【小説】紅(くれない)に水くくる
「はぁ……やっぱり綺麗だなあ」
様々に色づくもみじと穏やかな川の流れを見て、私はため息をついた。秋の山の暖かい色は、こっちまで気分を上げさせてくれる。それは私の名前が、くれないの葉――つまり、漢字で「もみじ」と書いて「くれは」と読ませるように付けられたので、もみじそのものに親近感を得て育ったせいなのだろうか。
昔から私はもみじが好きだった。夏に育った瑞々しい青い葉が、秋になると赤やオレンジ、黄色に染まるのが不思議だった。それがやがて枝から離れて、ひらひら自然と地面に舞い降りてくることも。子どもの時は落ちてくる葉っぱを空中で捕まえるという遊びを、幼馴染とよくやっていた。
あの頃そんな風に一緒に遊び、名前に「秋」という漢字を持っている、年下の幼馴染……秋水(あきみず)という男の子は、私と違って秋に大した思い入れはないらしいのだけれど。
「ここすごいベストスポット! おじいさんに会えてラッキーだったなあ」
わたしのいる場所は地元の人だけが知る絶景の場所らしく、たまたま道で会ったおじいさんに、こっそりとここへ行く脇道を教えてもらったのだ。
「アキにも教えてあげよっと」
ここには秋水……普段はアキと呼んでいる幼馴染と一緒に来てはいたのだけれど、お互いに他の観光客と話し込んでいた結果、途中ではぐれてしまっていた。まあ、もうふたりとも子どもではないのだし、どこかできっと落ち合えるだろう。そう思って大きく構え、私は今、目の前にある、絵画のような美しい景色を楽しんでいる。
どこか近くにいるはずのアキに、川の水面に落ち葉の赤い色が反射している写真と、自分の居場所をスマートフォンで簡単に
0