①「財産も少ないし、家族も仲がいいから大丈夫」と思っていませんか?
「わが家には大きな財産がないから、遺言書までは必要ない」
「家族も兄弟も仲がいいから、うちは大丈夫」
このように考えている方は少なくありません。しかし、遺言書が必要かどうかは、現在の財産額や家族仲だけでは判断できません。
相続が発生するのは、数年後かもしれませんし、10年以上先かもしれません。その間に、家族の状況や考え方が変わる可能性があります。
たとえば、今は独身の子どもが結婚して住宅を購入するかもしれません。子どもが成長し、教育費がかかる時期を迎えることもあります。配偶者の親に介護が必要となり、経済的な負担を抱えるケースも考えられます。
兄弟姉妹本人は仲がよくても、それぞれが家庭を持つと、背負っている責任や必要なお金は変わります。
兄弟姉妹の配偶者は原則として相続人ではありませんが、その家庭の経済状況や将来設計を通じて、遺産分割に対する考え方へ影響を与えることはあります。
「今、仲がいいから大丈夫」ではなく、「将来、家族の状況が変わっても話し合えるか」という視点で考えることが大切です。
② 相続争いは、お金持ちの家庭だけの問題ではありません
遺言書がない場合、原則として相続人全員で遺産の分け方を話し合います。
話し合いがまとまらなければ、家庭裁判所で遺産分割調停や審判を行うことになる場合があります。
「裁判所で争うのは、何億円もの財産がある家庭だけ」と思うかもしれません。しかし、実際の統計を見ると、そうとは限りません。
最高裁判所の令和7年司法統計年報によると、家庭裁判所で認容または調停成立となった遺産分割事件のうち、分割対象となった遺産額は次のようになっています。
・1,000万円以下 2,938件、約35%
・1,000万円超5,000万円以下 3,519件、約42%
この2つを合わせると、遺産額5,000万円以下の事件が約78%を占めています。
つまり、家庭裁判所まで進んだ遺産分割事件の約8割は、遺産額が5,000万円以下です。
ここでいう数字は、すべての相続のうち約8割が揉めるという意味ではありません。家庭裁判所で解決した事件を遺産額別に見た割合です。
それでも、「財産が少なければ揉めない」とは言い切れないことがわかります。
参考:[最高裁判所「令和7年司法統計年報 家事編」]
③ 家族それぞれの事情が、相続への考え方を変える
普段は仲のよい家族でも、相続時には次のような考えの違いが出ることがあります。
・親の介護を多く担ったので、その分を考慮してほしい
・思い出のある実家を残したい
・実家を使わないため、売却して現金で受け取りたい
・子どもの進学や住宅ローンのため、早く現金が必要
たとえば、親の主な財産が2,000万円相当の実家と500万円の預貯金だったとします。
長男は実家に住み続けたいものの、次男は子どもの進学費用が必要で、自分の相続分を現金で受け取りたいと考えるかもしれません。
実家を長男が取得すると、次男へ渡せる現金が足りなくなる可能性があります。かといって、実家を売却すれば、長男は住む場所を失ってしまいます。
どちらかが悪いわけではありません。それぞれに生活があり、必要なお金や守りたいものが違うためです。
遺言書があれば必ず揉めないとは限りません。しかし、本人の意思がわからないまま、残された家族だけで難しい判断をする負担は軽くできます。
④ 遺言書の必要性が高い家庭とは?
特に遺言書を検討したいのは、次のような家庭です。
・子どもが二人以上いる
・財産の中心が実家や土地などの不動産である
・再婚しており、前の配偶者との間にも子どもがいる
・子どもがいない夫婦である
・介護を担った子どもに多めに財産を残したい
・事業や不動産を特定の子どもに引き継がせたい
・相続人ではない人にも財産を渡したい
こうした家庭では、口約束だけでは希望どおりにならない可能性があります。
また、遺言書に希望を書けば、すべてがそのまま認められるわけではありません。一定の相続人には、法律上保障された最低限の取り分があります。
家族関係や財産の分け方が複雑な場合は、自己判断だけで作成せず、弁護士、司法書士、公証人などへの相談も検討しましょう。
⑤ 遺言書にはどのような種類がある?
一般的な遺言書には、主に次の3種類があります。
1.自筆証書遺言
本人が基本的に自分で書いて作成する遺言書です。
主な特徴
・費用を抑えやすい
・自分のタイミングで作成できる
・決められた形式を守らないと無効になる可能性がある
・自宅で保管すると、紛失や書き換え、発見されないリスクがある
紛失や書き換えを防ぐ方法として、法務局の「自筆証書遺言書保管制度」を利用できます。
ただし、法務局では遺言内容の法的な有効性まで確認してくれるわけではありません。内容に不安がある場合は、作成前に専門家へ相談すると安心です。
2.公正証書遺言
本人が公証人に希望を伝え、その内容をもとに公証人が作成する遺言書です。
主な特徴
・公証人が関与するため、形式上の不備が起こりにくい
・原本が公証役場で保管される
・紛失や書き換えの心配が少ない
・作成には費用がかかる
・原則として証人2人の立ち会いが必要
財産や家族関係が複雑な場合や、確実性を重視したい場合に検討されることが多い方法です。
3.秘密証書遺言
遺言の内容を秘密にしたまま、遺言書が存在することを公証人と証人に確認してもらう方法です。
主な特徴
・遺言の内容を秘密にできる
・遺言書が存在することを証明してもらえる
・公証人は内容まで確認しない
・形式や内容の不備によって無効になる可能性がある
・実際には利用する人が多くない
どの遺言書が適しているかは、財産の内容、家族関係、費用、確実性によって異なります。
手軽さを優先するなら自筆証書遺言、確実性を重視するなら公正証書遺言が主な選択肢になります。
参考:[法務省「自筆証書遺言書保管制度」]
⑥ まずは財産と家族の状況を整理しよう
いきなり遺言書を書く必要はありません。まずは現在の状況を整理することから始めてみましょう。
確認しておきたいのは、次のような項目です。
・預貯金や証券口座はどこにあるか
・実家や土地などの不動産はあるか
・生命保険の契約や受取人はどうなっているか
・住宅ローンや借入金は残っていないか
・誰が相続人になるのか
・分けにくい財産はないか
・家族に伝えておきたい希望はあるか
現在の家族仲だけでなく、子どもの結婚、住宅購入、教育費、親の介護など、今後起こり得る変化も考えてみることが大切です。
遺言書は、単に財産の分け方を指定する書類ではありません。「なぜこのように分けたいのか」という考えや、家族への思いを残す役割もあります。
まとめ
「今は家族が仲良しだから大丈夫」「財産が少ないから揉めない」と思っていても、年月がたてば、それぞれの家族構成や経済状況は変わります。
実際に、家庭裁判所で解決した遺産分割事件の約8割は、遺産額5,000万円以下です。相続争いは、一部のお金持ちだけに起こる問題ではありません。
遺言書を考えることは、家族を疑うことではありません。将来、家族が判断に迷ったり、お互いの生活を守るために対立したりしないよう、元気なうちに自分の意思を整理しておくことです。
まずは財産、相続人、家族の状況を書き出すところから始めてみましょう。
何から始めればよいかわからない場合は、一度状況を整理してみることがおすすめです。
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