春の風
彼女が私の前から消えて、どれだけ経つんだろう。居なくなった最初の何年かは、確かに数えていたはずなのに、何時から止めたんだろう。
どれだけ数えたとしても、彼女はもう戻ってこない。
ある時そう気づいて止めたんだ。
高校生だった私に優しい大人は教えてくれた。
「たまに思い出してあげてね、それが弔う事になるからね」
私の人生の中で、一番人を信頼し、笑い、写真を撮ったあの時代。
クラスも、部活も、習い事も全部一緒だった。
それだから彼女は必ず私の視界に居た。
朝、何時ものように学校へ行った。只ならぬ雰囲気の担任が、途切れ途切れに彼女が亡くなった事を伝えた。驚いて泣き崩れるとか、ショックで取り乱すなんて事はしない。
だって昨日まで普通に一緒に居たから。
特別にすぐに帰宅となり、ずっと下を向いて帰った。
細かな粒が並ぶ、黒いアスファルトだけを見つめながら歩く。
寂しかった。
悲しいより寂しい。
どういう事なんだろう。
彼女がこの世に居ないと言う事がわからない。
たまに視界に入ってくる、アスファルトを踏む自分の靴をぼんやり眺める。
私に何も言わずに亡くなった。
何故?なにも話してくれなかったの?
実は私はおかしいと感じていて・・・彼女の事が気になって・・・そんなふうに書ければどんなに良いだろう。
どれほど楽だろう。
もちろん私が。
彼女の分まで生きるなんて言えない。
決して忘れないとは約束できない。
きっと私は彼女を知らなさすぎた。
何時になったら、泣きながら夜を過ごせるのか。
どれだけの夜を過ごせば、自分を責めて朝を迎えることが出来るのか。
今年も、あの日と同じ春の風が吹く。
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