さか店長です。前回は、物件台帳の月次集計を「数える関数」だけで自動化した記録を書きました。今回は、自動化するうえで先に押さえるべき前提——集計が壊れる原因は数式ではなく「入力の表記ゆれ」にあるという話を書きます。途中で出てくる失敗の場面は、現場でよくあるパターンを架空の例で再現したものです(私自身の作業で起きた出来事として書いたものではありません)。
先に断っておきます。この記事に出てくる物件名・価格・件数などの数値は、すべて架空のダミーデータです。実在の顧客や物件、勤務先の情報は一切含まれていません。
よくある失敗例:成約が「4件」のはずが「2件」と出る
まず、現場で典型的な失敗を架空の例で再現します。ある台帳でステータス別の件数を自動集計したところ、成約が2件と表示されたとします。ところが台帳を目で追うと、成約は4件ある——という食い違いです。
原因としてまず疑うべきは、台帳のステータス欄に「成約」と「成約済」が混ざっているケースです。COUNTIFは「成約」と書かれたセルだけを数えます。「成約済」は、たとえ1文字違いでも別物として扱われます。人間には同じ意味でも、関数にとっては別人です。2件分が「成約済」の表記だったために数から漏れる、というのがこの手のズレの代表的な仕組みです。
しかもこの手のズレは、気づきにくい形で現れます。エラーは出ません。数字は「それらしく」出てきます。だから会議の場で初めて「先月聞いた数字と違う」となり、集計そのものへの信頼が落ちる。怖いのは計算ミスではなく、誰も間違いに気づけないまま数字が使われることです。
表記ゆれが起きる場所はステータスだけではありません。
- 種別:「戸建」「一戸建て」「新築戸建」が混在する
- 担当者名:「佐藤」「佐藤(店長)」「さとう」が混在する
- 日付:日付型と文字列が混在し、月別集計から漏れる
複数人で台帳を触る会社ほど、入力する人の数だけ表記が増えていきます。これは誰かの不注意ではなく、ルールを決めていないこと自体が原因です。
直し方:選択肢を「業務の状態」と1対1にして、プルダウンで固定する
対策は、入力する側に制限をかけることです。具体的には、自由入力をやめてプルダウン(入力規則のリスト)で選ぶ形にします。
私がダミー台帳で使ったステータスは、次の5つに絞りました。
- 販売中
- 商談中
- 申込
- 成約
- 中止
ポイントは、選択肢を増やしすぎないこと、そして業務の状態と1対1に対応させることです。「商談中」と「交渉中」のように似た状態が2つあると、どちらを選ぶかでまたブレます。5つに絞ると、集計結果がそのまま月次会議の資料にも使える粒度になります。
種別も同じで、「新築戸建/中古戸建/土地/マンション」の4つに固定しました。担当者名は、台帳の別の場所に担当者リストを作り、そこから選ぶ形にすれば、表記の混在を防げます。
もう一つ大事なのは、例外の扱いを先に決めておくことです。「中止になったけど再販売の可能性がある物件」はどうするか。「申込が入ったがステータスは販売中のままにするか」。こうしたグレーなケースの置き場所を決めていないと、担当者ごとに判断が割れて、結局表記ゆれと同じことが起きます。私のダミー台帳では、使い方シートに「申込日が入ったらステータスは申込に変える」と明記して、判断を台帳側に寄せました。
表記ゆれには「パターン」がある
表記ゆれは、一般にだいたい決まったパターンに収まります。
- 同義語の混在:「成約」と「成約済」、「戸建」と「一戸建て」。意味は同じでも文字列が違う
- 略称と正式名の混在:「マンション」と「MS」、「土地」と「売地」
- 空白や記号の混入:「佐藤 」のように末尾にスペースが入っている、区切り文字が人によって違う
- 後から選択肢が増える:最初はなかった状態(「保留」など)が、誰かの判断でいつの間にか列に増えている
このうち最初の3つは、プルダウン化すれば新規入力では起きなくなります。4つ目は運用の問題です。選択肢を増やしたくなったら、その場で足すのではなく「集計でどう扱うか」を決めてから追加する。この一手間を守るかどうかで、数か月後の台帳の綺麗さが決まります。
すでに表記ゆれが混ざってしまった台帳を直す場合は、1件ずつ直す必要はありません。「成約済」を検索して「成約」に置換する、という一括置換で大部分はそろえられます。ただし置換の前に必ずファイルのコピーを取ること。置換は一瞬で全行に効くので、間違えたときに戻せる状態で作業するのが鉄則です。一括置換でよくある失敗が、置換の対象範囲を広げすぎて、書き換えるつもりのなかった列(担当者名など)まで置き換わってしまうことです。コピーを取っておけば、こうした場合でも置換前に戻してやり直せます。「自動化の作業ほど、戻れる状態でやる」ことが安全策になります。
数式を直す前に、入力を直す
自動化の話になると、つい「どんな関数・マクロを使えばいいか」という話から入りがちです。でも現場の順番は逆でした。
1. まず入力ルールを決める(選択肢の固定、例外の扱い、数え方の定義)
2. そのうえで集計の関数を組む
この順番で作ると、集計は驚くほど素直に動きます。逆に、表記ゆれのある台帳のまま高機能な集計を組むと、壊れた数字を高速で出す仕組みができあがります。
なお、これはExcelに限った話でもありません。どんなシステムに移っても、「入力の定義を先に決める」という工程は消えません。むしろ台帳の段階でこの癖をつけておくことが、将来のシステム化のときの土台になります。
次回は、物件概要シートを「物件No.を入れるだけ」で自動出力する仕組みについて書きます。
(さか店長@ちっちゃい不動産屋のプチDX記録)