「あなたの大切な思い出を、一編の小説にします」というサービスの見本です。
結婚式の引き出物として、新郎新婦のなれそめを小説にする、という想定で作りました。登場する二人と、ヒアリングの内容は、すべて架空のものです。
まずは、ご依頼者様に書いていただくヒアリングシートの回答例です。
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【ヒアリングシート(ご依頼者様:新郎)】
1. 小説にしたい思い出:高校の3年間、同じクラスでしたが、ほとんど話したことはありませんでした。卒業して10年後、28歳の冬の同窓会で再会して、半年後に付き合い始め、2年後にプロポーズしました。
2. 読む人:結婚式の引き出物として、ゲスト(約60人)に配りたいです。
3. 登場する人:新郎・浅野 湊、高校では野球部の補欠でした。新婦・森川 千晴、放送委員で、昼の校内放送で毎日、曲の前にその日の天気の話をしていました。
4. 登場する人どうしの呼び方:高校のころは「浅野くん」「森川さん」。今は「湊」「千晴」です。
5. 覚えている細かいこと:同窓会は12月、駅前の居酒屋の2階の座敷でした。千晴はベージュのコートで、車で来ていたので乾杯はウーロン茶でした。
6. 覚えている言葉:同窓会で千晴に「寄せ書きに『放送、毎日聞いてた』って書いたの、浅野くんでしょ」と言われました。卒業アルバムの寄せ書きのページです。
7. 言えなかったこと:高校のとき、昼の放送のリクエストに、一度だけ名前を書かずに曲を出したことがあります。
8. 雰囲気:あたたかくて、少し笑える感じで。
9. 書き方:おまかせします。
10. 創作の扱い:おまかせします。
11. 入れてほしいこと:寄せ書きの言葉。書かないでほしいこと:昔の恋人の話。
12. 名前の扱い:実名でお願いします。
13. 使う日:来年5月の結婚式です。
【ヒアリングシート(二人目の方:新婦)】
1. 覚えている細かいこと:座敷が寒くて、ずっと足元の電気ストーブの前にいました。浅野くんは、高校のころより声が低くなっていました。
2. 覚えている言葉:同窓会の帰り道、駅まで送ってくれたときに「放送、ほんとに聞いてたよ」と言われました。
3. 言えなかったこと:名前のないリクエストを出したのが浅野くんだと、本当は気づいていました。リクエスト用紙の字が、寄せ書きの字と同じだったからです。
4. 入れてほしいこと:高校のときの、昼の放送のこと。
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この回答をもとに書いた小説です。約6,000字です。
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『これからの天気』
-昼の放送-
十二時四十分になると、森川千晴は教室を出て、職員室の隣の放送室へ向かう。
四畳半ほどの部屋に、古いミキサーと、CDプレーヤーが二台と、マイクが一本。小さな窓が、校庭のほうを向いている。森川は二年生の春から放送委員で、昼休みのはじめに、その日の天気を全校に読み上げる係だった。
椅子に座り、マイクの角度を指で直して、スイッチを入れる。
「お昼の放送の時間です。本日の天気は、晴れ。午後からは少し雲が出て、風がやや強くなるでしょう」
原稿は、朝刊の天気予報欄を書き写したものだった。それを、なるべく本物のお天気キャスターのように読む。読み終えたら曲を一曲かけて、森川の昼の仕事は終わる。
ただ、この学校は山のふもとにあって、新聞の予報は、ずっと海寄りの県庁所在地のものだった。森川が「晴れ」と読んだ日の午後に、校庭に雪がちらついたことがある。「くもり」と読んだ日に、雲一つない青空が広がったこともある。もちろん、当たる日もあった。けれど、当たった日のことは誰も覚えていなかった。いつのまにか、その予報は全校で「森川予報」と呼ばれるようになっていた。
放送を終えて教室へ戻る廊下で、窓の外を指さして笑う声が聞こえることがあった。森川はそのたびに、少しだけ歩く速さを上げた。
森川は、新聞を正確に読んでいるだけだった。それでも、外れた日に笑われるのは自分の声だということを、森川はよく知っていた。
十一月の、ある月曜日。
放送室の扉の横には、リクエストボックスが掛かっている。牛乳パックを切って、画用紙を貼っただけの箱だ。森川は箱を開けて、中の用紙を机の上に広げた。いつもどおり二十枚ほど。たいていは流行りの曲で、どれにもペンネームが書いてある。箱の横には「お名前(ペンネーム可)のないリクエストは放送できません」という貼り紙がしてあった。放送委員会の決まりだった。
その中に一枚だけ、名前の欄が空いている用紙があった。
曲名の欄には、森川の知らない、少し古い曲の名前が書いてあった。その下の「ひとこと」の欄に、小さな字で、こうあった。
《森川さんの予報が当たった日に、かけてください。》
森川は、用紙を三回読み直した。
からかわれているのかもしれない、と最初は思った。けれど、字が丁寧だった。鉛筆で一字ずつ書いて、消しゴムで消したあともある。とくに「日」の字が変わっていた。四角の右側の縦線だけが、下にちょこんとはみ出している。小さな足が一本、生えているように見えた。
森川は、その用紙を、ほかの用紙の束には戻さなかった。机の引き出しを開け、いちばん奥にしまった。
名前のないリクエストは、放送できない。決まりは、森川もよく分かっていた。
それでも、予報が当たった日には、森川は引き出しを開けて、その用紙を眺めた。それから、また奥にしまった。
次の日、森川は「晴れ」と読んだ。午後から雪が降った。その次の日は「くもり」と読み、一日じゅう、空はよく晴れていた。
放送室の小さな窓から、森川は空を見上げた。それから椅子に座り直して、マイクのスイッチを入れた。
「お昼の放送の時間です。本日の天気は――」
-寄せ書き-
卒業式が終わった教室には、サインペンの匂いがこもっていた。
卒業アルバムのいちばん後ろには、白いページが二枚ついている。机から机へアルバムが回り、そのページに言葉が書き足されていく。「また遊ぼう」「元気でね」。色とりどりの字が、少しずつページを埋めていた。教室の後ろでは、誰かのアルバムを囲んで笑い声が上がっている。
浅野湊は、野球部だった。三年間、試合のほとんどをベンチで過ごした。
その浅野の机に、森川千晴のアルバムが回ってきた。
浅野は、ペンのキャップを外したまま、しばらく動かなかった。三年間同じクラスで、森川と交わした言葉は数えるほどしかない。プリントを後ろに回したときの「はい」と、落とした消しゴムを拾ったときの「ありがとう」くらいだった。
書きたいことは、あった。浅野は一度ペン先を紙に近づけ、また離した。
それから、ページのすみに小さく書いた。
《放送、毎日聞いてた》
名前の一文字目を書きかけて、ペンが止まった。浅野はそのまま、キャップを閉めた。
「毎日」の「日」の字は、いつものように、右下が少しはみ出していた。小学生のころからの癖で、何度直そうとしても直らなかった字だ。
アルバムは、次の机へ回っていった。浅野はその行方を目で追わずに、窓の外を見た。三月にしては、よく晴れていた。
前の日の最後の放送で、森川は今日の天気を「くもり」と言っていた。
-十年後の座敷-
十二月の第二土曜日。駅前の居酒屋の二階の座敷に、三年三組の同窓生が二十人以上集まっていた。
古い建物で、すきま風が畳の上を這っていく。部屋の隅に電気ストーブが一台だけあって、森川千晴はその前に座っていた。ベージュのコートを脱がないまま、膝をそろえて、ストーブの赤い光に両手をかざしている。
十年ぶりの座敷は、懐かしい名前と笑い声であふれていた。森川はあちこちに「久しぶり」と言い、聞かれるたびに、今の仕事と住んでいる町を答えた。乾杯のグラスはウーロン茶だった。車で来たので、と説明すると、たいてい相手は感心した顔をした。森川にしてみれば、ここまでの夜道を歩くより、ずっと寒くない方法を選んだだけだった。
座敷のあちこちで笑い声が上がり、グラスの触れ合う音がした。そのあいだにも、すきま風は止まなかった。森川は、ストーブの前から一歩も動かなかった。誰かが話しかけに来ると、少し体をずらして、赤い光を半分だけ譲った。
階段のほうで、誰かを迎える声がした。
「遅れてごめん。久しぶり」
森川は、ストーブにかざしていた手を、少しだけ引っこめた。
入口に、浅野湊が立っていた。肩についた冷たい外気を払うようにして、近くの席の同窓生に頭を下げている。背は高校のころと変わらない。変わったのは声だった。森川が覚えている声より、少し低かった。
浅野はコートを脱いで、座敷の奥へ進んでいった。途中で誰かに肩を叩かれ、短く笑った。笑い方は、高校のころと同じだった。
浅野の席は、森川から、ちょうどテーブル一つ分離れたところになった。
*
話の切れ目に、浅野は何度か、ストーブの前を見そうになった。そのたびに、手元の枝豆の皿に目を落とした。枝豆は、思ったより早くなくなった。
お開きが近づいたころ、浅野が席を立って戻ってくると、ストーブの前の席が一つ空いていた。森川の隣だった。
浅野は少し迷ってから、そこに座った。ストーブの前は、確かにあたたかかった。
「浅野くん」
座ってすぐ、森川が言った。
「寄せ書きに『放送、毎日聞いてた』って書いたの、浅野くんでしょ」
浅野は、持っていた枝豆のさやを、皿ではなく、自分のおしぼりの上に置いた。
「……なんで」
「名前がなかったの、あれだけだったから」
森川はそれだけ言って、ウーロン茶を飲んだ。名前がないのに、なぜ自分だと分かったのか。浅野は聞き返そうとして、口をつぐんだ。聞けば、自分が書いたと認めることになる。認めたも同然の顔をしていることは、浅野自身にも分かっていた。
「声、低くなったね」と森川が言った。
「そう?」
「さっき、入ってきたとき。高校のころは、もうちょっと高かった」
浅野は、乾いている手を、もう一度おしぼりで拭いた。それから、ストーブの赤い光を見たまま聞いた。
「天気、まだ言ってるの?」
「毎朝、言ってるよ。自分にだけ」
「当たる?」
「たまに」
森川は、少しも悔しくなさそうに言った。浅野は、こらえきれずに笑った。笑った拍子に、膝がストーブに近づきすぎて、慌てて座り直した。
会がお開きになって外へ出ると、空気が冷たかった。森川の車は、駅の横の駐車場に停めてあるという。
「送るよ。駅まで」
「すぐそこだよ」
「すぐそこまで」
森川は少し笑って、うなずいた。
吐く息が白かった。駅前のロータリーでは、タクシーが一台、エンジンをかけたまま客を待っていた。二人の足音だけが、少しずれて響いた。
駅までは、三分もかからない道だった。浅野はその三分のあいだに言うことを、階段を下りるあいだじゅう考えていた。考えたわりに、口から出たのは一言だけだった。
「放送、ほんとに聞いてたよ」
森川は、ベージュのコートのポケットに手を入れたまま、前を向いて歩いていた。
「知ってる」
浅野は、その一言の意味を考えながら歩いた。考えているうちに、駐車場の灯りが見えてきた。
駐車場の手前で、森川は振り返った。
「明日の天気、言おうか」
「……どうせ外れるんでしょ」
「外れるけど」
森川は、星の少ない空を見上げた。
「明日は、晴れ。冷え込むので、あたたかくしてお出かけください」
次の日、浅野の住む町には、昼過ぎから雪がちらついた。浅野は窓の外を見て、少し笑った。
-それから-
同窓会から半年たった六月に、二人は付き合い始めた。
呼び方は、しばらく「浅野くん」と「森川さん」のままだった。先に変えたのは千晴のほうで、ある晩の電話で、何の前置きもなく「湊」と呼んだ。湊は電話を耳に当てたまま、部屋の中を一周した。
湊と千晴になってから、二人の暮らしには、天気の話が増えた。
千晴は今でも、出かける前に必ず天気を言う。玄関で靴を履きながら、「本日の天気は、くもり。夕方から冷えるでしょう」。湊はそれを聞いて、念のため上着を一枚多く持って出る。当たる日も外れる日もあるが、上着が多くて困ったことは、まだ一度もない。
初めて二人で出かけた日、千晴の予報は「晴れ」で、空は一日じゅう曇っていた。湊はその灰色の空の写真を一枚撮って、今もスマートフォンに残している。
二度目の冬が過ぎて、三年目の春、二人は一緒に住む部屋を決めた。部屋探しで千晴が出した条件は、一つだけだった。窓が大きくて、空がよく見えること。
-今日の天気-
引っ越しの前の日、湊は千晴の部屋で、段ボール箱に本を詰めていた。
朝、千晴は玄関で言った。「本日の天気は、晴れ。風もなく、おだやかな一日になるでしょう」。湊は窓の外を見た。空は、その言葉どおりに晴れていた。カーテンを外した窓から、三月の光がまっすぐ差し込んでいる。千晴は窓をちらりと見て、湊に背を向けたまま、小さくこぶしを握った。
千晴の本棚は、手前と奥の二列になっていた。手前の文庫本を箱に移すと、奥から、見覚えのある背表紙が出てきた。紺色の布張りに、金の文字。高校の卒業アルバムだった。
「これ、どっちの箱?」
「あ、それは、手で持っていく」
台所から千晴の声がした。食器を新聞紙で包む音が続いている。
湊がアルバムを持ち上げたとき、後ろのほうのページから、一枚の紙が滑り落ちた。
画用紙を切った、細長い紙だった。上のほうに「お昼の放送 リクエスト用紙」と印刷してある。曲名の欄に、少し古い曲の名前。名前の欄は、空いていた。その下に、鉛筆の字で。
《森川さんの予報が当たった日に、かけてください。》
湊は、その紙を拾い上げたまま、しばらく動かなかった。
高校二年の十一月だった。昼休みの廊下で、誰も見ていないことを確かめてから、牛乳パックの箱に入れた。名前の欄に書きかけた「浅」の一画目を、消しゴムで消した感触まで、湊の指は覚えていた。
台所の音が止んでいた。振り向くと、千晴が、新聞紙に包みかけの茶碗を持ったまま、こちらを見ていた。
「……あのさ」と湊は言った。
「うん」
「これ、俺なんだけど」
言ってから、湊は小さく顔をしかめた。十何年も黙っていたことを打ち明けるにしては、あまりに素っ気ない言い方だった。
千晴は茶碗を新聞紙ごとテーブルに置いた。それから湊の隣にしゃがんで、アルバムのいちばん後ろのページを開いた。白いページに、色とりどりの寄せ書き。そのすみに、小さく。
《放送、毎日聞いてた》
千晴は、リクエスト用紙を、その横に並べた。
「日」
千晴の指が、二つの「日」の字を、順番に指した。どちらも、四角の右側の縦線が、下にちょこんとはみ出していた。湊は思わず、自分の右手を見た。
「……いつから」
「寄せ書きを読んだ日から」
千晴は、アルバムのページを指でなでた。
「だから、この紙、ここに挟んでおいたの。卒業してから、ずっと」
湊は何か言おうとして口を開け、そのまま閉じた。
同窓会の座敷で「浅野くんでしょ」と言われたとき。駅まで歩いた三分間に「知ってる」と返されたとき。あのときにはもう、千晴は知っていたのだ。
「じゃあ、なんで言わなかったの」
「浅野くんが言うまで、待ってた」
久しぶりにその呼び方をされて、湊は思わず背筋を伸ばした。
「……長くない?」
「長かった」
千晴は笑った。それから、リクエスト用紙を指でつまんで、湊の顔の前に差し出した。
「この曲、結局一回もかけられなかったんだよ。名前が書いてなかったから」
「知ってる。毎日聞いてたから」
湊は、リクエスト用紙を受け取らずに、ジャケットのポケットに手を入れた。中には、小さな箱が入っていた。来週の千晴の誕生日に、夜景の見える店で渡すはずのものだった。店の予約も、もう済ませてあった。引っ越しの荷物に紛れないように、ここ数日はずっと、ジャケットに入れて持ち歩いていた。
湊は、段ボール箱と新聞紙に囲まれた畳の上で、正座をした。
「森川さん」
口から出たのは、その呼び方だった。
「結婚してください」
千晴は、しばらく何も言わなかった。リクエスト用紙を持ったまま立ち上がり、窓のほうへ歩いていった。
少しのあいだ、千晴は窓の外を見ていた。それから、スマートフォンを取り出して、何かを探しはじめた。指が止まり、画面に一曲の名前が出た。リクエスト用紙に書いてあるのと、同じ名前だった。
千晴が再生のボタンを押した。少し古い、明るい前奏が、家具のなくなった部屋に流れはじめた。
千晴は、湊のほうを振り返った。背筋を伸ばして、少しだけ澄ました顔で。湊が高校の二年間、毎日、昼の放送で聞いていた声で。
「お昼の放送の時間です」
湊は、正座をしたまま、小さな箱を両手で持っていた。
「本日の天気は、晴れ。この先もずっと、晴れるでしょう」
千晴はそこで一度言葉を切って、窓の外の空を見た。
「――予報は、当たりました。名前のないリクエストに、お応えして」
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ヒアリングでいただいた一言が、どの場面になったのか、見比べてみてください。
二人が、それぞれ相手に言っていなかったこと。その二つが、物語の最後で重なります。
プロポーズの場面など、ヒアリングにない部分は、物語をつなぐために創作しました。
あなたの大切な思い出も、一編の物語にしてみませんか。