今日の絵:干しモミの木
今年、ユーリのお父さんは、はじめて干しモミ市場にユーリを連れてきてくれました。だだっ広い市場にはたくさんの人がひしめいていて、大テントの骨組みからは、たくさんのモミの木が吊り下げられています。ふたりは、逆さの森の中を、縫うように歩き回りました。「いいモミってわかる?」「わかるさ」お父さんは、優しくほほえみました。そして、いくつかの干しモミを指差します。「あれはダメだ。あれも。葉が寝ているだろう。重力反転に耐えられない」「じゃあ、あっちは?」「悪くない。幹がいい色だろう。あれは多分、ちょうど7年目だ」ユーリはうなずきました。7年前、ユーリはまだ小さかったので、七年末のことも、重力反転のことも覚えていません。でも、ずっと淡い記憶の中で、いつもと逆さの室内に、大きな干しモミが鎮座しているようなそんな風景が、あるような気がします。「実際は、干しモミを選ぶのは、そう難しいことじゃない。ぴったりのものは、見たらわかる。どれがいいか、ユーリも考えてみるといい」お父さんは言いました。「じゃあ、あれ」ユーリはすぐにひとつの干しモミを指差します。「そんなに雑に選ぶものじゃない。もっと心の奥から、思うんだ」お父さんは苦笑しました。「うーん、でも、あれがいい。飾りがあるから」ユーリがそういうと、お父さんは、少し驚いたように「飾りがあるからか、そうか」と呟きました。「じゃあ、今年はあれだ」逆さの森を、二人は歩き出しました。
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