第3話|がんばりすぎた、あなたへ ― 鑑定室の物語

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※「鑑定室の物語」は、月夜の鑑定室を訪れる方々の物語を綴る連作です。

その方は、お辞儀の角度まで、きれいな方でした。背筋がまっすぐで、所作のひとつひとつが丁寧で。けれど、その美しい姿勢は、長いあいだ「きちんとしていなければ」と自分に課し続けた、緊張のかたちでもありました。

「悩み、というほどのことでもないんです。仕事も、家のこともやれてる。困ってることなんて、本当はない。ただ……なんだか、ずっと疲れていて」

お話を聞くうちに、見えてまいりました。職場では頼まれごとを断れず、後輩のフォローも気づけば自分のところへ。家でも家族の世話、ご両親のことも。

「わたしが我慢すれば、誰も困らないので。それでいいと思ってたんです。でも最近、朝起きるのがつらくて。何が楽しかったのか、思い出せなくて」

わたくしは、ひとつ尋ねました。「あなたは今日まで、たくさんの方を支えてこられたのね。では——あなた自身のことは、誰が支えてさしあげていたの?」

その方は、はっとした顔をなさいました。ご自分を支えてくれる人の名前を探して、言葉が出てこない。

引いたのは「女帝」のカードでした。豊かな庭で、やわらかなクッションにゆったりと座る、豊穣の女神。

「ごらんなさい。女帝は、立って働いてはいないでしょう。ゆったりと座っているの。『豊かさは、自分を満たすことから生まれる』という教えなのよ。枯れた井戸からは、水は汲めないでしょう? あなたは今、ご自分の井戸を、からからにしてしまっているの」

「自分を優先するなんて、わがままな気が……」

「わがまま、ではありませんわ。あなたが自分に優しくできたとき、その優しさは、まわりにももっと自然に流れていくの。あなたが休むことは、誰かを見捨てることではないのよ。今日くらいは、月に免じて、ご自分を甘やかしてあげてくださいな」

その方は、ふっと肩の力を抜いて、ひとつ思い出を口にされました。「わたし、昔、お風呂にゆっくり入るのが好きだったんです。もう何年も、シャワーで済ませてて」

「ぜひ、湯船にお湯を張ってみて。それが、あなたの井戸に、最初の一滴を注ぐことになりますわ」

帰り際、その方の背中は、来たときよりずっとやわらかく見えました。

自分を大切にすることは、わがままではありません。それは、あなたの優しさを、これからも長くまわりに分けていくための、いちばん大切な準備なのですわ。

がんばりすぎて、自分が空っぽになっていませんか。

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