」として使う前に

精神疾患の病歴は、転職で隠すべきか|診断を「お得情報」として使う前に

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IT・テクノロジー
現役エンジニア × 国家資格キャリアコンサルタントの yoshi_career です。日系企業から外資系IT企業に移り、いまも現場でエンジニアとして働いています。福岡在住です。
先日、Xで「精神科で診断書をもらえば、手当をもらいながら休める」という内容を、お得情報のように紹介している投稿を見かけました。
この件について、先に書いておきたいことがあります。
心や体に不安があるなら、病院に行ってください。 これは遠慮することではありません。
ただ、本当は必要ないのに、制度で得をするための手段として診断を取りにいくのは、まったく別の話です。短期的には得に見えても、中長期のキャリアで見ると、かなり高くつくことがあります。
あわせて、ご相談でよく受ける「病歴は隠したほうがいいですか」という質問にも、事実に沿ってお答えします。
※私は医師でも弁護士でもありません。キャリア支援の立場から書いています。個別の判断は、主治医や社会保険労務士・弁護士などの専門家にご相談ください。

「お得情報」として出回っている話


紹介されていたのは、おおむね次のような制度です。
・休職中に健康保険から支給される傷病手当金・退職の事情によって、雇用保険の失業給付の条件が変わる仕組み
どちらも、本当に働けない状態の人を支えるための制度です。必要な人が使うことには、何の問題もありません。
問題は、症状を実際より重く伝えて受給するような使い方です。これは不正受給にあたる可能性があります。雇用保険の場合、不正受給と判断されると、受け取った額の返還に加えて、その2倍以下の額の納付を命じられることがあります。
ただ、この記事で本当に伝えたいのは、罰則の話ではありません。罰則に触れなかったとしても、キャリアのほうで損をするという話です。

制度を「ハック」すると、何が残るのか


① 休職・離職の経緯を、説明し続けることになる
休職や離職の期間については、次の転職でたいてい理由を聞かれます。そのとき、実態と合わない説明は長く続きません。面接で深掘りされると、話が噛み合わなくなるからです。
② 受診と投薬の記録は残る
通院すれば、医療機関に記録が残ります。これが転職先に伝わるわけではありませんが、たとえば生命保険や、住宅ローンの団体信用生命保険に加入するときに影響することがあります。多くの保険では、過去数年以内の通院や投薬の有無を告知するよう求められるためです。
そのときは得に見えたことが、数年後に住宅を買う場面で響いてくる。こうした話は、実際に聞くことがあります。
③ 本当に必要になったとき、判断が遅れやすくなる
見落とされがちですが、大事な点だと思っています。制度を「うまく使った」経験があると、本当に不調になったときに「今回も大したことはないかもしれない」と考えてしまい、受診や休養が遅れることがあります。
心の不調は、早めに対処したほうが回復しやすいと言われています。そこで判断を誤るのが、いちばん大きな損失だと思います。

「病歴は隠したほうがいいですか」


ここからは、実際に不調を経験された方からのご相談についてです。まず、前提となる事実を整理します。

病歴の開示は、法的にどう位置づけられているか


応募の段階で、病歴を自分から伝える義務は、一般的にはありません。
病歴は、個人情報保護法で「要配慮個人情報」に分類されています。不当な差別や偏見につながりやすい情報として特に慎重な扱いが求められ、事業者が取得するには、原則として本人の同意が必要です。
また厚生労働省は、採用選考は応募者の適性と能力にもとづいて行うべきだとしています。業務と関係のない事情で判断することは、公正な採用選考の考え方に反します。
つまり病歴は、「隠すもの」というより「伝えるかどうかを本人が選べる情報」と考えたほうが実態に近いです。
ただし、注意点が2つあります。
・聞かれて、事実と違うことを答えるのは別の話です業務に必要な範囲で、健康状態を確認されることはあります。そこで事実と異なる回答をすると、後になって問題になる可能性があります。「言わなかった」ことと「偽った」ことは、扱いが違います。
・入社後は、会社にも健康を守る義務があります会社には、従業員の安全と健康に配慮する義務があります(労働契約法の安全配慮義務)。そのため入社後は、健康状態の把握に一定の協力を求められることがあります。

伝えずに入社した場合に、起きやすいこと


伝えないという選択も、本人が選べることです。ただ、ご相談を受けていると、思わぬところから伝わってしまうケースがあります。
① 雇い入れ時の健康診断会社は、従業員を雇い入れる際に健康診断を行うことが法律で定められています。その項目には「既往歴」の調査が含まれています。
② 通院のための時間の調整定期的に通院している場合、平日の日中に時間を取る必要があります。有給休暇や時間休の申請が続けば、理由を聞かれることもあります。
③ 服薬の影響薬の種類によっては、眠気などで業務に影響が出ることがあります。
④ 体調を崩して休職するとき休職の手続きでは、多くの場合、医師の診断書の提出を求められます。この時点で、それまでの経緯が伝わることになります。
いちばん避けたいのは、調子が悪くなったタイミングで初めて伝わることです。本人はつらい状態にあり、会社側も受け入れの準備ができていない。お互いにとって、いちばん難しい状況になってしまいます。

伝えるか、伝えないか


どちらが正解というものではありません。選択肢を整理しておきます。
伝えずに、一般の求人で働く選べる求人の幅は広いです。一方で、配慮を受けにくく、上に書いたような形で伝わるリスクがあります。
伝えたうえで、一般の求人で働く通院日の調整など、必要な配慮を相談しやすくなります。伝え方やタイミングには工夫が必要です。
障害者雇用の枠で働く精神障害者保健福祉手帳を持っている場合の選択肢です。企業には障害者を一定の割合で雇用する義務があり(民間企業は2026年7月から2.7%)、配慮を前提とした働き方を選べます。
どれを選ぶかは、症状の安定度、通院の頻度、希望する職種によって変わります。主治医とも相談しながら決めることをおすすめします。
一人で決めにくい場合は、主治医のほか、ハローワークの専門窓口や就労移行支援事業所など、公的な相談先もあります。

病歴があっても、キャリアは続けられます


最後に、いちばん伝えたいことを書きます。
精神疾患の経験があっても、医師と相談しながら治療を続け、働いてよいという判断が出れば、仕事に戻ることはできます。 実際に、復職して活躍している方はたくさんいます。
不調を経験したことで、自分に合う働き方や、無理をしすぎないための見極めが上手になった、という方も少なくありません。
大事なのは、制度で得をすることでも、病歴を無理に隠し通すことでもなく、自分の状態に正直に向き合うことだと思います。
つらいときは、まず受診してください。キャリアの話は、そのあとでいくらでもできます。

まとめ


・心身に不安があるなら、遠慮せず病院に行く・ただし、必要ないのに制度で得をするために診断を取りにいくと、中長期のキャリアで損をする・休職・離職の説明、保険や住宅ローンの告知、本当に不調になったときの判断に影響する・病歴は要配慮個人情報。応募時に自分から伝える一般的な義務はないが、聞かれて偽るのは別の話・伝えなかった場合、健康診断の既往歴の調査・通院の調整・休職時の診断書などから伝わることがある・一般枠で伝えない/伝える/障害者雇用、の選択肢があり、主治医と相談して決める・治療を続けて医師の許可が出れば、復職して活躍している人は多い


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