「深緑の森の隠れ家」から招待状が届いた、眠りが浅い方あなたへ。
深い眠りを取り戻す旅に出る前に、まず駅のロッカーに置いていきたい荷物がひとつあります。
## 旅に出る前に、まず置いていくもの
それは、「その日の疲れ(体のこわばり)を、その日のうちにリセットしないで積み重ねてしまう」という習慣です。
忙しい一日の終わりに、自分の疲れを丁寧にケアする気力も時間も残っていないという気持ちは、痛いほどよく分かります。ですが、その「疲れを持ち越す選択」の積み重ねが、体の緊張をどんどん根深いものにし、睡眠の質を根本から奪ってしまっているのです。
## なぜ「疲れの持ち越し」が眠りを浅くするのか
「寝れば治るだろう」と、その日の緊張や疲れをリセットしないままベッドに入ると、体は筋肉がこわばった(交感神経が優位な)状態のまま次の日を迎えることになります。
医学的にも、日々の小さなストレスや身体的緊張がリセットされずに蓄積していく状態を「アロスタティック負荷(Allostatic load)」と呼びます。この負荷が積み重なるほど、脳は常に「警戒している状態(戦い・逃走モード)」から抜け出せなくなります。
すると、深い眠り(徐波睡眠)に入るために必要な「リラックスのスイッチ(副交感神経)」が物理的に入りにくくなります。結果として、気絶するように寝つくこと自体はできても、脳が休まるほどの「眠りの深さ」が伴わない、朝から疲れているという状態が慢性化してしまうのです。
## 荷物確認、一緒にしてみませんか
「疲れを持ち越す習慣」の他にも、あなたの旅行カバンを重くしているものがあるかもしれません。
日中の無意識な猫背気味の姿勢、ストレスによる就寝中の歯の食いしばり、脳を覚醒させてしまう就寝前のスマホ時間——。人によって、隠し持っている荷物はさまざまです。
あなた専用の「旅のしおり(ロードマップ)」を作りながら、専属コンダクターの私と一緒に荷物を確認してみませんか。
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― Dóna Salus ―
【今回のキーワード】
「アロスタティック負荷(Allostatic load)」
【参考】
論文タイトル: Protective and damaging effects of stress mediators(ストレスメディエーターの保護作用と損傷作用)
著者: McEwen BS.
掲載誌: The New England Journal of Medicine(1998年)
内容:
人間の体には、ストレスが起きた時にホルモンや自律神経を調整してバランスを保とうとするシステム(アロスタシス)が備わっています。しかし、慢性的なストレスや過労によってこのシステムが「常にオン(フル稼働)」の状態になり続けると、システム自体が過剰な負担を強いられ、心身の組織が物理的にすり減ってしまいます。マキューエン博士は、この「慢性ストレスによる心身の摩耗や損傷(Wear and Tear)」を『アロスタティック負荷』と定義し、これがのちの免疫低下、肥満、睡眠障害、うつ状態の根本原因になるメカニズムを世界で初めて明確に示しました。
論文タイトル: Allostatic Load and Its Impact on Health: A Systematic Review(アロスタティック負荷と健康への影響:システマティックレビュー)
著者: Guidi J, et al.
掲載誌: Psychotherapy and Psychosomatics(2021年)
内容:
日々の仕事のプレッシャーや人間関係などの心理的ストレスが、いかにして脳内ネットワーク、自律神経系、内分泌系(ホルモン)を過剰に刺激し、アロスタティック負荷(ダメージの蓄積)を増大させるかをまとめた最新の研究です。この負荷が高まりすぎると、体は「これ以上ストレスに耐えられない」と判断し、システムが破綻(燃え尽き症候群や慢性疲労症候群などを発症)します。重要なのは、アロスタティック負荷は「一晩たっぷり寝た」くらいではリセットされないほど、細胞レベル・神経レベルで深く蓄積してしまっている負債であるという医学的事実を報告している点です。